最終話:怒りの日
黒歌は懐から『フェニックスの涙』を取り出し、重傷者である面々に振りかけていく。
特に重傷なのは右半身が消し飛んで瀕死のロスヴァイセと、上半身と下半身に分かたれたギャスパーだ。この二人には優先して『フェニックスの涙』を使う。
その後で小猫にもかけ、残った分を木場に渡して使わせる。
「まぁ、こんなものかにゃ。後はヴァーリ次第っしょ」
「ですね。ヴァーリさんが負けたら、どのみち皆死んじゃうでしょうし」
「あの変なのを作ったのも赤龍帝だって聞いたしにゃー。冗談でも比喩でも無く皆殺しにしようって言うのが丸わかりにゃん」
「こっちだって、大人しく殺されてやるつもりも無いぜぃ」
「分かってるわよ。私だって、白音を殺させる訳にもいかないし。私もまだ死にたくないしね」
二天龍が次元の狭間に消えていくのを見届けていたヴァーリチーム。ヴァーリの事はもう成るようにしかならないし、心配したって仕方が無い。
それよりも、黒歌は気になっていることがあった。
何故、グレモリーとシトリーの関係者は
「……赤龍帝にも情が残ってたって事かしらね」
実際、やろうと思えば一瞬で片はついた筈だ。聖なる右が無いとはいえ、魔王にも満たない実力の彼女達を殺す事など造作も無い。
いや、むしろ聖なる右が
聖なる右は常に絶対だ。
その出力は確実にして絶対だし、『幻想殺し』のようなイレギュラーでもない限りは基本的に必中必滅。出力の差で押し負けることだって、グレートレッドとオーフィスを除けば殆ど無いと言って良かった。
だが、今はどうだ。
聖なる右が無くなったことによって、確かに一誠は身体能力が跳ね上がった。魔術の規模も桁違いに上がっている。しかし、彼自身は近接戦闘の心得など無いに等しい。
それでも、急所に当てず、一定以上の身体能力を発揮しなければ、相手を殺さずとも戦闘不能に追い込む事は容易だろう。
「気に入っていた子もいるみたいだし、流石に親愛な部下との約束とはいえ、殺すまでは至らなかったって事かしら。ま、そのおかげで白音は助かったんだけどにゃー」
やはり、彼はお人好しだ。『神上』などという尊大な肩書がついても、その本質は変わっていない。
英雄派やハーデスはやり過ぎた。だからこそ一誠に殺されたし、グレモリーとシトリーは最後まで和平をしようと言葉を重ねていたから生き残った。
この違いが、現時点での生死に大きく関わっていると言っても過言ではない。
今の彼が本気でやろうと思えば、冥界一つ焼き尽くすのに数分とかからない。ミーシャやガブリエルは必要無いのだ。それでも使ったのは、自分の意思を反映させない為──手加減をしない為だろう。
それとも、星ごと砕いてしまったら自分が宇宙空間で生きていられるか予想がつかなかったか。まぁ、神格にまで至ったのだからどうにでもなりそうではあるが。
「……グレートレッド」
ふとした拍子に、オーフィスが呟いた。
「グレートレッドがどうかしたにゃん、オーフィス」
「さっき、次元の切れ目の奥に見えた。多分、イッセーとヴァーリ、グレートレッドとも闘ってる」
眼を丸くして驚く面々。それが本当なら、次元の狭間では三つ巴の状況で戦闘が行われていると言う事になる。
「助けに行かなくていいのかにゃん」
「必要無い。今のイッセー、我より強い」
「……オーフィスより強いからって、グレートレッドに勝てるとは限らないでしょ」
オーフィスがどうやっても殺せない存在がグレートレッドなのだ。オーフィスよりも強いと言ったところで、それはグレートレッドと闘う上での前提条件とも言える。
彼女の言い分では、まるでグレートレッドと実力が伯仲していると言っているように聞こえる。
しかし、オーフィスはそれを訂正した。
「我とグレートレッド、実力自体はそう変わらない。違うのは『特異点』か『総体』かだけ」
「『特異点』と……『総体』?」
「そう。我は次元の狭間に生まれた単一個体。唯一にして無二の龍。グレートレッドは夢幻の幻想から生じた、生きとし生けるものの総体」
理解が及ばないのか、黒歌は眉をひそめる。
オーフィスが次元の狭間に生まれた龍だと言うのは分かる。だが、それがどうして『特異点』という言葉に繋がるのかが分からない。
