え?リリカル?
「と、いうわけで「とらハ」の世界に来てもうた」
『羨ましい……!!』
携帯の向こうから溢れてきそうなぐらいの呪詛が聞こえてくる、怖えよ。
『今すぐMEをYOUの元に呼ぶザマス!!』
「落ち着け、言葉使いとかおかしくなってるから」
『ハリーハリーハリー!』
「無理だよ、すぐに戻ったり呼んだり出来ないのはお前も知ってるだろうが」
『あ、……すまん』
「いいさ、とりあえず半年くらいここで頑張るよ」
——すぐには戻れない——
これは一度別の世界に移動すると、その世界が不安定になり、すぐに移動しようとすれば狙った世界に戻れないどころかその世界そのものに大きな悪影響を与えてしまう為だ。
例えば世界規模の天候異常や地震や気温異常等が例として挙げられる。
それを避ける為に世界が安定するまではその世界から動けなくなる。
「まあ、とらハの世界だからそこまで緊急性はないし問題無いだろ」
『え?『リリカルなのは』の可能性はないのか?』
「え?なにそれ?」
『………………お前、とらハシリーズどこまでやった?』
「2」
『……ああ、そりゃ知らんわな』
「え?なに、何か不味いの?」
『実は……』
友人、説明中……
「何そのバイオレンスな世界」
『そう言う訳でちゃんと調べないとマズイですぜ』
「どう調べろと」
『ん〜、確かA’sで……』
「待て、エースって何?」
『え、第2期だけど?』
「なにそれ、続いてるの?」
『Vividの後Forceで』
「ヴィヴィッド?フォース?」
『まあ、今はそんなに関係ないよ』
「……とりあえず納得しておく」
『でA’sで八神はやての家をリーゼ達がずっと監視してるって話があった』
「誰?」
『猫型』
「……意味が判らん」
『とりあえず街でそこそこな魔力を持った猫が1匹か2匹いたらリリカル世界が確定する』
「……了解した」
——【Anlassen(起動)】——
呟き、魔法を【起こす】
——【militarische Aufklarung(索敵)】、【ausgewahlter Bereich(対象範囲)】——
視界が歪み、ぶれる。2つの絵が重なるように——
「………………なんか、……妙な魔力を持った、猫が、2匹いる」
『リリカルおめでとう』
「——少なくとも今のところは面倒が増えたという認識しか持てない」
『どうすんだ?』
「適当にビジネスホテルとかで過ごそうかと思ったけど拠点を持った方が良さそうだ」
『一国一城の主か、胸が熱くなるな』
「マンションとかだと結界の範囲指定が難しんだよ」
『不動産探すしかないな』
「ああ、とりあえず探してくる。見つかって一段落したら連絡するよ」
『わかった』
「すまんがうちの親にも伝えといてくれ」
『おーけー、「お宅の息子、リリカルな世界行ってます」って伝えとくよ』
「それで頷きそうだからやだな……」
『前も特に何も無かったんだろ?』
「実に悲しい事にな……」
実の息子が異世界トリップして死に物狂いで帰って来て説明した後の第一声が「お土産は?」とか言う親だからな。
「それじゃあ行ってくる」
『リリカル頑張れ』
「リリカル吹っ飛べ」
電話を切って思わず溜め息が出る。リリカルな魔法の世界かあ……、ひとまず家探そう……。
「……もうこんな時間か」
時間は既に夜中の12時を回っている。そして今いるのは海鳴市の山の麓付近にある小さめの洋館の中だ。
あれから街の不動産屋に行く前に数件の質屋に行って宝石や貴金属を換金してきた。一応幾らか持っていたが全く同じ番号だったりほんの少しでも製造の過程や成分が違った場合、
『本物なのに偽物』
結果、逮捕とか絶対嫌だったのでこちらの世界でお金を用意して不動産屋に向かい数件の物件の果てにこの物件を見つけ即購入した。街からも遠すぎる事無く近すぎる事もない。
家の結界の展開は既に済んでいる。俺自身か俺に許可された人物か、結界を突破できる技術と力を持っていない限り不可能だ。
今は家の中には当然何も無いが後で『倉庫』からいろいろ出したりして家具とか配置しないといけないな。考えただけで大変そうだな……。そうだ、寝る前に1回電話しよう。
携帯を取り出し魔力を通し術式を起動する。これは同じ術式を組み込まれた携帯に世界を超えても繋げる事が出来る。凄い魔力食うんだけどね。
暫く呼び出しコールが鳴ってから昼に話していた声が聞こえてきた。
『あれ?どうした?』
「ああ、とりあえず拠点とか一段落したから連絡したんだが……」
『え?早くね?』
「そうか?半日近くかかったが」
『最初の電話から10分くらいしか経ってないけど?』
「なん……だと……?」
ま、まずい……!『ここ』と『むこう』の時間軸がずれてやがる……!!
