がんばれときおみくん
帰ります。事故った?それでも帰ります。
「もうすぐ帰れるぞ」
『まじっすか』
「まじっすよ」
電話で友人にもうすぐ帰れる事を報告する。
どうも遠坂時臣です、——え?赤いあくま?うっかり?
違うから、名前が同じだけだから!!
この名前のせいで何度「うっかり」と呼ばれた事か……
思わず涙が出そうになったけど我慢、我慢。
『なのはちゃんの様子はどう?』
「ああ、イリアやアギトとも仲良くやってるよ」
あれからしばらくは公園で遊んでたんだけどね。
毎回公園を【隔離】してなのはちゃんに【魔法】を見せるのは流石にまずいから家に招待して【魔法】についていろいろ見せたり教えてあげたりした。
あ、「イリア」はイクスヴェリアの事だ。
折角だから愛称で呼ぼうって事になって皆で考えた結果「イリア」になりました。
なのはちゃんには【魔法】の存在や危険性をすこしずつ時間をかけて教えたんだが本人がどうしても【魔法】の取得を望んだ。
5歳であの粘りっぷりには驚いたよ。
アギトやイリアと話して条件付きでなのはに【魔法】を教える事を了承した。
条件と言っても簡単なもので【魔法】の基礎を教える時は俺とアギト、イリアが3人揃っている事、アギトが教師兼補助として日常での【魔法行使】を見守る事。
きちんとした【魔法使い】に【なる】には家族の許可か本人が成人してからという条件だ。
なのはちゃんと出会って早半年、イリアの体調も安定してきた
なのはちゃんも元気に……って毎日家に遊びに来るのは良いんだけど……
兄である高町恭也がなのはちゃんにいろいろ言っているらしい。
遊びに来たなのはがずっと文句を言ってた。
……「魔王」の一言が頭をよぎるくらい家で怒ってたよ。僅か5歳で魔王の片鱗を見せてくれるとは侮れんな……
……間違ってもお兄さんと真剣勝負とかにはならないよね?
さて、現実逃避もそこそこに改めて視線を前に戻す。
俺にしがみついたまま微動だにしないなのはちゃん。
困った表情でなのはちゃんの横にいるアギト。
普段と変わらない感じで紅茶を飲んでいるイリア。
「なのはちゃん、このままだと困るんだけど……」
「…………」
フルフルと首を振りながらも俺から離れようとしない。
「な、なあ、なのは?そろそろマイスターから離れたらどうだ?」
「いや」
「マイスターも困ってるしさ」
「いや」
「えーと……」
アギト!もうちょっと頑張って!
「なのは、それぐらいにしてあげないと兄も困っていますよ?」
「…………」
「二度と会えない、と思っているんですか?」
「…………」
「兄の【魔法】を信じていないんですか?」
「…………」
イリアの言葉に即座に首を横に振る。見上げる顔には不安の表情がありありと浮かんでいる。
「確かにこちらと向こうの時間軸はずれている、だけど次に会えるのが100年後という事にはならないよ」
「……本当ですか?」
「ああ、これだけは言える。【必ず、また会える】」
「…………」
「信じてはもらえないかな?」
「……わかりました。わたし、先生達とまた会えるの待ってます!」
「ありがとう、なのはちゃん」
なんとかなのはちゃんを説得して彼女が家に帰ったその日の夜に友人に電話をして今に至る。
「説得するのが大変だったよ」
『お疲れさん、……そういえば「プレシア・テスタロッサ」の件は?』
「言われたとおりに【捜索】をかけたがこちらの網にはかからなかった。お前の言ってた「時の庭園」とやらに引きこもってるんだろう」
『……そうか』
「ずっとそういう場所に引き込まれるとうまく反応が出ないから困る。しかも座標が決まってないからこちらからは向かえないからな」
『居場所が決まってたらなー』
「テスタロッサの場所特定は無理だったがもう他の方はきちんと調べておいたぞ」
『おお、素晴らしい』
「イリアと2人で調べたから早く終わったよ」
『そんなに彼女能力高いの?』
「彼女のレアスキルだっけ?あれと【魔法】を組み合わせて凄い事になってるよ……」
『……まじで?』
「帰ったら教えてあげよう」
『知りたいような知りたくないような……』
「安心しろ、嫌でも説明してやるから」
『うわーお』
「それじゃこれから準備とかあるから」
『おっけー、また後でな』
「ああ、また後で」
電話を切って居間へと戻る。
そこには荷物を纏め終えたカバンを足元に置いて待っているイリアと寂しそうな表情をしているアギトがいた。
「荷物の準備は終わったのか?」
「ええ、元々大した量はありませんでしたから」
「マイスター……」
アギトが寂しそうに話しかけて来た、アギトにはなのはのサポートとして傍に居てもらう事になっている。
「大丈夫さ、これが今生の別れじゃない。アギトにはなのはちゃんが無茶をしないように見ていてくれ」
「ああ!任せてくれよマイスター!」
「あなたもはしゃぎ過ぎないようにしなさい」
「信用してくれよ!?」
「……信用……してますよ」
「凄い信用されてない!?」
イリアがアギトから完全に視線を逸らしながら頷いている前でアギトが必死に訴えてる。
「それじゃそろそろ行くか」
「わかりました」
「気を付けてなマイスター!!」
アギトが離れイリアが近くにやってくる。早速【魔法】を【起こす】
——【metastasieren(転移)】、【Heimkehr(帰還)】——
——【Alternativwelt(もうひとつの世界)】!——
体が薄れ少しずつ【世界】からずれていく。この【世界】から離れて——
——引っ張られる!?
「……はあ!?」
今まさに終焉を迎えようとしている何処かの乗り物の中に!?なんじゃこりゃあああああ!!!?
「中々変わった家ですね、兄さん」
「絶対嫌味だよね!?それ!?」
嫌味を言われながらも周囲に【索敵】をかけるが何かの「船」らしいがほとんど人が乗っていない。
——俺たち以外には目の前で倒れている1人の男性だけのようだ。それに——
「何か後ろに【います】ね」
「ああ」
【歪んで】いる、空気が、存在が、まるで【世界】そのものを否定するかのような強い意志。
「っ!!兄さん!」
「落ち着いて物事を考えさせて欲しいのにーー!!」
前の方から大規模な【力】の収束が発生する、どう考えても友好的な雰囲気は微塵も感じない。
ていうかどう考えても後ろの奴狙いとしか思えん!!
傍に倒れている男性を掴んで【術式】を即座に再構築し【起動】する——!!
「間にあえええええ!!」
【転移】して歪んだ風景がはっきりしていく。
そこは良く見ている我が家の客間。
……一瞬涙が出そうになったが一生懸命我慢する。
扉の外からドタドタと歩く音がして扉が開くとそこから長い付き合いの理解ある友人が入ってくる。
「おかえ……ええ!?誰!?何!?」
「落ち着け、俺はもっと混乱してるから」
「何で連れて来たお前が混乱してんの!?」
「1分前に拾ったんだよ」
「1分前!?拾った!?」
「とりあえずこれをどうにかしましょう」
「これ扱い!?っていうかどちら様!?」
「はじめまして、イクスヴェリアと申します」
「ワーオ!!」
「よし、落ち着いて1個ずつ物事を片付けていこう」
「わかりました兄さん」
「ワーオ!!」
「落ち着いてください」