第四十一話:クルゼレイ・アスモデウス
作戦の日。一誠は特に気張るでもなく、自然体で欠伸をしながら準備を終えていた。
場所は一誠の家でも良かったのだが、イリナがいる以上は少し面倒な事になる。故に、場所は近辺に用意したアジトから移動する。
プリシラも用意は出来ている様で、物静かに作戦開始の時間を待っている。
──そして、時が来た。
「ゲオルク、準備は?」
『万全だ。こっちは何時でも行ける』
「よし。それじゃあ、早速やるか」
魔術による遠隔通信を終え、軽い調子で作戦開始の合図を告げる。やる事は単純明快──このレーティングゲームを乗っ取る事だ。
右手に持った杖を一度回し、地面を突いて陣を展開させる。別の場所にいるゲオルクと連携し、中に入ることも中から出ることも出来ない結界を作る。
「北欧の神──特に、オーディンは面倒だからな」
厄介な神を脳裏に思い出しながら、陣を多数展開させてゲオルクが作り出した結界をより強固に作り変えていく。
「時間としてはどの程度ですか?」
「精々二、三十分が限度だろう。あの爺、ミーミルの泉に片眼を差し出してるからな。魔術に関する知識が無いとは言い切れない」
それに、オーディンほどの魔法の使い手なら、魔術を織り交ぜた結界でさえすりぬける可能性がある。神と言う存在を侮る訳にはいかない。
もっとも、三十分もあれば、旧魔王派だけでもある程度は負傷させる事が出来る。オーディンが出張るようなら、一誠自身が出向けばいい。プリシラに余り無理をさせる局面では無いのだから。
「いけ、プリシラ。作戦開始だ」
「了解しました」
足元に展開された魔法陣を使い、プリシラは結界の中へと転移した。
●
そこは神殿だった。一定間隔で巨大な柱が立ち並び、石畳が敷かれている、荘厳な神殿を模した戦場。
奇しくも、そこはプリシラがディオドラを殺した場所とよく似ていた。
百や二百ではきかない数の悪魔達を味方につけ、その事に嫌悪感で顔を歪めるプリシラは、目的であるグレモリー眷属を見つける。
陣形は戦闘能力のないアーシアを囲んで、全方位へ向いての迎撃。もっとも、それ以外にどうにかする方法があるかと言えば、簡単には思い付かないのだが。
リアス達の実力を考えても、この数の上級悪魔達を相手に一騎当千の活躍が出来る実力者がいる訳でも無い。博打では無く保険を選んだのだ。
とは言っても、このままでは数で押し潰されても何らおかしくは無いのだが。
それはプリシラには関係無い。自分に与えられた役目を果たすだけ。旧魔王派の思惑などどうでも良いが、それによって面倒事がフィアンマの元に行くのは避けたい。それ位の考えだろう。
動こうとした直前、悪魔の誰かが話し出した。
「はじめまして、忌々しき偽りの魔王の血縁者、リアス・グレモリー。我々の目的のために散って貰う」
その声に含まれているのは、彼らが敬愛する『真なる魔王』と呼ぶ者達が抱くものと同じ怒りか、それとも彼らの言う『偽りの魔王の血縁者』を殺せるという愉悦か。
まぁ、どちらにせよ、リアス達にとって絶体絶命の状況である事に違いは無い。
リアス達の目がそちらに向いている間に、高速で木場とリアスの間をすり抜け、アーシアを攫う。
「キャッ!?」
「アーシアさん!?」
木場が焦った様に声を出すが、既に遅い。アーシアはプリシラに気絶させられたようで、腕の中でピクリとも動かない。
「アーシアを離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
デュランダルを持ってプリシラに斬りかかるゼノヴィアだが、間にいる悪魔達に遮られ、弾き飛ばされる。如何に聖剣を持っていようと、数の暴力には成す術は無いのだ。
計画に必要なこととはいえ、「守られた」という一点で酷くイラつきが増してくる。このままここにいては、自分の手で旧魔王派の悪魔を殺してしまいそうだ。
「……この子を助けたいのであれば、神殿の最奥に来る事です」
