第五十話:覇龍<ジャガーノート・ドライブ>
一誠の姿が赤い鎧に包まれていく。
以前見せた
その周辺には赤いオーラの様なものが吹き荒び、仮に四方に壁があった場合、問答無用で吹き飛ばしそうな勢いを持っていた。
「頭に来たぜ、流石に。雑魚から狙うのは当然だが、戦う事すら放棄するとは思わなかったぜ」
両手を広げ、その掌の上に赤く染まった球体を作り出す。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
凄まじい勢いで球体が大きくなっていき、一度圧縮する様に小さくなる。一誠の放つ殺意が刃の様に鋭く尖り、死角から接近してきたハティへと直撃する。
正面に立っただけで身がすくむ様な威圧感だが、当然それだけで止まる存在では無い。被弾覚悟で一誠へと牙をむき、紙一重で避けられた直後に右手の球体を撃ちこまれた。
オオオオオォォォォォォォォォン──!
悲痛な叫び声が宵闇に木霊し、一誠は止めを刺すかの如く右手に持った杖を振り下ろす。
直後、魔術によって発生した爆炎がハティを飲み込み、さながら流星のようにして墜落していく様を見せつけた。
「この程度か。手間を取らせるなよ」
右手に持ったままの杖を『赤龍帝の籠手』と同化させ、鎧の内部へとしまい込む。これで、両腕を開けたまま魔術の使用が可能となった。
手の内を見せることには何ら忌避感は無い。対策を立てようとも真正面から打ち砕く。オーフィスのいる域とは、まさにそう言う場所だ。
それと同等の存在に上がる事を目的にしなければ世界の深奥を知れないだろうし、グレートレッドも倒せない。
「かかってこいよ、三下。力の差を教えてやる」
瞬間、フェンリルが一誠の視界から消える。
自身の出せる最高速を持って一誠へと近づき、その爪牙を持って一誠の身を引き裂かんとした。だが、やはりそれでは足りないのだ。
「
幾度となく魔術をぶつけ、聖なる右の反応からフェンリルの速度を割り出し、それに対応できるだけの地力と神器の能力を引き出す土台を用意する。
言ってできる程簡単なことではない。フェンリルは恐らくヴァーリよりも速いし、一撃が神さえ殺すほどの力を持っている。
だが、一誠とて肉体を擬似的に天使に近づけ、神器による身体能力の強化を行い、魔術を用いた攻撃法を用意しているのだ。『覇龍』まで使えば絶対とは言い切れないものの、およそフェンリルと同等の域にまで上がっていると見て間違いない。
もっとも、良いことばかりと言う訳ではないが。
迫るフェンリルの爪をかわし、フェンリルが一誠の球体を避けて一端離れる。一度の交戦で楽にはいかないと悟ったのだろう。実際、殺せるならここに来る前にホテル上空で既に殺している。それが出来ていない時点で、苦戦するのは自明の理と言うもの。
一誠の表情は鎧に覆われて窺い知れず、フェンリルの表情は読む事が出来ない。どちらが先に動くか、ヴァーリがロキを食い止めながらそう思考した瞬間──一誠が再度赤みがかった球体を作り出した。
フェンリルはその作り出す一瞬をついて牙を突き立てようとし、一誠はフェンリルの牙をまたも紙一重でかわす。
一誠の放つ球体の攻撃を咆哮で消そうとするも、密度の違いからそれが不可能と判断。フェンリルは身を翻して避けた。
「……チッ、流石にこれじゃあ当てるのは苦労するな」
攻撃に速度が足りない。当てるなら密着状態か、フェンリルの動きを止める必要がある。
『霊装は既に使ったからな。魔術も、そう簡単には当たってくれんだろうよ』
一誠はフェンリルの攻撃を紙一重でかわすのは、それ以上動く必要が無いからだ。完全に見切っている以上、余計な動きで消耗するのは無駄だ。
であれば、次に取るべきは二つに一つ。一誠の速度を持って、今までの様なカウンター攻撃では無く、能動的にフェンリルに攻撃を加える。問題はスタミナだが、恐らくは問題無いだろう。
もしくは、完全に受動的になり、完璧なカウンターを狙うか。どちらかと言えば、一誠が得意なのはこちらの方だ。