まずはそちらだ、と思い、黒歌は問い質した。
「『特異点』ってのはどういう意味にゃん」
「我の事。存在そのものが一つの宇宙みたいなもの。永久不変で、自己完結している」
故に『ウロボロス』。終わりの無い永劫回帰の象徴であり、始原性と永続性を併せ持つ単細胞生物的存在。
終わりが無いと言うのはそれ単体で完成していると言う事であり、無限を表す存在であるが故に上限すら存在しない。他者からの干渉では揺らがない絶対的存在。
その唯一の例外が『サマエル』だが、これはもう存在しないのだから語った所で意味はあるまい。
「なら、『総体』っていうのは?」
「グレートレッドの事。この世に生きている全ての生物の『夢』から、あれは生じた。だから、あれを殺すには全ての生物を一体残らず
早い話、グレートレッドは生物としての意識の総体であると言う事。
オーフィスが究極の単一個体とするなら、グレートレッドは究極の群集合体。
本気で殺そうと思うなら、動物植物を問わずに全ての『生物』を皆殺しにした後、グレートレッドを完膚なきまでに叩き潰す必要がある。
しかし、それは余りにも現実的では無い。
仮に一体でも、一つでも生物の意識が残っていれば意味が無いのだ。如何に強いオーフィスとて、そんな事をやり遂げるのは不可能だろう。
だからこそ『禍の団』を創りだした。
だからこそ一誠を味方に引き入れた。
出力などの問題ではあるが、今となっては自分よりも強いのだ。オーフィスの判断は間違っていなかったと証明された。
「……でも、それなら一体どうやってグレートレッドを殺す気にゃん?」
「さぁ」
「さぁ、って……オーフィスも何も聞いて無いの?」
「聞いて無い。イッセーなら何とかする」
なんだかんだ言って、オーフィスも変質しているのだ。
無謬の平穏を求め、永久不変の存在として君臨していた無限の龍神は──世界を見て、人を知って、営みを感じて、ゆっくりと変質していた。
それでも望みは変わらない。
それでも無謬の平穏を求め続ける。
いつまでも。
どこまでも。
だけど。
「イッセーが勝つ。我はそれを信じてる」
たとえ目的に沿うものだとしても──これくらい思ったって、誰も文句は言わないだろう。
●
次元の狭間。そこは全ての世界と繋がる特異な場所であり、同時に何処の世界にも影響を及ぼさない世界。
故に、この場所で戦うということは誰にも被害を与えない。次元の狭間に存在していれば別だが、そんなモノは唯一体を除いて存在しない。
──そう、唯一体を除いて。
『──ここまで来たか』
グレートレッド。
次元の狭間を常に漂い、目的も無く全てを俯瞰している唯一絶対の存在。オーフィスと同クラスの実力を備え、かつオーフィス同様に不滅を誇る『真龍』。
『赤龍帝』兵藤一誠。
『白龍皇』ヴァーリ・ルシファー。
『真なる赤龍神帝』グレートレッド。
三者三様。史上最強とも呼べる三体の龍が、一堂に会していた。オーフィスも含めれば四体ではあるが、この場にいない為に除外する。
存在するだけで相手を圧殺しかねない威圧感。視線を向けるだけで滅ぼしてしまいそうな存在感。
究極とも言える三柱による三つ巴の戦争が、幕を開けようとしていた。
これで全てが終わる。二天龍の確執も、『最強』の座への挑戦も、オーフィスの願いも。全てが終わるのだ。
だからこそ、彼らは共通して笑っていた。
ある者は全てを滅ぼそうと。
ある者は最強への挑戦に歓喜し。
ある者はそれら全てを叩き潰そうとして。
史上最大の闘いは幕を開ける。
「ああ、遂にここまで来た。俺は嬉しいぞ、ヴァーリ、グレートレッド。ようやく全力で戦えるって言うんだからな」
「それは俺も同じだぞ、兵藤一誠。お前と会った時からずっと思っていたよ──コイツとは、楽しい戦いが出来るとな」
軽口を叩き合う二人の神威が爆発し、現状最も厄介な存在であろうグレートレッドへと同時に目を向ける。
どう取り繕おうと、グレートレッドはオーフィスに並ぶこの世界の「最強」の一角だ。例え一誠やヴァーリであろうとも、油断していいと言う理由にはならない。
だが、それは同時にグレートレッドにも言える。ここまで上り詰めた二天龍とその宿主は、既に神格の域を脱している。