それだけを短く告げて、足元に広がった魔法陣の効果でプリシラは転移した。
転移したことを確認した後、悪魔達は一斉に魔力弾を放とうと準備をし始める。魔力量から考えても、中級から上級。今のリアス達には荷が重い相手だろう。
「くっ、厄介な……」
舌打ちしながらも、リアスは生き残ってアーシアを救う為の策を練り始める。この状況では、自分たちが生き残れるかどうかすら怪しい。
サイオラーグ達と合流する事も考えに入れた上で、リアスが取った行動は──
「……一点突破か耐久戦ね。アーシアが要になる作戦だけど、仕方ないわ」
全方位を囲まれていては防御もままならないため、一点突破で突き破った後に一方向からの攻撃を防ぎつつ迎撃。
もしくは、このままの位置で建物を使って攻撃を防ぎながらの迎撃。
正直に言えば、どちらもアーシアがいなければ成功率は決して高くない。それほどにアーシアの回復要員としての立場は大きいという事。
故に、どれだけ負傷しないかが要となり得る。
「朱乃ッ!」
「雷光よ!!」
リアスの合図とともに雷光の一撃が放たれ、その隙間を縫うように木場とゼノヴィアが動き出す。小猫は近場にいる敵の迎撃に集中し、リアスと朱乃は強大な魔力による後半に攻撃を放ち続ける。
十数分の戦闘で、一体どれだけの数の悪魔達を屠っただろうか。
余りの数に精神的な圧迫を受け、物理的なダメージも多々ある。真正面からの戦闘が得意なパワータイプが揃っているグレモリー眷属だが、この悪魔達はそれだけでは無い。
徐々に、徐々に消耗していく。
死と隣り合わせという状況で、更に数が増えつつあるというこの状況で──一つの魔法陣が現れた。
「ふむ。既に戦闘ははじまっておる、か。この数を相手に生き残っておるんじゃし、まぁ及第点かの」
ローブ姿の隻眼の老人。白く長いあごひげを撫でつつ、杖で地面を叩いて飛んでくる魔力弾を一斉に無効化する。
「遅れて悪かったの、ちょいと面倒な仕組みをかけられていて侵入に手間取ったんじゃ」
「オーディン様! どうしてここに!」
驚きの声を上げるリアスだが、それを気にせず先を進める。
「話すと長くなるが、簡単に言えば『
強力な結界であるが故に、破壊も突破も難しい。ミーミルの泉に片眼を差し出し、膨大な英知を手に入れたオーディンだからこそ出来ることだ。
しかし、「魔術」と言う技術は「異界の法則をこの世界に適用させる」事に他ならない。
故に、その異界の法則そのものを知らないオーディンには、魔術を組み込まれた結界を解くには相当の時間が必要だった。イヴァンが力を貸したことで、ある程度は速く突破できたようだが。
元々この世界には存在しない筈の技術だ。ミーミルの泉が叡知を与えたからと言って、その中に魔術の知識があるとも考え辛い。
「それよりも、ほれ。アザゼルの小僧からの送りもんじゃ。まったく、年寄りを使いに出すとは何を考えておるんじゃ……」
ぶつくさと言い始めたオーディンから通信機を受け取り、耳に付ける。
それを確認し、オーディンは左手に一つの槍を出現させた。
「此処はわしが引き受けてやろう。偶には運動せんと鈍るでな──グングニル」
槍に凄まじいまでの莫大なオーラが集まり、一直線に悪魔達を消し飛ばしながら飛んで行く。槍によって放たれた一撃が通った場所は、大きく抉れていた。
圧巻の一撃に、オーディンの首を取ろうと勇んでいた悪魔達の顔色が変わる。当のオーディンは軽い調子で、リアス達の方へ視線を向ける。
行け、という合図だと受け取り、一度頭を下げてからリアス達は走り出した。
「さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。このジジイは想像を絶するほど強いぞい」
その言葉に触発されたのか、神殿へと向かうリアス達を殺す為、オーディンを殺そうと悪魔達が猛威を振るった。
●
アザゼルはリアス達と連絡をとり、直ぐに安全な場所へと誘導しようとした。
