第七十二話:最後の審判
終わった。
直接的な仇は取った。
後は、冥界全土を火の海に包むだけだ。それで──プリシラの願いは叶う。
「……決着をつけるのはグレートレッドとヴァーリだな」
もう、一誠の味方をするのはドライグだけだ。ドライグと、彼の中にいる歴代の残留思念のみ。どのみちオーフィスとは直ぐに分かれることになるから、彼女と親交を深めた所で今更大した意味は無い。
世界を浄化の光で包む、なんて高尚な考えは無い。やっていることは単なる復讐とその手伝いだ。そんな高尚な理由はむしろ邪魔だろう。
グレートレッドを斃し、悪魔と堕天使を滅ぼし、襲い来るであろう神格を滅し──そして、ヴァーリを殺す。
どのみち、ヴァーリとの決着はつけなくてはならない。神器の封印は既に解かれているだろう。そこからどうするかは彼次第だ。
一誠はビルの窓から飛び降り、崩壊した街の一角を歩く。
視界の先には赤い竜──ドライグが居て、その隣にはオーフィスがいる。エルシャは既にドライグの中へと戻ったらしく、姿が見えない。
「ドライグ」
「分かっている」
一誠の言葉に反応し、ドライグは歩いて一誠の後ろへと回る。その横にはオーフィスが居て、感情の無い目でリアス達を見ていた。
リアスとソーナは顔を見合わせ、一歩前に出る。
「少し、良いかしら。貴方と交渉したいの」
「……交渉?」
今更交渉など何の意味があるのか。プリシラの願いは種の全滅だ。それ以外の道など存在しない。
話を聞く気も無いのか、一誠は右手に剣を構えて一歩踏み出そうとし、ドライグがそれを止めた。
「相棒、聞くだけ聞いてやれ。もしかすれば、プリシラの願いを別の方法で叶えることが出来るかも知れんぞ?」
「……何?」
ドライグの言葉に対して訝しげではあるものの、一誠は剣を下ろす。それを交渉の余地ありと判断したのか、ソーナが一誠へと話し出した。
それは先程ドライグに相談した内容そのまま。仮に悪魔と堕天使が今後人間に関わらないと誓えば、貴方は見逃してくれますか? と。
それに対する一誠の言葉は──否だった。
「プリシラの願いは『復讐』だぜ、ソーナ・シトリー。あいつは元々教会の教えを受けていたから、悪魔や堕天使に対する感情は負の方向で振り切れてたからな。最低限、あいつの身内の仇はとらなきゃ意味が無い」
「ですが、プリシラさんの身内を殺した犯人は、もう分からないのでは?」
「そうだ。十年以上前の話だしな。誰が犯人なのか特定が出来ない……だからこそ、殲滅するしか方法が無いんだろうが」
警察などが罪に対して時効を設けていたのは、単純に「罪の立証が難しい」という点が大きい。
当時の証拠は残っているかもしれないが、事件直後でも無ければ分からない事など無数にある。犯人特定の為に必要な情報の多くは現場にこそあるのだから。
それが雨風によって、もしかしたら犯人によって消されているかもしれない。相手が超常存在では警察など何の意味も持たないのだ。
ならば、どうあっても復讐は遂げられない。
だから、プリシラは殲滅しようとしたのだ。
「俺とプリシラの関係は部下と上司だが、少なくとも俺にとって一番信用できる部下だった。そいつの願いを叶えようってことの何処が悪い」
「貴方のやっている事は唯の暴君の真似ごとです。力があれば何をやっても赦されると思わないでください!」
「止めたいなら力づくでそうすりゃいい。──それに、お前の言った事は以前サーゼクスとアザゼルに拒否されている」
一誠の言葉に驚きを隠せないリアスとソーナ。一度だけとはいえ、一誠は歩み寄ろうとしたことがある。