『吾の力の前に消え去ることを選ぶか──それもまた良し。オーフィスと違い、殺しても死なぬ訳ではあるまい』
「おいおい、冗談言うなよ。京都での事を言っているなら、お前は時代に取り残されてるぞ。俺はもうあの時とは違う」
そう告げ、にやりと笑う一誠は掌の上でこの宇宙の法則を手繰り始める。鳴動する神気が辺りに撒き散らされ、頭上に無数の星々が瞬いた。
腕を振るだけで凄まじい数の星がその動きを操られ、落下し始める。広範囲にわたる流星群はいとも容易くグレートレッドとヴァーリを飲み込み、それでもなお有り余るほどの破壊を引き起こす。
しかし、無論それで終わるような存在では無い。
『笑わせるなよ、若造が!』
咆哮すると同時に放たれた魔力は流星群の一角を消し飛ばし、そのままの勢いを持って一誠を殺害せしめんと迫る。
それに気付いた一誠は、己が動くのではなくドライグを動かす事でグレートレッドの攻撃を完全に防ぎきった。一誠と深く繋がっているドライグは、今やグレートレッドに勝るとも劣らぬ域にまで押し上げられている。この程度の攻撃を防ぐのは造作も無いのだ。
「長く生きてりゃ良いってもんじゃねぇだろうがよ。てめぇは時代に取り残されて死んでいくんだ。精々華々しく散って行け!」
凶悪な笑みを浮かべつつ、無数の流星群と同時に星の爆発によるフレアまでも発生させる。まともな存在ならばこの時点で死は必然。しかし、この場にいる誰もが、最早「まともな存在」とはいえない者たちばかりだ。
故に、この一誠の攻撃は単なる籠手調べでしか無い。
「随分と余裕を見せるじゃないか。隙を見せた奴から死んでいくぞ、兵藤一誠!!」
白銀の閃光が辺りに撒き散らされ、この次元の狭間に居る全ての存在から力と言う力を奪い尽くしていく。それはたとえ一誠やグレートレッドであろうとも例外では無く、爆発的に高められている力が徐々に減って行くのが感じられた。
こんな事が出来る者はと問われれば、一誠の思い当たる人物は一人しか存在しない。
「隙だと? これは余裕と言うんだ。奪うしか出来ないお前では、俺の力は超えられないぞ!」
『我が力は夢幻。どれだけ奪おうと、奪った傍から回復していくのだ。そのような力は実に無駄だぞ、白龍皇』
半減の力を乗せた無数の鎖が一誠へと巻きつくも、それを気にした素振りすらない。こんなものでは己は止められぬと、自身の力を絶対的なまでに妄信しているが故の行動だ。
そして当然、その隙を見逃すヴァーリとグレートレッドでは無い。
「奪い、己の力にする。お前たちの力がどれほど強まろうと、俺はこの力でその差を埋めるぞ」
白銀の閃光を放ちながら鳴動するアルビオンは、同じく緋色の閃光を放ちながら鳴動するドライグの動きを止めにかかる。
衝突する二体の巨大な龍は、辺りにその力を撒き散らしながら笑い、何度もぶつかり合う。
『久々だな、俺達自身がぶつかり合うなど!』
『ああ、一体何時振りだろうな。共に未来永劫現れないであろう最高の宿主を得た異常、此処で決着をつけるのが最良だ!』
『分かっているとも! 俺達の戦いも、全てが此処に集束する! アルビオン! 俺はお前を超え、グレートレッドを超えてなお高みへと至るぞ!!』
『抜かせ! 貴様の力も、全て私が奪い尽くしてやろう! ドライグ! 私はお前を超え、この三千大世界の頂点に立ってみせる!!」
二体の力が大きく爆発する。それと同時に、横やりを入れるかの如くグレートレッドの強大な魔力砲撃が二体を襲った。
オーフィスでさえその存在を削られるほどの強大な攻撃は、二天龍の力を大きく削り取り、宿主である一誠とヴァーリから大きく引き離される。
そして同時に、白銀の翼を振るうヴァーリと緋色の翼を振るう一誠もまた衝突していた。
互いに鎧は存在せず、ただ純粋に己の肉体のみで殴り合い、神威を爆発させているのだ。
「は、はははははは!! 今回は避けずに殴られるのか、兵藤一誠!」
「お前の攻撃なんぞ、避けるほどの攻撃ですらないってだけだ! 肉弾戦ならてめぇが強いとでも思っているのか、ヴァーリィ!!」
顔面に拳を受けて口の端から血を流しつつ、背後で戦う三体の龍を視界の端におく一誠。
──状況は芳しくない。このままだと押し切られるか?