だが、「アーシアを助ける」の一点張りでアザゼルの意見を聞き入れなかった。仲間を助けるために、必死な様子だったからだ。
最終的にアザゼルが折れ、「サイラオーグ達と合流する事が最優先」として通信を終えた。
教え子であるリアス達の事は、少なからず心配である。だが、それ以上の問題が、このレーティングゲーム場に存在していた。
──ファーブニルを宿した宝玉が、こちらに向いている。
それだけで警戒するには十分過ぎる。オーディンの力でこちらへと転移してからと言うもの、何かに反応する様に輝いているのだ。気にならないと言えば、嘘になる。
フィールドの隅っこにいる二つの影──黒髪が腰まであるワンピースの少女と、紅いローブを纏った青年。
少女──オーフィスは、視線をアザゼルに向ける事無く神殿の方を見ている。青年──フィアンマも同様だ。
「──まさか、お前が出張ってくるとはな」
オーフィスはアザゼルの声に反応し、薄く笑いながら話しかける。
「アザゼル。久しい」
「以前は老人の姿だった気がするんだがな。今度は美少女の姿か。何を考えている? オーフィス」
アザゼルとしては、オーフィスが此処まで出張っている以上、この作戦はそれほど重要なものではないかと考えている。
だが、それにしては計画の立て方がずさん過ぎる。どれほどの参謀がオーフィス側にいるかは分からないにせよ、今回の事が考えて精一杯の計画なら恐れるに足らない。
無論、そんな楽観的な考えなど直ぐに捨てたが。
視線を神殿の方に向けていたから、そちらに作戦の中心がある可能性が高い。リアス達がいる以上は気にしてしまうものの、今この場で考えても仕方が無いと切り替える。
「見物、それだけ」
「高みの見物ね……それにしても、ボスがひょっこり現れるとは思わなかった。お前を倒せば世界は平和か?」
光の槍を振ってオーフィスに問うが、気にした様子も無く首を振って否定した。
「無理。アザゼルでは我は倒せない。それに──」
「俺の事も、忘れて貰っちゃ困るな」
フィアンマがはじめて口を開く。深めにフードを被っている為素顔は見えないが、唯の人間とは違う奇妙な雰囲気に視線を奪われる。
「……お前が『右方のフィアンマ』か?」
「そうだが、右方までは名乗った覚えは無いな。バラキエルか朱乃辺りから聞いたのか?」
左手はポケットに入れたまま、右腕はだらりと下げており、戦闘する気は皆無にしか見えない。
「まぁ、別にどうでもいいか。大した意味は無いんだし」
「……お前が『右方』って事は、『左方』や『前方』、『後方』ってのもいるのか?」
「いや、今は俺一人だし、これからも増える事は無い……いや、一応プリシラは後方の座に当たるのか」
肉体は天使に近づいているし、使う魔術も水系統が殆ど。ならば、必然的に座すのは後方となる。
「お前の実力は聞いてるぜ。なにせ──」
「──この俺を戦闘不能にまで追い込んだ男だからな」
現れたのは、巨大な龍。タンニーンだ。ゲームフィールド内にいる旧魔王派の討伐に出ていた筈なのだが、一仕事を終えてこちらに来たらしい。
龍の巨大な目でオーフィスと一誠を同時に睨む。元から表情が読めないオーフィスはともかく、フィアンマは口元が見えている。しかし、微妙に歪めて笑っているようにしか見えないが。
「折角若手悪魔が未来をかけて戦場に赴いているというのにな。貴様らが茶々を入れるのが気に喰わん! あれほど世界に興味を抱かなかった貴様が、何故今更テロリストの親玉になっている! 一体何が貴様をそうさせた!」
「暇潰し──なんて、今時はやらない理由は止めてくれよな。お前の行為で既に被害が各地で出てるんだ」
オーフィスが力を貸し与えた所為で、各勢力には被害が出ている。死傷者も日に日に増え、最早無視できないほどに膨れ上がった。
遺族の恨みは、それこそ海よりも深い。
そもそもオーフィスは世界の動きを常に静観していた。それが、何をどうやればテロリストの親玉にまで成ったと言うのか。それが、アザゼルには不可解で仕方が無かった。
