ふぁーすとぶれいく
どうも、はじめまして
——何も無い部屋の片隅で「あたし」は床に座っている。
目が覚めたら知らない場所、知らない奴等、知らない時代。
奴等は「あたし」を「サンプル」だと言った。
——貴重な古代ベルカの技術を知る為のレプリカではない、完全なオリジナル。
——「古代ベルカ式ユニゾンデバイス」——「烈火の剣精」、それが「あたし」だ。
目覚めて1週間、奴等はいろいろ調べた。だけど大した成果は上がらず、
明日からは様々な「実験」を行うと言っていた。
——逃げたい、今すぐここから逃げ出したい。
でも魔力は封じられてるし、「あたし」単体では大きな力は発揮できない。
でも何もできないまま奴等に良いようにされるのなんて冗談じゃない。
1回くらいは奴等の顔面に——
『うわああああぁぁぁぁああ!!!!』
「っ!?」
突然響いた悲鳴、だけど周りが騒ぐ事もなく悲鳴が止んだ後は静けさが戻ってさっきの悲鳴が夢だったみたいだ。
ゆっくりとドアの方に近づいてみる。窓もないので意味はないのだが何かしないと不安だった。
そして——
「おはよう、いや、こんにちは、かな?」
今までどんなに叩いても奴等が開ける以外開かなかったドアがすんなり開いて「変な奴」が挨拶しながら入ってきた。
——黒いとんがり帽子に、黒いローブ、手には箒をもっていた。
まるでおとぎ話の「魔法使い」のような奴、
襟を立てて顔は見えず、声もこもっているのか男か女かもわからなかった。
「君が「烈火の剣精」かな?」
「……あたしになんの用だ」
一定の距離を保ちながら話す、少しでもチャンスがあればここから——
「ふむ、まずはその邪魔な拘束を外そう」
「へっ?」
一瞬だった、「そいつ」が何か呟いて指を鳴らした瞬間。
あたしの魔力を封じていた枷がまるでおもちゃの様に外れた。
「さあ、行こう」
「は?え?へ?」
「そいつ」はあたしをそっと抱きかかえるとさっさと歩き始めた。
「ど、どこに行くんだよ!?」
「まずはこことは別の世界へ、ここにいるのは嫌だろう?」
「そ、そりゃそうだけど……、あ!ここの奴等は!?」
「ああ、心配ない。君に関する事とここ1カ月の記憶と研究データをボンバーしたから誰も君を追う事は出来んよ」
「はあ!?」
さも当然の様に言う。
「ど、どうやって!?」
「【魔法】さ」
「ベルカ式か?」
「いいや、【魔法】だよ」
「だからそれがベルカ式かどうか聞いてんだよ!」
あたしが怒鳴って問い詰めると「そいつ」は急に止まってあたしを見た。
「な、なんだよ」
「ミッドチルダ式、ベルカ式、古代ベルカ式。果ては忘れられし都。これはそのどれでもない、ただの、【魔法】さ」
「ま、まほう?」
「その通り、後でいろいろ教えてあげよう。だがまずはここを離れよう、さあ行こう」
そう言うと「そいつ」は箒を振るう。すると周囲に光が溢れる。
「な、なんだこれ!?」
「さあ、始まるぞ」
「な、なにが!?」
「リリカルーマジカルー」
「なんだそれーー!?」
あたしの叫びと共にあたし達の姿はその世界から消えていた。
「はい、今麦茶しかないけど」
「さ、さんきゅ」
目の前で小さなコップに注がれた麦茶を全身30センチほどの悪魔のような羽の生えた赤っぽいピンクの髪に紫の瞳を持つ少女?みたいな子が麦茶を飲みながらケーキを食べている。
なんでもリリカルなのはの第3期に敵として登場する子らしい。
俺は見た事無いから知らないんだけど。
「うまいな、これ!」
「それは良かった」
とりあえずケーキを食べ終えたので話に入るかな。
「さて、そろそろ自己紹介をしたいんだがいいかな?」
「……」
あれ?自己紹介って言った途端に目に見えて凹んだぞ?
「どうかしたのかな?」
「あたし、自分の名前無いんだ」
え?名前無いの?どゆこと?あれ?あいつが言ってた名前は?
「おや、そうだったのか。それは申し訳ない」
「い、いやあんたが悪い訳じゃないし!」
「しかし名前が無いと不便だな」
「それは……」
「なら、俺が付けてもいいかな?」
「え?」
「君の名前、俺が名付けてもいいかな?」
「い、いいのか?」
「君が不満なら自分で付けてもいいぞ」
「あ、あんたが付けてくれ!」
「ふむ……」
「……」
「では……、「ポチ」?」
「なんでだーーー!!」
おお、いいリアクションだな。
「どう考えてもおかしいだろ!?ポチ!?なんかペットみたいな名前じゃねえか!!」
「じゃあ、「タマ」」
「同じだろーが!!」
上に手を伸ばして吠えている。結構面白い子だな、この子。まあ、遊ぶのはこれぐらいにするか。
「では、『アギト』はどうかな?」
「アギト?」
「そう、烈火の剣精、アギト。中々カッコいいと思うが」
「アギトか……」
彼女は腕を組んで何度かアギトと繰り返し呟く。やがて満足したように頷いた。
「アギトか、うん、気に入ったぜ!」
「そうか、これからよろしくアギト」
「おう!」
俺とアギトは握手を交わした。
さて、これからいろいろ忙しくなるな。