如何に一誠が『神上』へと至り、その莫大な力を振るえるようになったとは言っても、それはオーフィスと同じ位階に上りつめたと言うだけの事。確かに倍加の力は強大で、無量大数の域にまで行く事とて不可能ではないだろう。
しかし、そこまで行くには未だ一誠の力が足りないと言うのが現状だった。
元より強大な
そして、ドライグが敗北すると言う事は、同時に一誠の敗北をも決定づけると言う事だ。魂の奥底で繋がる二人は、どちらかが死ねばもう片方もそれにつられるように消滅するだろう。
だが──そんな事は最早重要ではないのだ。
一心同体であり、これまでを共に過ごした相棒であるドライグを見捨てる選択肢など、はなから一誠には選択肢足り得ていない。
拳を握り、より力を圧縮させてヴァーリの顔面を打ち抜く。僅かにたたらを踏むも、鼻血を出した程度で対してダメージとなっているようには思えない。
「頑丈な奴だぜ、お前は。今や聖なる右として振るわれていた『天使の力』も全部余すことなく使ってるって言うのによ」
「頑丈さでは負ける気がしないな。何せ、昔から喧嘩っ早くてな。アザゼルともよく闘ったものだ」
ノーガードで互いに殴り続ける状況は、いっそ異様とさえ言えた。何よりも、『天使の力』で強化されている一誠の拳に耐えられているヴァーリが、何よりも異常に見えたのだ。
悪魔に対して天使の力は絶大な効果を及ぼす。これは絶対の理であり、覆せない一誠とヴァーリの差でもあった筈だ。
しかし、現にヴァーリは一誠の拳に耐え抜き、あまつさえ一誠と殴り合いまでやっている始末。何かしらの種があるのは確実と言える。
「アザゼル程度の力と、俺の力を一緒にしてんじゃねぇぞ、クソが!」
肉を打つ派手な音と共に吹き飛ぶヴァーリ。それを一瞥した後、劣勢に立たされているドライグの下へと直ぐ様駆け付ける。
赤色の鱗は所々が剥げており、大きな傷も見られるが、それらは僅かな時間で回復しつつあった。問題は無いと判断する一誠。
『悪いな、相棒。流石にアルビオンとグレートレッドの二体じゃ相手が悪い』
「分かっているさ。その為に俺がいる」
短く答えた後、更に力を増すグレートレッドと力を奪い存在感の増したアルビオンを見て、一誠は神威を集中させた。
「
爆発する神威を見て不味いと悟ったのか、アルビオンの下へと戻ったヴァーリもまた力を集束し、神威を爆発させる。
グレートレッドはそれを\x{301d}隙\x{301f}と捕え、赫灼たる滅びの一撃を放つ為の準備を行う。
「
猛る二体の龍を押しつぶそうと放たれるは、銀河吸収面体の大激突。発生した空間内の超重力は、二体の龍を確かに捕えた。
俗にグレート・アトラクター。まともに喰らえば致死となり得るこの攻撃を、ヴァーリは強欲に奪い尽くそうと力を放つ。
押し潰されてもなお平然とする怪物的な存在であるグレートレッドは、己へのダメージを無視して一誠へと滅びの一撃を放った。
余波だけで並みの神格なら消し飛ばされる凶悪な一撃は、しかし一誠の刃の前に無残に散っていく。『天使の力』のみならず、神滅具の力をも用いた強大な一撃だ。一時的ならば、グレートレッドを圧倒するほどの出力を出せない事は無い。
しかし、それは無理をするということであり、反動は確かに存在するのだ。
『それは隙となるぞ、赤龍帝!!』
続けて放たれる極大の神威を、一誠は無数の流星群をぶつけることで防ぎきる。
三つ巴の戦場であれば、誰か一人が不利となればそこをつけこまれる。この状況もまた、その法則からは逃れ得ない。
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ──!!」
振るわれる魔力の刃は確かに一誠の力を抉りとり、莫大な力を削り取り、己のものとした。
己が最強であると証明するために。己だけがこの世界の頂点に立つのだと、ヴァーリは傲慢でありながらも渇望し、アルビオンの力をより深く発現させている。
「舐めるなよ、これだけで俺が不利になったなどと、笑止千万」
それでもなお一誠は笑う。こんなもので俺の力を削りきったつもりかと、お前の求める力はこの程度かと、まるで嘲笑するかのように。
腕を上げ、奪われた分を倍加して補った一誠は攻勢に出た。
「
その手で操られるのはこの宇宙に存在する星々。天体を操作する事で配列を組み直し、発生するその現象の名は──グランドクロス。
単一宇宙のみに留まるとはいえ、発生する莫大なエネルギーは神格の肉体でさえ内部沸騰させ、粉砕するほどの威力を持つ。
「が、ああああああああァァァァァァァァ!!!」
強烈な衝撃に叫び声を上げるヴァーリ。肉体の節々から血が噴き出し、同時に奪った力によってすぐさま回復していく。
同時に指を鳴らして幾つもの星を操作し、グレートレッドへとぶつけて行く。連続して炸裂するフレアは流石に効いたのか、血反吐を吐いて体中を傷だらけにしている。
「まだまだ行くぞ。この程度で倒れてくれるなよ」
反動を気にしない、一時的なブーストによる波状攻撃。倍加された力はヴァーリの力を以てしても奪い切れず、グレートレッドの力を以てしても防ぎきれない。
神威の波動がより強く鼓動を刻む。
「
掌サイズにまで凝縮された星が、一瞬のうちに膨張して爆発する。