「──静寂な世界」
オーフィスの答えに、呆けるアザゼルとタンニーン。
「は?」
アザゼルが再び問い返すと、律儀にも真っ直ぐと視線を向け、再度言った。
「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」
次元の狭間とは、簡単に言えば「人間界」と「冥界」、「天界」の間にある壁の様な物だ。世界と世界を分け隔てる世界で、其処には何も無い。
故に、「無の世界」とも言われている場所。
「……普通ならホームシックかよと笑ってやる所だが、なるほど。確か、今あそこには──」
「そう、グレートレッドがいる」
次元の狭間の現在の支配者はグレートレッド。オーフィスはどうにかして次元の狭間に戻りたい為、旧魔王派や他の面々を使ってグレートレッドを打倒しようとしている。
ヴァーリがオーフィス側についたことに納得しながら、次はフィアンマへと視線を向け、問う。
「お前もグレートレッドを倒す為にオーフィスに協力しているのか?」
「そうだな。光栄にも、オーフィス本人から直々にスカウトされたよ。力貸せ、ってな」
「オーフィスが……? お前、それだけの力を持ってるのか?」
「まぁ、単純な力勝負なら負ける気はしないな。元竜王にも通用した力だ、堕天使の総督どのにも通用すると踏んでいるよ」
口元に笑みを浮かべるフィアンマは、右腕をゆっくりとアザゼルへ向けた。それだけで、既に決着はついたも同然。
しかし、フィアンマが次の行動を起こす前に、一つの魔法陣が輝き現れた。
現れたのは貴族服を着た一人の男。彼はアザゼルを見つけると同時に一礼し、話し始める。
「お初に、堕天使の総督殿。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団』真なる魔王派として、貴殿に決闘を申し込む」
「……旧魔王派のアスモデウスが出てきたか」
ドンッ! と黒い魔力を迸らせながら、クルゼレイは憤怒の表情に歪めつつ告げる。
「旧では無い! 真なる魔王だ! カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせて貰うッ!」
彼はカテレアの男か何かだったのだろう。彼女の事を思いつつ、オーフィスの『蛇』によるブーストで底上げした魔力を纏わせた。
最早戦闘は必至。クルゼレイは殺さない限り止まる事は無いだろう。それほどに激憤に塗れている。
「……やれやれ。いきなり出てきたかと思えば、俺を差し置いていきなり決闘か」
クルゼレイの背後、既に右腕を下ろし、興が削がれたとばかりに溜息をつくフィアンマ。
「フィアンマ……そう言えば、貴様もあの場にいたらしいな。詳しくは知らないが、ヴァーリが言っていたぞ? お前は、あの場で──」
カテレアを助けなかった事を責めるつもりだったのだろうか。クルゼレイが顔を歪め、言葉を続けようとした瞬間。
ゴッ!!! と、爆音が響き渡り、閃光が視界を塗りつぶした。
「チッ、ヴァーリの奴め。随分と口が軽いな。何処で聞かれているか分からないというのに、今後は気をつけさせないとな」
異形の第三の腕を発現させ、一瞬のうちにクルゼレイを消滅させきったフィアンマがつまらなそうに呟いた。
多少なり離れた所にいたとはいえ、それはあくまでもクルゼレイよりはと言う話。圧倒的な力の奔流にのみ込まれつつも、アザゼルが咄嗟に禁手化し相殺しようとした事によってダメージは少なく出来た。
そうは言っても、アザゼルは堕天使でタンニーンは悪魔。
聖書に置いて「滅される悪」とされる堕天使と悪魔では、聖なる右の相手をするには分が悪過ぎる。
「がぁ……っ、くそったれ……なんつー威力だよ……!」
「ぐ……あの時よりは、多少はマシか……」
クルゼレイを消し飛ばした余波でこの威力。「堕天使」である時点で既に勝率は低く、力の総量でも負けているアザゼルは、オーフィス同様「戦ってどうにかなる領域」の敵では無い事をハッキリと知覚した。