余計な手出しをしてこないようにとロキの方を一度確認し、その視界に白龍皇であるヴァーリが入った。
直後、耳障りな音がノイズ混じりに一誠の耳に届く。
●
『白龍皇……』
『アルビオンだ……』
『白龍皇は敵だ……殺せ』
『そうだ、殺せ。殺し合え』
『それが赤龍帝の宿命だ』
『「覇龍」は白龍皇を殺す為に存在するのだ。殺せ』
『殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ──』
歴代の赤龍帝達の声だ。目を瞑れば、椅子に座っていた彼らが黒いオーラを立ち上らせながら不気味な笑みを浮かべているのが見える。
積りにつもった怨念が、憎悪が、怨恨が、時を超えてなお神器の中に存在し続ける。「覇龍」とは、莫大な力を得ると同時に彼らの怨念をその身一つに受ける事と同義である。
ヴァーリは魔力によってそれを押さえ付け、短時間ながら「覇龍」を扱えている。一誠は普段聖なる右のそれによって封印されているが、「覇龍」を使用したことによるドライグとの同調で内部の意識が漏れ出たのだろう。白龍皇であるヴァーリを認識したことも原因の一つかもしれない。
ゆっくりと、憎悪と悪意に塗り潰される。まずい、とドライグが感じた瞬間。
「黙れ」
決して響く様な声では無い。だが、威圧感を持った厳かな声は、図らずとも彼らへ響き渡った。
「白龍皇は敵。殺すべき宿敵……まぁ、分からないでもない。先祖同士のいがみ合いが末代まで残るってのは良くある話だ。当人たちも忘れてる以上、原因も知らんしどうでもいい」
『ならば……』
「だがな、
浸食が引いて行く。一誠の威圧感に、存在感に押されるが如く、一誠にまとわりついていた黒いオーラが軒並み消え去っていく。
元より、一誠の使う聖なる右は「十字的超常現象を引き起こす」ことが可能な術式そのものだ。西洋において魔の調伏とは
怨念や憎悪と言った負の感情を悪と定め、薙ぎ払う。他の誰にも出来ない、一誠のみの方法だ。
『……本来なら、そんな簡単に行くものでも無いんだがな』
「それだけ俺の中の力が桁違いって事だろう。どの道、連中はしぶとい。まだ消えやしないだろうさ」
別に今消す必要も無い。歴代の残留思念とはいえ、今すぐ消さなければならないほど切羽詰まっている訳ではないのだ。
「さて──動くか」
そして一誠は眼を開ける。
●
それはごくわずかな時間だっただろう。
一誠が精神世界に潜る為に必要とする時間はコンマ一秒以下。精神世界でのことである為に現実の時間を必要とせず、傍から見れば意識を埋没させた直後に目を覚ました様になる。
ただし、この場においてその僅かな隙は致命的だった。
フェンリルは鎧の下で目を閉じた一誠の様子を感じ取り、迷うことなくその喉首を噛み切りに動く。
一誠は既に動き出した直後のフェンリルと相対し、僅かに左肩を鎧ごと抉られるも避け切る。魔術と神器の相乗効果で身体能力を強化した為に可能な絶技と言えるだろう。
「なめてんじゃねぇぞ、クソ野郎がッ!」
踏み込むと同時に掌に光る球体を作り出し、掌底と同時にでフェンリルの腹部を撃ち抜いた。
咄嗟に身を引いたのが功を奏したのか、フェンリルは多少ダメージを軽減させて距離を取る。遠距離戦では不利になるだけと分かっていても、至近距離では打ち抜かれる可能性も高い。ヒットアンドアウェイの戦法が最も有効だと判断したようだ。
とはいえ、一誠も完全に見切れている訳ではない。全盛期の二天龍クラスの実力を持つフェンリルが相手では、聖なる右以外での完全な反応は難しいのだ。
だからこそ、ダメージを薄皮一枚に留める。元から鎧の防御力など当てにせず、少し引っかけられれば終わりと思っていても、やらざるを得ない。
原因は不明だが、『
幾つか過程は立てられるものの、どれも未だ憶測の域を出ない。
故に『覇龍』はリスクの高い賭けにも近いが、あくまでも「相対的」な力しか出せない聖なる右よりも、「絶対的」な力を出せる覇龍の方が都合がいいと判断した。
魔術は使用可能である為、問題は無い。