──超新星爆発。
宇宙規模の大熱波がヴァーリ達を襲い、その存在を焼き殺さんと灼熱の業火を穿ち続ける。まともに受ければ死を免れられない、究極の炎。
「お、ああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!」
『う、おおおおおおおおおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』
宇宙規模の大爆発を前に、ヴァーリとグレートレッドは一歩も退かない。
己の持つ最大限の力を持って、一誠の放った超新星爆発に拮抗する。──しかし、それは余りにも脆い拮抗だった。
一誠が後を考えずに放った最大の一撃だ。赤龍帝としての倍加の力を最大限使い、塵一つ残さず消し潰す為に放った究極の攻撃。如何にグレートレッドと言えど、これほどの攻撃を受ければ無事ではいられず、ヴァーリは致死の危険性を孕む。
「ここで、負けてたまるか────ッ!!!」
足りない。
己の力だけでは防ぎきれず、一誠からなおも奪い続けるだけではこのまま押し潰される。
ならばどうするべきか。
己の力のみでは駄目。それならば、誰かを頼るしかない。
誰を頼る? 事ここまでくれば、ヴァーリの隣に立てるような存在は最早いないと言ってもいいだろう。オーフィスならば可能だろうが、彼女は一誠を贔屓している。ヴァーリに力を貸す事はあるまい。
自分とアルビオンだけでは駄目なのだ。それだけでは、一誠の覇道を打ち破れない。
頼れるのは己とアルビオンのみ──否。ヴァーリには、まだ背中を預けられる仲間がいる。
黒歌。アーサー。ルフェイ。美猴。フェンリル。ゴグマゴク。
ヴァーリは、彼らの名を呼んだ。
●
「しょーがないにゃー。あんたに頼まれたら、手伝わない訳にはいかないっしょ」
「僕は嬉しい限りですよ。全力を出せる機会と言うのはそうそうありませんから」
「せ、精一杯がんばります!」
「俺っちも、赤龍帝とは一度闘ってみたかったからねぃ」
ヴァーリの背後。空間を切り裂き、この次元の狭間に姿を現す四人と二体。彼ら自身は神格にまで到達したヴァーリの域にはいないものの──ヴァーリには、それを覆す手段が存在する。
ヴァーリの左手が紅く光る。それは、白龍皇特有の\x{301d}奪う\x{301f}力では無く、赤龍帝の使うそれ。
即ち、\x{301d}倍加と譲渡\x{301f}の力だった。
「何──?」
未だ拮抗を続けているのはグレートレッドの力もあるのだろうが、恐らくはそれも無関係ではない。
奪い続けた一誠の力を元に、ヴァーリが己の力でそれを自身の力として会得したというところか。だが、一誠には信じられない思いであった。
自分とドライグ特有の倍加の力を他人が使うなど──虫唾が走る。
激情に駆られたせいかは定かでないものの、超新星爆発の力の規模が更に上昇する。このままいけば、僅かな拮抗の後にヴァーリ達を焼き尽くすであろう。
しかし、ヴァーリはそうさせない。
奪いに奪った巨大な力を倍加させ、それを突如として現れた彼らに譲渡する。ヴァーリに与えられた神威はそれだけでも十分過ぎる力を発揮し、全員の力を持って超新星大爆発を防ぎきる。
その中心に立つヴァーリは、一誠を睨みつけながら告げた。
「これが俺の──否、俺達の
元来、大きすぎる力は肉体にかかる負担も大きく、一誠がそうであったように限界を超える事は不可能に近い。
ヴァーリはその特殊な生まれ故に此処まで辿りつき、一誠は肉体を作り変えたことで無限へと至りつつある。
彼らがそうであったからと言って、黒歌たちもそうかと聞かれればそれは否。本来ならばあり得ない、ご都合主義とも言える出来事。
一誠がイリナに対してやった、自身の力を分け与えるそれと同じ技術。
「ふざけた真似を──」
『吾の事を忘れたか。余所見とは余裕なものよな』
ヴァーリに気を取られ過ぎた一誠を狙い、グレートレッドが爆発する神威をぶつける。強大な魔力による砲撃はドライグによって防がれたものの、その衝撃を完全には殺しきれない。
吹き飛ばされた一誠を一瞥し、グレートレッドはヴァーリを見る。
先程の事は、グレートレッドもまた同じように疑問に感じていた。一体どうやれば、彼らが自分たちと同じ領域の攻撃が出来るのか、と。
その答えは至極簡単で単純なものだった。
──肉体を捨てること。
精神体となった彼らには実体は無く、元の肉体に戻る事は恐らく不可能。魂のみの状態など脆弱に過ぎるが、一誠の研究資料を読んでいたルフェイと黒歌で仮初の肉体を創造し、そこにヴァーリが力を流し込む事で神域に至った。
無論、簡単に言っても出来る事では無い。まず肉体と魂を切り離す事が不可能に近く、切り離した後に魂が霧散してしまう可能性を秘めている。
此処に集まったのは単に運が良かっただけと言えるだろう。
──いや、本当に\x{301d}運が良い\x{301f}だけで済ませていいのだろうか。
一誠が肉体を創造した時も、オーフィスと言う素体を用いたとはいえ、大部分は『魔獣創造』の力に頼っている。それならば、余計にルフェイと黒歌が肉体を創造したことに説明がつかない。
(いや、まさか……聖書の神の野郎か?)