だが、テロリストと言う事が信用性に大きく関わり、その交渉を受ける事は無かった。ある意味当然ではあるが、一誠自身も本気で交渉しようと考えていた訳では無いので、特に問題は無い。
ドライグは、それでも多少は聞く耳を持つと思っていたのだろう。予想以上の固い意志に対して、ドライグは軽く嘆息する。
しかし、一誠に反抗する訳ではない。聖書の神の思い通りに行かせるのも癪だからと、別の道を用意しただけのことだ。
だが、一誠はそれを拒否する。このまま聖書の神の思惑通りに行くとしても、それで構わないと。
止めたければ力で示せと告げる。
無理矢理にでも止めてみろと言う。
その言葉に乗り、前に進み出たのはサイラオーグだった。
「言葉で駄目ならば、やるしかあるまい。どのみち貴様をどうにかしなければ、あの天使とやらも止まらんだろう?」
「残念ながら、自動で殺すように設定を組んである。当たると傷が回復しないよう、『不可逆』の術式も書けてあるがな」
一誠の言う『不可逆』と言うのは、いわゆる『負った傷が回復しない』術式だ。『神の力』が『超獣鬼』に対して有利に立ったのもこの術式による恩恵が大きい。
莫大な攻撃を放ち、しかもその攻撃を喰らえば一生ダメージが回復しない。
「ま、俺が死ねば少なくともドライグは解放される。助力を乞うなりなんなりして斃せばいい」
「滅多な事は言うなよ、相棒。お前が死ぬ時は俺も道連れだ」
ドライグの言葉に笑みを浮かべつつ、一誠は剣を構える。サイラオーグも実力差を分かっているのか、背後に控える『兵士』を呼んだ。
「レグルス!」
『ハッ!』
仮面を被っていた『兵士』は仮面を脱ぎ捨て、その体を五、六メートルはありそうな巨大な金毛の獅子へと変化させる。
一誠は特に驚いた様子も無く、興味も無さそうにそれを見つめるだけだ。
「『
神器システムを持つ都合上、その所有者は感知できる。変装した所で関係無い。だが、ゲオルクにだけ興味を示したのは単純に『獅子王の戦斧』という神器に興味が無いからだ。
その一撃は大地を割り、巨大な獅子にも変身できる神器──とは言え、その能力を補って有り余るだけの力をドライグが備えている以上、必要無いと断じるのもまた当然。
冥府に行った際に刃狗の持つ『黒刃の狗神』も回収したが、こちらも同様に使う機会は無い。
回収出来ればそれでいい。なんなら破壊した所で問題も無いのだ。
「これは冥界の危機だ。今こそその力を貸して貰うぞ、レグルス!」
『我が主の意のままに』
元々の所有者は怪しげな集団に既に殺されている。サイラオーグが所有している訳では無く、『悪魔の駒』で独立した一体の存在として、レグルスはここにいる。
そして、サイラオーグはこの力を「冥界の危機」でのみ使うと決めていた。
ならば、今使わずに何時使う。
レグルスは巨体を金色に光らせ、光の奔流としてサイラオーグへと近づいていく。
「我が獅子よッ! ネメアの王よッ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せェェェェェェェッ!!」
強烈な威圧感が辺りに放たれ、サイラオーグの生命力が大気をびりびりと振るわせていた。
周囲の瓦礫を弾き飛ばし、サイラオーグとレグルスが弾けた。
『禁手化ッ!!』「
眩い閃光が迸り、一誠は腕で覆って眼を守る。閃光が止み、前方に現れたのは──金色の全身鎧を着たサイラオーグだった。
頭部の兜にはたてがみを思わせる金毛がたなびいている。
「……行くぞ」
「纏めてかかってこい。一々相手にするのは面倒だ」
一誠の挑発に乗る形でバアル眷属が動き、リアス達の前に出る。リアスはそれに対して文句を言おうとするが、サイラオーグの『女王』であるクイーシャ・アバドンはリアスの方を向いて告げる。
