きかん
ただいま。で、【お土産】は?
「落ち着いたぞ」
「それはよかった」
あれからつい拾ってきた男性を【治療】して寝かしてある。
【安眠】もかけてあるので急に起きて暴れる事はないだろう。
とりあえず俺の部屋で3人で菓子を食べながらまずは自己紹介から始めた。
「えっと、初めましてイクスヴェリアさん?俺は時臣の友人の『鎌田敏彦(かまたとしひこ)』。よろしく」
「どうもイクスヴェリアです。こちらの【世界】の事は話を聞いただけなので何かありましたらよろしくお願いします」
ひとまずの自己紹介も終わりお互いの状況報告を行う。
「じゃあ、なのはちゃんは【魔法使い】としては優秀なんだ」
「そうですね、かなり優秀な方だと思います」
「それについては同感だな、あいにくと魔導師という存在の基準がイリアの時代、
しかも今は殆ど使い手のいない古代ベルカしか知らないから断言はできないが現存の魔導師じゃなのはには勝てないと思う」
「え?そんなのなのはちゃん魔改造したの?」
「別に体いじったわけじゃないんだが……」
「兄さんはわたしの体はあんなに弄んだのに……」
「ワーオ!!?」
「なんちゅう誤解を招く言いかたしてんの!?」
「わかっています、わたしを助ける為にした事だと」
「なーんだ、びっくりしたなーもー」
「だったら首を絞めようとしてるこの手のをいますぐ戻せ」
「こ、これが想いと行動のずれって奴か……!」
「…………——【Anlassen(起動)】——」
「それでは報告の続きを聞こうか」
「……あの男性に関しては怪我は治療済み、かなりの怪我だったから意識が戻るまでは時間がかかるとは思うけど。ちなみに所持品はこれだけだったな」
「カード?」
俺が敏彦に見せたのはおそらく身分証明書だと思われる1枚のカード。
そこには男性の顔写真と文字が書いてある。そこには——
「これ英語か?」
「少しアレンジが加わってるが英語読みで大丈夫だと思う」
「ハラ……クラ……?」
「クライドじゃないか?」
「『クライド・ハラオウン』!?」
「誰?」
「……もし俺の想像通りの人物なら」
「人物なら?」
「原作では「死亡してる」人物だ」
どうやら拾い物は「死人」だったらしい。
「——以上が俺が知ってるクライド・ハラオウンの周囲の背景だな」
敏彦の説明を聞いた後、イリアがため息をついて呟いた。
「馬鹿馬鹿しいですね」
「どっちが?」
「時空管理局、闇の書の存在。全てですね」
「なんで?」
「——そもそも危険だと解っているのなら何故もっときちんと闇の書に関して調べないのか。無限書庫とか言う場所で調べて夜天の書という答えに辿り着けるのに辿り着かない。無能といわれても仕方ないでしょうね。
——そして、闇の書は完全に狂っています。人の形をしていても所詮プログラム、管理局や他の誰かに助けを求める事も無くただ人を襲う。全てが主優先、そして集まれば暴走する。転生すれば暴走した記憶を失う。
——これを狂っていると言わずに何と言えば?」
「……あー」
イリアの言葉に敏彦が何とも言えない表情をしている。
「まあ、細かい話は「これ」を交えて考えましょう」
イリアがもっていた「それ」を俺達の前に置く。
「……なあ、イクスヴェリアさんや」
「なんでしょう兄さん」
「……「それ」……何?」
「あの時うしろにいた存在の中核です」
「「闇の書じゃねえか!!!」」
なに持ってきちゃってんの!?