「ふッ!」
息を吐くと同時にフェンリルの牙をかわし、食いちぎられた鎧部分を再生させつつ魔術での捕縛を目論む。一瞬でも動きを止めれば先程の強力な一撃が──否、あれだけの威力を持つ球体が、それこそ幾つもの数を伴ってフェンリルを襲う事だろう。
そうなれば、いかなフェンリルとて耐えきる事は難しい。
とはいえ、そう簡単にいかない程度の実力をフェンリルは備えていた。
放たれる幾つもの球体を避け、初速は一誠でさえ見逃しかねない速度を誇り、それを三次元的に利用して死角を突く戦闘法。通常の禁手なら、既に三桁は殺されていてもおかしくない。
だが、そのレベルの戦闘を可能とするのが「覇龍」である。
瞬発的な速度ならフェンリルにも匹敵し、本来不得手である近接戦闘を可能とした上で、相当な威力を誇る攻撃法は多岐にわたる。倍加速度も禁手状態とは比にならないほどに速く、その上限も異常なまでに高い。
それが許されるほどに、一誠の肉体が強化されているのだ。
「──ラァッ!!」
フェンリルの爪と一誠の拳がぶつかり、その中間地点で暴発したエネルギーが二人を反対方向へと吹き飛ばす。
既にフェンリルの動きはパターン化している。挙動もフェイクを含めてあらかた暴いたし、速度にも完全に慣れた。この状態であれば、次でフェンリルに致命傷を追わせることも不可能ではない。
故に、その時にとったヴァーリの行動は必然的であった。
「黒歌、予定通りにやれ!」
「了解にゃん」
ヴァーリが叫ぶと同時、にやりと笑った黒歌が一誠へと意識を集中させていたフェンリルの動きをグレイプニルで縛りつけた。
「……何の真似だ?」
既に右腕に球体は生成済みであり、一誠の意志で誰にでも放つ事が出来る状況である。ヴァーリはそれを分かっていながら、感情の変化は見られない。
黒歌は既に準備を終えており、何時でも術を発動できる状態へとなっていた。
「それはこちらの台詞だな。フェンリルのことは俺達が受け持つ予定だったろう。頭に血が上り易いのはお前の欠点だ」
「……チッ、仕方が無いか」
渋々と言った様子ではあるものの、一誠もヴァーリの言い分を認め、右腕に集束させていた球体を消滅させる。
ヴァーリはフェンリルへと近づきつつ、あれを相手取る為に力を解き放つ。
「我、目覚めるは──」
<消し飛ぶよっ!><消し飛ぶねっ!>
それは覇の呪文。一誠の時と同じ様に、ヴァーリの声と重なって歴代所有者の怨念混じりの声が響く。
「覇の理に全てを奪われし二天龍なり──」
<夢が終わる!><幻が始まる!>
「無限を妬み、夢幻を想う──」
<全部だっ!><そう、全てを捧げろっ!>
「我、白き龍の覇道を極め──」
「「「「「「「「「「汝を無垢の極限へと誘おう──ッ!」」」」」」」」」」
『
その言葉が紡がれると同時、ヴァーリの体が白い光に包み込む。この採石場全体を照らし出さんとする程の光が、ヴァーリから放たれる圧倒的な力を感じさせる。
鎧が徐々に変化していくが、それを待たずにヴァーリは疾走。フェンリルに触れるか触れないかの距離まで詰めた瞬間、黒歌が二人をどこかへと転移させた。
白い帯に包まれるかの様に空間に解けていったヴァーリ達を見て、一誠は強制的に心を落ち着かせる。イリナとの繋がりは既に立ち切ってある為、既に正気に戻っている事だろう。
「隙だらけだな」
ヴァーリ達が居た方向を向いていた一誠だが、ロキから放たれる強力な一撃が背後から襲いかかる。「危ない」とグレモリー眷属の面々が叫ぶが、一誠には届かない。
何せ、視線を向けた直後に翼で魔法を防ぎきったのだ。
確かにロキのそれは強力な一撃だった。しかし、『覇龍』状態の一誠にとっては大した威力を持たない。それも、未だ魔術と神器そのものによる強化状態だ。フェンリルと対等に戦えていた事を鑑みれば、察知できない方がおかしいだろう。
ロキの方へと向き直りながら、ぽつりと呟いた。
「……興が削がれたな」
『ロキもそれなりの実力者だと思っていたが、今の相棒が相手では神格でさえ役者不足か』