その表情は、覚悟を決めた者の顔だった。
「我々が出来るだけ消耗させます。先の闘いを見る限り、恐らくはサイラオーグ様でも敵わないでしょう……ですが、最低限相手の体力を消耗させ、弱点を暴きだして見せます」
死ぬつもりは無い。だが、そうでもしなければ一誠には手傷を負わせる事すら難しい。
聖槍を避けていた以上、サイラオーグの攻撃なら通じる可能性が僅かにでも存在する。
「それに……リアス様の魔力ならば、敵の防御を無視してダメージを与えることも可能でしょう。サイラオーグ様との戦いで見せた『あれ』ならば、恐らく」
「……分かったわ。私達は貴方たちの闘いを無駄にはしない。きっと、勝って見せる」
「私達とて負けるつもりも死ぬつもりもありません。万が一のため、ですよ」
薄く笑みを浮かべるクイーシャは、振り返ってサイラオーグの後に続く。
バアル眷属の全員が前に出て、一誠と相対する形になり、サイラオーグへと告げる。
「グレモリー眷属は良いのか?」
「かまわん。貴様は我らで十分。それに……万が一の場合、リアスに託せるだけのダメージを与えるつもりだ」
「……へぇ、やれると思ってるのか」
一誠は眼を細める。『獅子王の戦斧』の禁手である『
まさか本当に敵うと思っている訳でもあるまい。
だが、それでも濃密な敵意と殺意が渦巻いている。確実に勝ちに来ている眼だ。
「……ドライグ。少し面倒だが、下がってろ。お前の力を使うまでも無い」
「そうか……ならば、俺はオーフィスを連れて下がるとしよう」
頷いて後方へ下がるドライグに笑みを零し、一誠は一歩前へと躍り出る。
そして、静寂。
僅かな時間、サイラオーグと一誠は互いを見つめ合い、感じられる気配から実力を測り、純粋に相手を殺そうと力を練り上げていく。
不意に、瓦礫が崩れ、音がした刹那──二人は、動いた。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
「おらああああああァァァァァァァッ!!」
顔面へと拳を振るい、強烈な衝撃が二人の体に圧し掛かる。余りの強烈な衝撃に弾き飛ばされる二人だが──一誠は、その体に傷を負っていなかった。
対し、サイラオーグはその鎧の兜を破損しており、口から血を流してビルへと突っ込んでいる。
肉体強度が禁手の鎧よりも高いと分かり、とんでもない人間だとクイーシャは呟く。
実際、まともに受ければサーゼクスでも危ない。一定以下の攻撃を完全無効化するなど、余りに化物過ぎる。
「ベルーガ、俺が動きを止める! その間に攻撃を!」
「了解した!」
『騎士』ベルーガ・フールカスが動くと同時に、同じ『騎士』であるクロセルが動いた。
クロセルの持つ神器は『
とはいえ、一誠の速度は凄まじい。一度瞬きした瞬間に視界の中から消えることも可能だし、そもそも動きだって殆ど阻害できていないのだ。
動きを止めるには強さが足りない。禁手ですらない神器の力で一誠を縛ろうなどとは片腹痛い。
「私とアルトブラウの速度が貴殿に届くか勝負ッ!」
「遅ぇよ」
馬に乗ったまま突進するベルーガのランスをなんなく素手で受け止め、アルトブラウと呼ばれた青い炎を纏った馬ごと赤い翼で屠る。
そのまま放たれた複数の赤い翼はサイラオーグへと向かい、クイーシャはその前に立って『
クイーシャの使う『穴』という魔力はアドバン家の特色であり、それを使えば敵の攻撃を異界に放り込み、自由に跳ね返す事も出来ると言う。
威力に関係は無い──故に、一誠の翼の攻撃すら吸い込み跳ね返す事も可能。
「喰らいなさい!」