元々、聖書の神は二天龍の神器保持者を次代の神に据えようとしていた。ならば、ヴァーリにもその資格があって当然なのだ。
一誠の持つ『神器を自在に操る』事が出来る、同種のマスター権限。もしも仮に、それをヴァーリも有していたとするのならば?
(余計な事を……ッ!)
ヴァーリの為に戸惑う事無く肉体を捨てた黒歌たちもそうだが、ヴァーリ自身がその事を知っているとも考え辛い。ならば、天文学的確率の可能性を自身の手でつかみ取ったと言う事。
なるほど、これならば正に『神に愛されている』と言えるだろう。
ふざけていて、でたらめで、ご都合主義に過ぎる出来事だが──これが現実だ。
あるいは、最後の最後に聖書の神が遺した試練とも言えるかもしれない。これを乗り越えられないようならば、次代の神として君臨する資格は無いのだと言うかのように。
勝利者こそが、次代の神として君臨すべきだと嘲笑われている。そのように感じた。
「……舐めてやがるな」
『ああ、随分とふざけている。……だが、そちらの方が面白い。俺と相棒の力は、この程度でやられるようなものじゃあない。俺達の
「当然。俺が生涯で認めた、背中を預けると決めた相手はお前とプリシラだけだ──やってやろう、俺達二人で」
──私も、共に。
どこかから、声が聞こえた気がした。
誰かが見守っているような、不確かな感覚。
ともすれば、幻聴ではないかと思えるような感覚だが──一誠は、それが\x{301d}彼女\x{301f}の残留思念なのだろうと判断し、僅か数瞬だけ眼を瞑った。
「──俺達は負けない」
アクセス──神器システム。
そう呟き、左手に聖槍を構える。同時に禁手状態へと移行し、聖槍が眩いばかりの黄金の光を発した。
かつて、京都で聖書の神が使っていた特殊な禁手状態。管理権限が移った今、その力は一誠に受け継がれている。
『……なるほど、単なる若造では無かった訳か。聖書の神の力を感じた時から、おかしいとは思っていたが』
死んだはずの存在を感じたのだ。誰であろうと奇妙に思うのは仕方ないだろう。
だが、これほどの力を見せた。短期間での異常成長といい、認めないわけにはいかない。
その在り方を。その覇道を。
故にグレートレッドは、比類なき敬意を持って一誠とヴァーリの殺害を目論む。
この二人を生かして置くわけにはいかない。この二人の覇道は、ともすれば世界を破滅に導きかねない危険性をはらんでいるのだから。
事ここに至り、三体の龍は神格として極大の神威を炸裂させる。絶対的な殺意を持って、己こそがこの世の頂点だと認めさせるために。
「「『行くぞォォォォォォォォォォォォォ────ッ!!!』」」
同時に放たれた三人の攻撃はほぼ中間地点で接触して爆発し、辺りに巨大な衝撃波を生みだした。
黄金の聖槍を振るい、懐に潜り込んだアーサーと高速で切り結ぶ。
「ふふ、僕は嬉しいですよ。この聖王剣コールブランドの力を最大限振るう事が出来て」
「抜かせ。神器でさえ無いただの聖剣で、俺を斃せるとでも思っているのか」
そのまま数合打ち合い、背後から美猴の奇襲を受けて右手の剣を振るう。全てを切り裂くその剣は美猴の首を狙うも、美猴は紙一重の所でその凶刃から逃れた。
一誠を中心として、常にアーサーの対極の位置にいる。それだけで一誠は動き辛くなり、背後を気にせざるをえなくなる。
更に、そこにフェンリルとゴグマゴクまで加われば、一誠を切り崩す事もそう難しくないように感じられた──が。
「甘いんだよ、雑魚に構っている暇は無い」
『魔獣創造』の禁手による無数の天使の創造。莫大な『天使の力』を流入されて作りだされた天使たちは、それだけで十分過ぎるほどの力を持つ。
同時に『煌天雷獄』による波状攻撃を繰り出す。各種の属性を操るこの神滅具は、ただでさえ術師としての力が極端に高い一誠に持たせると、より凶悪な威力を発揮する。
連続する強力な攻撃に吹き飛ばされるアーサーたちは、追撃として放たれた爆炎を防ぎつつヴァーリの下へと戻った。
アルビオンはグレートレッドとぶつかっており、その力を奪い取ろうと吼えている。
「流石に強いですね、彼」
「俺っちとアーサーでかかっても傷一つ与えられないとか、出鱈目だぜぃ」
「それは今更だろう。それ位でなければ、俺が死ぬ気で超える壁としては不足だ」
黒歌、ルフェイ共に準備は整った。ヴァーリの傷は既に完治し、溢れ出る神威は白銀に美しく輝いている。
「攻勢に出るぞ。俺達が勝つんだ」
「どのみち、あんたが負ければ私たちは終わりにゃん。頑張って貰わなきゃ困るのよ」
「出来得る限りサポートします。頑張ってください、ヴァーリさん」
軽口を叩く黒歌と、緊張しているのか、動きの硬いルフェイ。それを見てヴァーリは薄く笑い、一誠の放った流星群を魔力の刃で防ぐ。
アーサーの振るうコールブランドの一撃で流星群の一部が消し飛び、フェンリルと美猴もまたヴァーリの行く道を作ろうと流星群を防ぎ始めた。
──これが俺の仲間だ。俺達はお前を超えて、高みへと至る!