実際、この状態の一誠とまともに戦えるのはヴァーリ位のものだろう。英雄たる曹操であれば、もしかすれば対等に戦えるかもしれないが。
まぁ、この状況で一誠が何をやろうと、反抗できるものは居ないと見て良い。
「──イリナ」
「何?」
何時の間にやら一誠の背後に回っていたイリナは、通常の状態へと戻った光の剣を手に佇んでいる。
「お前、確かミョルニルのレプリカを預かってただろ」
「……持ってるけど、どうしてイッセー君が知ってるの?」
「ヴァーリから聞いた。アザゼルからレプリカを預かってるってな」
それ自体は別におかしくもないし、あり得ないことも無い。だが、それを知った所で使えるかどうかはまた別の話と成る。
かの鎚は力強く、純粋な心の持ち主にしか扱えないという。イリナに使えるかどうかはまだ判断がつかなかった。
日曜大工のハンマーの様なものを取り出したイリナへと、一誠はアドバイスを与える。
「お前の持つ光の力を注ぎこめ。扱えているなら、その鎚は羽のように軽いと感じる筈だ」
「う、うん……」
何故一誠が其処まで詳しいのかは分からないが、イリナは言われたとおりに光の力を込める。徐々に巨大化していく鎚を持っても、イリナの腕に負担がかかっている様子は見られない。
つまり、イリナはこの鎚を使うに値するという事。それだけでも十分脅威的だ。とはいえ、威力があっても当てられなければ意味が無い。
一誠はイリナを伴い、アーシアの神器で回復しつつあるバラキエルへと問う。
「バラキエル、奴を止めることは可能か?」
「不可能ではない。が、フェンリル相手に酷いダメージを負ってしまってな」
いつも通りの出力は不可能だという。一誠の持つ倍加の力も、本来の力を引きだしているに過ぎない。無理をさせればバラキエルの体の方が持たないだろう。
そうか、と頷き、朱乃の方へと視線を向ける。
「……やれるか?」
「……それは、その人と一緒にやれ、と言う事ですか?」
朱乃は睨みつけるような視線を送っているが、一誠はどこ吹く風とばかりに受け流している。
「出来ないならやらなくてもいい。タンニーンの方も終わり掛けているからな。
ただな、と一言間を置き。誰にも聞こえない程に近くへと寄り、朱乃の耳元で囁くように告げる。
「──親ってのは、どんな状況であれ、子のことを想ってるもんだ。直ぐに本心をさらけ出せとは言わないが、何時までも拒絶してたら後悔する羽目になるぞ」
こういう風に、と指先をバラキエルへと向け、一瞬で球体を作り出す。
その事に思考が真っ白になる朱乃だが、咄嗟に動いて腕の方向をずらし、球体が別の方向へ飛んで行くように誘導した。
だが、こう言った類の力は使用者の意志によって飛んで行くものであり、腕を使うのは方向を正確に図るために過ぎない。元から当てる気は無かったのだ。
飛んで行った一撃は遠くで戦うミドガルズオルム量産体の一体を貫き、絶命させる。
「……咄嗟に腕を掴んでずらしたって事は、バラキエルに対して死んでほしくは無いと思ってると取って良いんだな?」
ハッとした様子で自分のとった行動に驚く朱乃。自分の取った行動が信じられないとでも言う様な表情だ。
しかし、無意識のうちに行ったそれこそが朱乃の本心なのだろう。親と上手くいかないというのは、一誠には余り馴染みのないことではあるが……仲直りを手伝おうとしている辺り、やはり自分は他人に甘いのだと認識する。
いや、それとも正史における
「まぁ、どっちでもいいさ。お前等はお前等の役目を果たしてくれればな」
今更全力で戦う気も起きない。適当に役目を押し付けて逃げようと画策する一誠。
興味のないことにはとことん意識を向けない。魔術師とは得てしてそう言うものだ。自身の目指す目標と関係無ければ知ろうとさえしない。
未だに此処に居るのは、一誠にとって意味があるからに過ぎない。己が手を出す事を面倒だと感じても、全部投げ捨てて帰る事は選択肢に存在しないのだ。