複数の翼は一誠へと高速で放たれ、ぶつかった瞬間に土煙りを上げて視界を覆う。
これで、少なくともダメージを与えた──そう考えた瞬間、サイラオーグがクイーシャの前に出て防御態勢を取った。
ゴッ!! と、爆発したような音と共にサイラオーグが後退する。一誠の蹴りを防いだ両腕の鎧は粉々に砕けており、一誠自身には目立った外傷はみられない。
かなりの威力を誇る攻撃だと感じ、跳ね返したと言うのに……それでもダメージを与えられない一誠の頑丈さに思わず恐怖の眼差しを向けるクイーシャ。
その一誠の眼が、クイーシャの方を向いた。
「お前は邪魔だな。その力は厄介だ」
「やらせんッ!!」
鋭く放たれたサイラオーグの拳を左手で受け止め、一誠はサイラオーグの腹部へと回し蹴りを叩きこむ。鎧が砕けると同時に吹き飛び、ビルの壁にぶつかって止まる。
一誠の右手には剣が握られており、長さは二メートル弱で抑えられていた。
サイラオーグの相手をしている間に練った魔力を至近距離で放つクイーシャだが、僅かに体勢を崩すだけでダメージは無いに等しい。
防御能力が高いなどと言うレベルでは無い。
防御能力が行き過ぎているとしか言えない。
横合いから『僧侶』の魔力攻撃が飛んできても頓着せず、右手の剣を振るおうと振りかぶる一誠。
だが──その瞬間、僅かに自身の力が目減りしたのを感じた。
「……?」
『
だが、封印出来たのは噴出している力の僅か一割弱。サイラオーグの『僧侶』が弱いのではなく、一誠の力の総量が桁外れななのだ。
事実、これを使ったレーティングゲームではゼノヴィアの聖剣の力を封じている。
『僧侶』は既に虫の息であり、封印できる時間もほんの僅か。だが、この機を逃すサイラオーグでは無い。
『戦車』の片割れが黒い皮膚を持つ巨大なドラゴンへと変身し、もう一人が壊れたビルの残骸を持って高速で振るう。一誠はビルの残骸を切り裂き、ドラゴンへと変身したラードラ・ブネを蹴り飛ばす。
「ミスティータの作った僅かな隙を、逃すわけにはいかんのだ!!」
ミスティータとは、恐らく先程一誠の力を僅かに封じた『僧侶』だろう。そちらを始末しようにも、クイーシャとの距離が近すぎて、翼を使えば『穴』で即座に返される。
まぁ、この程度なら別に気にする必要も無いのだが。
戻ってきたサイラオーグの拳を僅かに顔を逸らして避け、面倒だと嘆息する。
この程度の雑魚にいつまでもかかずらっている暇は無い。さてどう潰そうかとサイラオーグの拳を紙一重で避けながら考えていると、上空から一体の『天使』が舞い降りた。
「mcaiop虐殺veopameoqa」
「止まれ、ミーシャ。お前は冥界の都市に行って悪魔と堕天使を殲滅させる事を優先しろ」
炎の翼を纏い、右手に剣を持って現れたミーシャに対し、一誠は適当な調子でそう告げる。ミーシャはその命令を聞き、即座に飛びあがって別の都市へと向かった。
続けて下りて来たのはベルザードだ。右手には光る球体を持ち、赤龍帝の鎧を着たまま降り立った。
「ありがとよ、ベルザード」
「かまわん。この程度なら問題は無い」
「冥府はどうなった?」
「火の海だ。死神も一体残らず消し炭だろう。サーゼクスとアザゼル、デュリオも始末した」
サイラオーグを蹴り飛ばして距離を取り、ベルザードから球体──『煌天雷獄』を受け取る。
これで、上位四つの神滅具が揃った。
とはいえ、使う機会があるかと言われると首をひねらざるを得ない。基本的に武器は剣一つで足りているし、魔術だって強力過ぎてまともに使えない事を除けば十分な力を誇る。
まぁ、誰かに使われても面倒なので回収は続けるが。
「そうか……さて、どうするサイラオーグ。まだやるか?」
