もじにするとはんざいしゅう
05歳と17歳の出会い
「おはよう、調子はどうだ?」
「問題ありません」
朝起きて服を着替えてイクスヴェリアの部屋へ行き調子を聞きに行く。
そこには16,7歳くらいの美少女がベッドに上半身だけを起こして本を読んでいる。
「何読んでるんだ?」
「愛憎渦巻くサスペンスです」
「どうしてそのチョイス……」
「昨夜、これを原作にしたドラマがやっていて気になったので」
「適応力高いなあ」
「【魔法使い】は適応力が高いのです」
あれからイクスヴェリアを連れて帰ってきて体を診察、全身にガタが来ていて急遽【治療】を行った。
断じてエロい事はしていない!
まあ、それで治療の結果体の調整とかしたら16歳くらいの体格が一番安定したんだよ。
ちなみにさっきのイクスヴェリアの台詞からも分かると思うけど彼女もこっちの事情を話したらあっさり【魔法使い】への希望が出た。
だけど今は体の状態が落ち着くまでは教えるのは【基礎】のみだ。
そんなこんなで1カ月、アギトの【属性】とイクスヴェリアの治療と調整で忙しかったがやっと落ち着いてきた。
そして今日、また新たな出会いをする。
設置していた【対象索敵】に反応があった。
これは『高町なのは』が外を出歩いているという事だ。
調べた限り彼女は幼稚園が終わるとすぐに家に帰って外に出ないし、幼稚園でも友達と遊ばない。
【索敵】によると高町家の最寄りの公園に向かったようだ。とりあえず向かうとしよう。
…………ナニコレェ
【空間湾曲】で気配どころか映像にも残らないように姿を消しながら公園に到着。
格好は【魔法使い】の格好だ。
それで高町なのはなんだが——
公園の隅のベンチに腰掛けてこの20分ほど微動だにしないんだけど……
表情は暗い事この上ない、公園は既に午後の5時を過ぎ、子供たちの姿は既にない。
そろそろ家に帰らなければいけないのに高町なのはは動こうとしない。
このままじっと見ている訳にもいかないか……。
お父さんが事故にあって入院して、わたしはずっと「1人ぼっち」でした。
お母さんはお店が忙しくてご飯はいつも「1人」
お兄ちゃんはお母さんのお手伝いで忙しい。
お姉ちゃんはお父さんのお見舞いで忙しい。
いつも皆は「いい子にしていて」と言います。
——でも寂しくて寂しくて、わたしは公園にやってきました。
——ここにずっといたらお母さん達が捜しに来てくれるのかな?
怒られてもいい、少しでもいいから——皆と一緒に居たいのに——
「こんな時間に1人でどうかしたのかな?」
声をかけられて顔を上げるとそこには——
黒いとんがり帽子に黒い服、手には箒。
——絵本から出て来たような【魔法使い】がそこにいました。
「あ、あの……誰ですか?」
わたしが聞くと男の人の声で
「はじめまして、ただの通りすがりのお節介な【魔法使い】さ」
わたしは驚いてしまって言葉が出ませんでした。
「………………」
や、やばい。さすがに警戒されたか……?
公園を周囲から【隔離】して話しかけたんだが【魔法使い】と名乗ったら微動だにしなくなっちゃいました。
さすがにいきなり過ぎたか……?
「あ、あの……」
「なにかな?お嬢さん」
「本当に【魔法使い】さんなんですか?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに?」
「——君がとても寂しそうだったからね、ついつい話しかけてしまったのさ」
「…………っ」
げえええ!?なんでいきなり泣きだしたんだ!?
「どうかしたのかい?」
内心の動揺を何一つ表に出す事無く優しく高町なのはに話しかける。
心の中は絶賛大パニック状態だがな!!
「わ、わたしっ、さびしくて……っ!」
ああ〜……、まあ普通はそうだよなー。
一番甘えたい時期に家族の誰もかまってくれないなんてキツイよな。
——【Darstellung(表現)】、【HexereiFeldlager(魔法陣)】——
自分の足元を【起点】にアニメに出てきそうな大仰な【魔法陣】を展開する。
……魔法陣自体に意味は全くないけどね。
「わあぁっ……!!」
高町なのはは魔法陣を見て驚いている。続けて行動する。
——【Bau(構築)】、【Menschenform(人形)】、【Plural(複数)】——
周囲に全長40センチほどの人形が6体ほど現れる。
——形は某東方の人形の魔法使いの人形をイメージして【構築】した。
「ええっ!?」
「さて、これで終わりではないよ」
——【Hinweis(指示)】、【Tanzen(ダンス)】——
命令を下すと人形達が一斉に様々な踊りを披露する。俺達二人を中心に回りながら踊り続ける。
「す、すごいっ!」
「どうかな?【魔法使い】だと信じてくれたかな?」
「はい!」
おお、一気に笑顔になってくれた。
このまま泣かれていたらどうしようかと思ったけど、良かった良かった。
【停止】を人形達に命令する。
「今日はもう遅い、帰った方がいいだろう」
「あ……」
「大丈夫、明日もここで会えるさ」
「ほ、ほんとですか?」
「本当だとも」
さて、じゃあ帰るとするか。
「あ、あのっ!」
「どうしたんだい?」
「わ、わたしっ、高町なのはです!」
ああ、そうか、自己紹介をしてなかった。
「御丁寧にありがとう、俺の名前は『遠坂時臣(とおさかときおみ)』だ。よろしくなのはちゃん」
これが『高町なのは』との出会い。
この後彼女とは毎日のように公園で会い、様々な話をした。
——そして、半年の月日が流れた。