立場的にどんなものかは知らないが、オーフィスに次ぐ実力を持っている事は確かだ。
何より、味方である筈のクルゼレイを殺して置きながら、口調には何の変化も見られない。感情の揺らぎさえ存在しないその様子は、機械的であるとさえ言えるだろう。
仲間では無いと、話さずとも理解出来る間柄。利用し利用されている間柄に置いて、相手の機嫌を損ねればその時点で終わり。
元より、フィアンマには人外の存在を殺す事に忌避感など存在していないのだから。
「……ん?」
そんな折、現れたのは一つの魔法陣──そして、出てきたのはサーゼクス。
「……クルゼレイは……」
「ああ、俺が殺したよ、現魔王サーゼクス。アンタの事だから、話し合いでもするつもりだったのかもしれないけど」
「……そうか」
冥界の辺境へと旧魔王の関係者を追いやった事を、サーゼクスは後悔していた。故に、クルゼレイと話し合い、和解の道を示そうとした。
しかし、それは二度と叶う事は無い。否、元より叶う事のないことだ。
サーゼクスが魔王である限り、考え方が根本から違う旧魔王派の面々とは話し合いなど意味を成さない。
だが、戦争を嫌う彼は、それでもオーフィスと交渉しようとする。
「オーフィス。私は貴殿と交渉がしたい。この冥界に、争いは必要ないのだ」
「我の蛇を飲み、誓いを立てるのなら。もう一つ、冥界周囲に存在する次元の狭間の所有権、それ、全部貰う」
「人間界に……人間に対して今後二度と関わりを持たない、としてくれるなら、俺としては乗っても構わないがな」
オーフィスが欲するのは服従と冥界の閉鎖。それは、フィアンマの言う人間に対して関わり合いを持たないということにも通じる。
冥界を背負っている魔王である以上、フィアンマの言う事はともかく、オーフィスの言った事に応じる訳にはいかない。
「……貴殿は」
「おっと、自己紹介が遅れた。俺はフィアンマ。魔術派のトップをやっている者だよ」
「フィアンマ……ならば、人間と今後関わりを持たなければ、貴殿は『禍の団』から抜けると言うのか?」
「んー……そうじゃない。俺がオーフィスに協力している理由を教える気は無いが、少なくとも『グレートレッドを倒す』事は成し遂げる予定だ。それこそ、オーフィス本人が倒さなくていいというまではな。
だから、『禍の団』を抜ける訳じゃない。交渉に応じるなら、全ての悪魔を人間界から追放し、今後二度と侵入しないことが条件となる。お前等にとっての利点は……そうだな、仮に全てが終わった時に三大勢力が残っていた場合、手を出さないことを約束しても良い」
それは、ある意味で最も傲慢なやり方。リアスの様に人間界で学んでいる悪魔を冥界へと呼びもどし、今後二度と人間界へと立ち入らせない。
見つけた場合はすべからく死を。抗議など受け付けないし、例外など認めない。
だが、代わりに「全てが終わった後に敵にならない」と言う証明に繋がる。
しかし、だ。
「サーゼクス、そいつはちっとばっかし難しいと思うぜ」
アザゼルが口を挟み、意見を唱える。
証明と言うのは、少なからず信用が必要となる。現段階で「テロリスト」であるフィアンマの何を持って、先の言葉を信用できると言うのか。
それに、魔術派と言う事は魔導書を奪ったのもこの男達だと容易に想像がつく。そして、悪魔・堕天使の混合部隊を殲滅したのも、恐らくはこの男。
味方には、なりえない。
「まぁ、言ってみただけだ。最初から交渉に応じる気は無い。オーフィスの要求に応じられないなら、尚更にな」
フィアンマの言った事は、オーフィスの要求が通れば達成される。
それに、フィアンマはオーフィスとの約束が達成されるまで傍を離れるつもりは無い。仮に先の交渉が上手くいっても、オーフィスの目的が達せられるまでは効力を発揮し得ないのだから。
「交渉は決裂。止めたいのなら実力でやるんだな」
第三の腕を妖しく輝かせながら、フィアンマはそう言って構えた。