ヴァーリは強い信念と共に拳を握り、一誠へと肉薄した。
「兵藤、一誠ィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!」
「ヴァーリィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!」
ノーガードでの拳のぶつけ合い。今度は拳だけでは無く、互いに術や武器を用いたより高度な戦闘だ。
『天使の力』だけを奪う事で自身へのダメージを極端に減らしていたヴァーリも、流石に禁手状態の聖槍まで加えた状態では捌けず、徐々にダメージを蓄積していく。
しかし、負けられない。
自分を信じてくれたものたちがいるのだ。その期待に応えなければならない。その想いに報いねばならない。
それが、ルシファーの末裔としての矜持でもあるのだから。
『ぐ、おおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!』
突如として、アルビオンの叫び声が聞こえた。グレートレッドとの戦いで不利になったのだろう。
しかし、ヴァーリはそちらを振り向く事は無い。視線を向けてみれば、そちらには既にルフェイとアーサーが向かっていた。
「仲間に任せりゃ大丈夫とでも言う気か? 温いんだよ、あの程度で俺と拮抗できると自惚れているんなら──このまま殺してやる」
集束していく一誠の神威は、その言葉が紡がれると同時に術となって力を放つ。
「
それは宇宙の極大規模で、収縮された星が更に圧縮されて引き起こす一つの自然現象。
「
──暗黒天体創造。
グレートレッドならば、あるいは生き残れるかもしれないが──疲弊したアルビオンと黒歌達では生き残るのは至難。
故に、ヴァーリは隙を見せざるを得ない。
そして、一誠はその隙を見逃さない。
聖槍から放たれた神威は真っ直ぐアルビオンを狙い、ヴァーリはその中間地点へと移動して放たれた神威をグレートレッドの方へと弾く。
『この程度で、吾が消失するとでも思っているのか! オーフィスと供にあった以上、それは分かっているだろう!』
「当然だ。だがしかし、俺にはお前を消滅させるための手段がある」
その為に、出来る限りグレートレッドの力をそいでおく必要があると言うだけの事。可能性を、確率を少しでも傾けたいのであれば、この程度の事はやってしかるべきだろう。
「ドライグッ!!」
『おうともよ!!』
一誠の背後で力を溜めていたドライグは、遂にその集束した力をアルビオンとグレートレッドへと放った。
しかし、その道筋の最中、ルフェイが出現させた無数の魔法陣と共に放たれた力が分散し、一部を跳ね返し、一部をグレートレッドの方へと向きを変えた。
魔法と魔術による特殊な術だ。神器を詳しく調べていた魔術派と英雄派の資料を読みあさり、ルフェイと黒歌という天才二人の力を持って神器の力を再現した術式。
とはいえ、時間が無かったので使えるのは一種類のみ。かつてシトリー眷属が使っていた、相手の攻撃を跳ね返すだけのカウンター専用神器。
ルフェイだけでは一部は跳ね返せずに向きを変える程度しか出来なかったものの、黒歌と二人ならば如何にドライグの攻撃が強かろうとも完璧に跳ね返す自信がある。それほどの力を、今やルフェイは得ているのだ。
それは、徐々に一誠が使うブーストによる反動が来ていたからでもある。
早めに決めなければ、一誠が劣勢に立たされることは間違いないだろう。
「……出来れば、もう少し削っておきたい所だが、そうも言っていられないか」
『持って後十五分。それ以上は、俺達の肉体が持たん』
オーフィスを素体に肉体を再構成し、無量大数の域にまで至れるようになったとはいえ、元は人なのだ。限界は確かに存在する。
肉体では無く、魂に依存する強度の問題。人としては破格の強さを持つ一誠だが、今回のブーストは余りに代償が大きい。
やり過ぎれば、確実にその力は減衰する。
なれば、ここで決めるしかない。グレートレッドには此処で退場を願うのみ。
「
激突する多元宇宙が、了解の存続を危ぶむ矛盾に消滅を命じる論理の究極。言わば宇宙単位の世界抑止力に他ならず、対象を始まりからなかったことにするという破格の力を持つ。
故に──お前は消えてしまえと、一誠が呟くのが垣間見えた。
存在から抹消されていく。
生きとし生けるものの"夢\x{301f}から生じた幻想の群体は、過去現在未来において『存在しないもの』へと成り下がる。