「当然。貴様に勝たねば、冥界が滅んでしまうのでな……!」
「やる気があるのはいいことだが、そろそろ飽きた。力も完全に馴染んだし、お前等はもう用済みだよ」
横薙ぎに振るわれた刃は防ごうとしたサイラオーグの腕を切り裂き、鎧を切り裂き、首を落として鮮血を飛び散らせる。同時に返す刀でクイーシャを切り裂き、翼を分解して無数の槍に変えることで逃げ場をなくしてバアル眷属を殺害する。
手をぷらぷらと振りながら、体の調子を確認する一誠。
「まぁ、こんなものか。力も大分制御できるようになった。後は魔術の最終調整とグレートレッドの位置を捕捉する必要があるが……まずは」
視線をグレモリー眷属へと向けた途端、戦闘態勢へと入る面々。怪我をしている匙とソーナも立っており、その眼には強い意志が感じられた。
イリナの方へと目を向け、一度嘆息して剣を構える。
こうなれば、もう以前のような関係にはならない。決別の時だ。
「あばよ、グレモリー眷属」
長大な剣を横薙ぎに振るい、一斉に殺そうとして──僅かに剣が上方へと
●
冥界、とある都市にて。
空中を飛び、何度もぶつかる影が二つ。
夜の闇に紛れて飛ぶ『
それを氷の翼で難無く弾き飛ばすも、上から来た白い影が『神の力』を蹴り飛ばし、地面へと叩きつけた。更に魔力弾を放ち、追撃する事も忘れない。
押されている。
唯一人で世界を滅ぼす事さえ可能な『神の力』が、押されているのだ。
夜空にあって白い鎧を纏い、その顔は分からないものの──その男を支えるかのように、背後に立つ影が複数。
誰もが怪我を負っていない。いや、『神の力』の攻撃の威力を知っていれば、一度でも当たれば終わりだと分かる。その為、
それを、彼らは難無くクリアしている。
「そろそろ決めねぇと不味いんでねぇの、ヴァーリ。グレートレッドを先取りされちまうぜぃ」
「焦り過ぎは禁物ですが、聖魔剣の彼が死ぬのは些か不満です。彼は僕が全力を振るうに値する相手になるかもしれない」
「白音を助けないといけないしにゃー。全く、何時までも世話を焼かせる子よね」
「黒歌さん、さっきは『あの子なら大丈夫』って言ってたじゃないですか」
「さっきはさっきよ。それに、相手がこれ以上の化物なら生きてる方が不思議なくらい。手早く倒して、さっさと向かいたい所なんだけどにゃー」
「分かっている。俺も兵藤一誠との決着をつけなきゃならん」
『神器システムを奴が手中に収めた結果かは分からんが、私の力も完全に戻っている。今なら、やれるぞ』
「ああ、行くぞ、アルビオン」
歴代白龍皇の意識を完全に封じ、昇華させたヴァーリだけの『覇龍』を──今、解き放つ。
広げられた白翼は銀色に輝き、純白の鎧は神々しい光に包まれていく。そして、各部位に存在する宝玉から声が──。
「我、目覚めるは──律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり──」
内側で爆発するように力が高まって行き、歴代白龍皇たちもヴァーリを支えるかのようにその力を解放していく。純粋な闘志。積りに積もった彼らの怨念を、悪意を、ヴァーリは闘志へと変貌させていた。
「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて、覇道を往く──我、無垢なる龍の皇帝となりて──」
ヴァーリの鎧が姿を変えて行き、白銀の閃光に包まれた。
「「「「「「汝を白銀の幻想と魔道の極地へと従えよう」」」」」」
『
『
今までとは別次元の力を噴き出す、白銀の鎧を纏ったヴァーリ。そのオーラは近くにあるものを簡単に潰すほどで、アーサーたちもその強烈な力を間近に見て戦慄していた。