どこの精神と時の部屋だよ!!
『それで帰るのにどれくらいかかりそうなんだ?』
「多分……、半年くらいかな……」
『あれ?随分あやふやだな』
「この世界の構成の形がな——」
『どういう事?』
「この世界が『多界内包型』なんだよ」
『は?』
「簡単に言うとだな、でかいシャボン玉の中に沢山の小さなシャボン玉が入っていると思えばいい」
『へえー』
「そのせいでうまく安定具合が測定できないんだよ」
『他の小さいシャボン玉にも行けないの?』
「それは問題無く行けるけど?」
小さいシャボン玉——内包された世界同士は密接に隣り合っているから通っても大きな影響はない。
『………………』
「どうした?」
『……なあ、聞いて欲しい事があるんだけど……』
「なんだ?」
『ちょっとやって欲しい事があるんだけど——』
「……なにすんの?」
『原作ブレイクだよ』
つまり「本来出る筈だった結果を介入することでその結果を変える」、と
「そもそも今回のは事故だし、必ずしもお前の知ってる原作通りに進む訳じゃない。ここは物語じゃないんだ。人が生きて、それぞれが選択して進む世界なんだぞ?全く別の世界の俺達が関わる事じゃないと思うが?」
『わかってはいるさ、それでも「知っている」のなら出来る限り何とかしたいじゃないか』
「言いたい事は判る、だが——」
『頼む』
「………………」
『自己満足なのはわかってる』
「………………」
『それでも——』
「……全く、仕方ないな」
『おお!!』
「とりあえずいろいろ準備してくるからまた連絡する」
『じゃあ、俺家帰る!』
「おい、学校どうするんだ」
『それどころじゃねえ!!』
「あ、そう……」
『どうせもう家の前だし』
「早いな!」
『お前から電話来て即座に学校早退したから』
「手際いいな」
『それじゃあ頼んだぜ!』
「はいはい……」
電話を切って一つだけ出してある椅子に座る。
何だか大変な事になりそうだな……
「おはよう」
『おはよう!さあ、行動開始だ!』
電話口から聞こえてくる馬鹿みたいに元気な声にうんざりしつつ昨日と今日の朝に収集した情報を伝える。
『じゃあ、まだ原作前か』
「そうみたいだな、調べた限りじゃまだ高町なのははまだ5歳くらいだな。父親は入院中らしい」
『なるほど、原因は』
「周囲には「事故」って話になってる」
『なのはは?』
「母親は店で忙しそうで兄も姉も店の手伝いか父親の見舞いらしい」
『うわあ……』
「外で元気に友達と遊んでるってのは聞かなかったな」
『なら第1目標は決まったな』
「父親の怪我でも治せってか?」
『いや、お前がなのはの友達になってくれ』
「……今年の春から高校3年生になる17歳の男子が初対面の5歳児と遊べと?即座に
お巡りさんこいつです。
とか言われても何の不思議もねえよ」
『なのはに大事なのは家族の愛情もあるだろうけどそれは俺達じゃ解決できない。でも「友達」なら何とかなるぜ!』
「説得力はあるけど納得できないのは何故かしら……」
『お前なら出来るって!』
「お前の言ってた原作キャラと会わせたりすればいいんじゃないのか?」
『確かにそうかもしれないけど……そうか!!』
「だろ?」
『ああ、正に盲点だったよ……!』
あれ?向こうから「くっくっく」とか明らかに悪役みたいな声が聞こえてくる不具合があるんだけど……?
『そうと決まれば出発だ!』
「え?何処に?」
『「友達」を迎えに行くんだよ』