賭けには勝った。ならば、後は二天龍の決着をつけるのみ。
「さぁ、最後の勝負と行こうじゃねぇか、ヴァーリ!!」
グレートレッドを消失させ、ヴァーリの方へと向き直る一誠。
既に準備は整えているだろう。グレートレッドの相手をしている間に、一誠を迎撃するだけの準備を。
「俺はお前を超える。二天龍の決着も含めて、俺はお前の力を奪い続ける。──勝つのは俺だ! 今この場で、俺が究極へと至る前座として消えて行け!」
「笑わせるなよ、ヴァーリ。お前が奪い続けようと、永劫追いつく事など出来ん。──勝つのは俺だ! この次元の狭間で、
ぶつかる聖槍の神威と半減の力を最大まで使って創られた\x{301d}暗黒天体\x{301f}がぶつかり、空間をねじ曲げて聖槍の神威を逸らす。
黄金の光が肌を舐め、強大なる光の力に肌が焼ける。悪魔にとっては、あの光そのものが極悪な毒となるのだ。
それが分かっていてもなお、ヴァーリは怯む事は無い。
「──行くぞ」
「──来い」
ドライグとアルビオンが同時に魔力を放ち、神威を散らす。その隙に黒歌とルフェイが共同で術式を発動させ、一誠の動きを止めようと\x{301d}グレイプニル\x{301f}を使用した。
かつて悪神ロキと戦った際、フェンリルを捕えるために使われた鎖だ。
しかし、それは魔術と魔法を使って創られたものであり、フェンリルに限らず全ての存在の動きを止めるのに十分な強度を誇っている。
そしてそれは、一誠とて例外ではない。
「チッ! だが、この程度で止められると思うなよ!」
止められたのは動きだけ。神器を用いた攻撃ならばそれは無駄だと、無数に放たれる雷撃と爆炎。それらは全てゴグマゴクとフェンリルが弾き、辺りの天使は美猴とアーサーが消し飛ばしていく。
一誠までの道は出来、一誠自身は鎖に捕えられたまま。この状況ならば、ヴァーリの勝利は揺るがない。
その、はずだった。
「な、めるなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
既に限界まで酷使している神器の力を、更に引き出す。無限の領域に至ってもなお上昇するその力は、ヴァーリの予想を遥かに超え、グレイプニルを砕き割ってヴァーリの胸部へと強烈な拳をぶつけた。
互いに満身創痍。ヴァーリが仲間の援護を受けて強くなろうと、一誠は単体でそれを超えて行く。
ヴァーリもまた自身の力を倍加させて強化するが、突如として吐血した。
──それは、本来の力が\x{301d}倍加\x{301f}か\x{301d}半減\x{301f}かの違い。
ヴァーリがドライグの力を獲得したからと言って、完全に使いこなした訳ではない。むしろ、使い慣れず、相反する赤龍帝の力を使った事でヴァーリの肉体は限界を迎えつつあった。
だから、これもきっと当然の流れなのだろう。
「
最後に放たれるは、無数の星を圧縮して爆発させる超新星爆発。
無量大数の域に至った一誠と、肉体が限界を迎えたヴァーリでは拮抗など僅か一瞬。
「……済まない。負けてしまった」
「あんたが気にする事じゃ無いにゃん。あいつが化物過ぎたってだけよ」
「そうですよ。私は、ヴァーリさんについて来て良かったって思ってます」
「最後にこれだけ全力で戦えたのですから、まぁ満足してますよ」
「俺っちだって、お前と一緒に来た事は後悔なんかして無いぜぃ」
最後まで笑みを浮かべたまま、盾となって黒歌が、ルフェイが、アーサーが、美猴が、フェンリルが、ゴグマゴクが消えていく。
仲間たちが、共に歩いて来た戦友が消えて行った。
それに対してヴァーリは、アルビオンに対して最後の言葉を告げる。
「──すまない、アルビオン」
『謝るな、ヴァーリ。──私は、お前が最後の宿主であった事を誇りに思う』
神器システムは掌握されている。それに伴って魂を封じた神器──特にドライグとアルビオンは宿主と強い力で結ばれているため、肉体も精神も完全に同調していた。
故に一誠の力の総量は無限に倍加して無量大数の域に至ったし、ヴァーリの力は一誠の力を極限まで縮小させて奪い、更には一誠の倍加の力までも使って無量大数の域に足をかけた。
ヴァーリの死はアルビオンの死であり、アルビオンの死はヴァーリの死である。一誠とドライグもまた然り。
なれば、この結末もまた必然。
ヴァーリとアルビオンは、一誠の放った超新星爆発の前に散った──。