「おいぃぃぃ!?それ闇の書!?」
「何してんだイリアアアアァァァァ!?」
「落ち着いて下さい2人とも」
「何でそんなにお前はすっげえ冷静なの!?」
「ワーオ!闇の書ワーオ!!」
5分ほど騒いで何とか落ち着きました。
「で、どうやって持ってきちゃったの?」
「はい、こちらに攻撃される前にと【索敵】し【把握】した後、中核と思われる部分と周囲を【分断】しました。それがこれです。残念ながらあの短時間で取り出せたのはこれだけで大半はあの状態でしたので放置してきました」
自分もそこそこチートだとは思ってたけど、イリアも十分なほどチートだなー。
「てことはこれ闇の書の一部ってことか」
「闇の書の一部?いや中核って事は……」
敏彦がうんうん唸りながら考えている。その間に俺とイリアは【解析】を続ける。
「うーん、管制?防衛システム?それにしては変なプログラムだな……どっかで見たような……」
「兄さん、これはユニゾンデバイスのシステムです」
「ああ!だからか、どこかで見た事あると思ったらアギトか」
「管制のユニゾンデバイス?」
「お、敏彦何かわかった?」
「ああ、たしか闇の書の管制プログラムが融合騎だ」
「……なんじゃそりゃ?」
話聞いた限りだと闇の書には4騎の守護騎士という闇の書の主を守るプログラムがあるのに、さらに管制システムが融合騎として主と融合してさらなる力を発揮するって……
「闇の書は魔法を蒐集したいのか戦いたいのかわからんな」
ただ魔法を集めるのならそこまで戦力を必要とするのか?
それとも魔導師の世界ってそんなものなのか?
うーん、唯一の対象が戦乱の時代の出身だから参考にならない。
「しかし大丈夫なのか?管制プログラムって事は一番大事な部分だろ?」
「原作だと目覚めるのは闇の書が完成してからだったな、一応意識は闇の書が起動したときからあるみたいだけど」
「防衛プログラムは?」
「管制プログラムが影響を受けていますが防衛プログラムの本体自体は存在しません、向こうに置いてきましたから」
「それが原因で消滅しちゃうんだよな……」
敏彦が悲しそうに闇の書の管制プログラムを見ながら言う、…………は?
「え?こんなんで消滅しちゃうの?」
「え?どういうこと?」
「魔導師ならば治すのは無理でしょう、ですが」
「【魔法使い】なら【治す】のは無理じゃないよ」
「……あの子達の悲しみは何だったのか……!!」
敏彦が微妙な表情で床の上をのたうちまわってる。……なんか、すまん。
「じゃあ、どうしようかこれ?」
「流石に完全に独立させたらまずいな、この子ははやてにとって大事な「家族」だからな」
「ではそのままにしますか?」
「いやいやいや!治せるんなら治してあげようよ!」
「残念ながらそれには賛成できません」
イリアが即座に反対する。
「え?なんで!?」
「闇の書は幾度も暴走し、守護騎士は後先考えずに魔導師のリンカーコアを蒐集したのでしょう?
——ならその怨嗟は計り知れない、その管制プログラムに干渉すると言う事は我々の存在が時空管理局に知られる可能性が著しく跳ね上がります」
「ま、まあそうだけど……」
「メリットとデメリット、考えれば闇の書と関わる事はデメリットしかありません。それに【魔法使い】の技術は魔導師にとっては喉から手が出るほどのものです。それを考えれば関わるのは危険極まりないかと」
「……確かになあ」
「時臣……」
「世の中お前のような連中ばかりじゃないって事、しかも原作通りの管理局なら絶対に面倒事しかない」
「……」
「だけど」
「兄さん?」
「今後の事を考えれば一応の管理局との繋がりは欲しい、だが腐った繋がりだとこっちの身が危ないからな。折角だから「拾いもの」を有効活用するとしよう」
「時臣……!」
「いいのですか?兄さん」
「イリアは反対か」
「兄さんが賛成ならわたしはそれに従います」
「まあ、やばくなったらすぐ逃げよう」
「ですね」
話が一段落した所で時計を確認すると夕方に近い時間だった。
「さて、今後の一応の目標も決まった所で夕飯の準備でもするか、親にイリアの紹介もしなくちゃいけないし」
「じゃあ、俺も」
「お前いらないだろ」
「ええ、いりませんね」
「君達厳しくない!?」
ワイワイ騒ぎながら今後のことを考えると
……大変そうだなあ……。
しみじみとそんな事を思いながら夕飯の準備に向かった。