それに、リアス達からすればこちらの方が利益のある事でもある。『禍の団』のメンバーと協力したのではなく、自分たちの手で撃退したと言う事が出来るからだ。元より伏せられる情報だったとしても、前者より後者の方がずっと誤魔化し易い。
行動するにあたって、絶対に理由が必要だと言う訳ではない。一誠の行動はそれこそ「気紛れ」とでも呼べることだ。
しかし、一誠の手助けが無ければロキの撃退もままならない。
それが理解出来るリアスは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるしか無かった。
「準備は良いか、イリナ」
「うん。何時でも行けるわ」
よし、と呟き、一瞬でロキへと近接戦闘を挑む一誠。
「ほう、赤龍帝は遠距離攻撃が最も得意とする所だと思っていたが?」
「どっちも出来る事は証明済みだろうが。今はこっちの方が都合が良いだけだよ。それ以外に理由は無い」
強化された蹴りはロキの張った防御陣に罅を入れ、続く二撃目で完全に破られる。とはいえ、それだけの時間があればロキが離れる時間も出来る。
幾重にも陣を張られた魔法が発動し、強力な攻撃が一誠へと放たれた。
しかし、その攻撃は先程と同じ様に翼で防がれ、一誠は瞬間的に速度を倍加してロキの背後へと回り込む。フェンリル相手ならば取れない戦法も、ロキが相手なら十分通用する戦法と成り得るのだ。
息を吐く。
ロキが防御陣を張ると同時に、ロキが咄嗟に防御陣を張る事を見越して用意されていた赤い球体が防御陣を容易く打ち破る。
更に追撃が成されるかと構えれば、一誠は魔術による鎖で一時的にロキの動きを止めた。
「この程度で、このロキを止められるとでも──」
「思ってねぇよ」
咄嗟に用意したものだ。特に倍加もしていないし、ロキほどの力があれば破る事は容易いだろう。しかし、破ろうとした瞬間に雷撃が降り注ぐ。
一誠が視線を向けてみれば、堕天使の黒い翼を出して雷光を放つバラキエルと朱乃が居た。この場限りの共闘かもしれないが、それでいい。
彼女達には強くなって貰う必要がある。最低でも、
「はあああああああぁぁぁぁァァァァッ!!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
イリナが叫び声を上げ、ミョルニルを振り回してロキへと突撃する。一誠が縛った瞬間には既に動き出していたので、既にその姿はロキの直ぐ傍まで来ていた。
同時に、一誠がミョルニルへと倍加の力を譲渡する。アレだけやればロキとて耐えられないだろうと判断して。
そして雷撃と伴った鎚がロキへと直撃した瞬間、一誠は『覇龍』を解いてその姿を消した。
●
「お疲れさまでした、フィアンマ」
「ああ」
赤いローブをプリシラへ投げ渡し、ソファへと座りこむ。
予想以上に疲労が大きい。やはり、『覇龍』は未だ実戦で使用しない方が良さそうだ。出力を自分で制御できるのが強みだが、これなら聖なる右を使った方が疲労も少なく出来る。
何より、『覇龍』状態で魔術を使うと何とも言えない気持ち悪さがある。この原因も突きとめる必要がある為、しばらく『覇龍』はお蔵入りとなるだろう。
「英雄派の動きは?」
「貴方がたの動きを見張っていたようです。それと、神器に関する技術部の理論が確証を得られたとも」
「その程度なら何の問題も無い。が、『覇龍』に関しては少し情報を流し過ぎたな」
ソファで横になりつつ、一誠はそう呟く。
プリシラは一誠のローブを壁にかけ、ポットから紅茶を淹れて一誠の近くへとおく。
「曹操から連絡が来ていますが。要約すると、『次は京都』だそうですが」
「多分、ヴァーリの方にも連絡が行っている事だろう。『余計な手出しをするな』ってな。……まぁ、京都での事は内容次第だな。傷の調子はどうだ」
「既に八割がた回復しています。全力での戦闘も可能かと」
「よし。準備を怠るな──次は殺す気でやって良い」
「了解しました」
ソファから上半身を起こし、机の上におかれた紅茶を一口飲んでから口を開いた。
「奴が
ロキ編終了。一話か二話程度挟んだ後、京都編に成る予定です。