これほどの力を誇る二天龍を、ヴァーリは完全に制御しているのだ。
それは一誠も同様。莫大な力を繊細で精密に制御し、自分のものとしている。二天龍と強く結び付いているのも制御できている理由と言えるだろう。
しかし、だからと言って『神の力』相手に油断する理由にはならない。ヴァーリチーム総出でも未だ斃せぬ怪物だ。
だが──今のヴァーリは違う。
銀色の閃光の中、ヴァーリチームの背後に巨大な影が現れた──白い鱗を持ち、巨大な体躯を誇る伝説の二天龍。
アルビオン。
『オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!』
「euzxao殺害mfaipw次copiwaqzarh──!」
もぞもぞと口であろう場所を動かし、辺りに存在する水全てを掌握する『神の力』は右手に水晶のような剣を持ち、音速を遥かに超えてヴァーリへと接近する。
高速で振るわれる刃をヴァーリは鎧を着ているとはいえ素手で捌き、その胸の中心部へ拳を入れて弾き飛ばす。
「アルビオンッ!」
『分かっている!』
凝縮された魔力が、砲撃と化して『神の力』に直撃する。衝撃波が辺りに舞い、余波だけで都市の一角が廃墟と化していた。
しかしそれでも、『神の力』は消滅しない。
真正面からの攻撃では不利と悟ったのか、夜空が瞬き、範囲指定された魔法陣から流星が雨の如く降り注ぐ。
それをアルビオンは自分の身を盾にしてヴァーリ達を守り、視線を『神の力』へと向けた。ダメージは多少あるが、それは『神の力』から奪ったエネルギーで回復させれば済む。
「さぁ、決着だ!」
高速で飛び出したヴァーリと、同じく高速で飛び出した『神の力』が空中でぶつかり合う。
振るわれる翼の対処はヴァーリチームの他の者へと任せ、ヴァーリは『神の力』へと拳をぶつけ続け──蹴り飛ばした。
「──圧縮しろ」
『
『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!!』
強烈な拳を受けて吹き飛んだ『神の力』が、圧縮される。強烈な圧力を受けて動きも鈍くなり、圧縮に耐えている所へと、またもアルビオンの強烈な力が集束された砲撃をしようと構える。
白龍皇の力は『奪う』こと。
圧縮され、同時に力を奪われていく『神の力』はみるみるうちに弱って行き、遂にはその体躯を半分へと圧縮させることに成功した。莫大な『天使の力』を宿す『神の力』だが、アルビオンの奪う力のおかげか、ヴァーリには影響が無い。純粋にエネルギーとして吸収されているのだろう。
そこを狙い、アルビオンは白銀に染まる魔力を放ち──『神の力』を消し飛ばす。
大地が揺れる。かなりの力を使ったが、敵の内包する力もまた莫大だったため、ヴァーリとアルビオンの力はほとんど減っていないも同然だ。継戦能力の高さこそが白龍皇の強みと言えた。
軽く息をついて『白銀の極覇龍』を解除し、自分の力を確認するヴァーリ。
「……十分だ。あの妙な存在との戦いは、良い経験値になった」
『私の力をより強力に扱い、高みへと上がるか……赤いのの影響か、旧魔王の血の力も高まっているようだな』
「で、行くんかよ、ヴァーリ」
「ああ──兵藤一誠を斃す。グレートレッドを超える前座としては丁度良い相手だ」
神格へと至った一誠の力を知らないにせよ、恐らく現時点で一誠とまともに戦えるのはヴァーリのみ。それを知ってか知らずか、あの男を斃すのは俺だけだと拳を握る。
二天龍の決着をつける時が、来た。
ヴァーリが主人公で一誠はラスボスにしか見えない件について。