どんどんはなれていく
なのはと初めての『魔導師』 --Ⅱ--
「う、うーん……」
彼が目が覚めるとそこは気を失う寸前の記憶の場所とは違っていた。何処かの室内、見回した感じでは女の子の部屋のように見える。
「ここは……」
「目が覚めましたか」
「!」
頭上から聞こえた声に顔を上げるとそこには薄茶色の髪をした20手前の女性が立っている。
「あ、あなたは……?」
「まずはこちらから質問します。貴方は『魔導師』ですね?」
その言葉に彼は驚く。
「!?、貴方も!?」
「いいえ、わたしは『使い魔』です。それよりこの世界に何の用ですか?」
「それは……」
「あんな大胆な『念話』をして何が狙いですか」
「じ、実は……」
彼は話す、今回のはじまりを——
「……なるほど、ではその『ジュエルシード』を輸送中に事故で——」
「はい、この世界に拡散してしまって……」
「管理局には知らせたのですか?それにこの世界は魔法の使用は許可されているのですか?」
「管理局には知らせました、でもここは『第97管理外世界』だからすぐに来てくれるかどうか……」
「——それで単独で回収しようと?」
「はい……、でも僕の力じゃ1個が限界で……魔力も尽きてしまって。それでこの世界に他に魔導師がいないかと……」
「そうですか——」
話を聞き終えたリニスは溜め息が出そうになるのを何とか押えこんだ。
——あまりにも無謀すぎる。
彼、『ユーノ・スクライア』が取った行動はそれだけ危険過ぎたのだ。
『ロストロギア』——、それもその中でも危険度が上位にあるような物をたった一人で回収する。しかも『ジュエルシード』の危険性を聞けば聞くほどユーノの取った行動はより一層危険な行為だ。
「どうか主の魔導師の方と協力してくれませんか!?」
「協力する事は問題ありませんが条件があります」
「なんでしょう?」
「簡単な条件です。
決して私達の情報を漏らさない事、
管理局には貴方一人でジュエルシードを回収したと報告する事、
私達の事を詮索しない事。
ひとまず以上です」
「わ、わかりました」
「よろしい、では主をお呼びします」
リニスはそれだけ言うと部屋の扉を開ける。
そこにはユーノと対して歳が変わらないであろう茶色の髪を背中まで伸ばした少女が立っている。
少女は部屋に入って来ると屈んでユーノに微笑みながら話しかける。
「初めまして、調子はどう?魔力は回復した?」
「え?——あ、あれ!?」
ユーノは自身の身を調べて、驚愕した。
ジュエルシード1個を封じる為に使い切ってしまった魔力が回復しきっている。
——普通ではありえない。
「あ、あの!一体どうやって!?」
「「詮索」はしないという約束ですが?」
すかさずリニスがユーノに釘をさす。
「す、すいません……」
「にゃはは、いいよいいよ。ところでスクライア君はその姿が本来の姿なの?」
「いえ、この姿は魔力を節約する時の姿で——」
ユーノの下に魔法陣が展開し光に包まれ、光が収まるとそこには何処かの民族衣装のような服を着たなのはと同い年くらいの少年が立っていた。
「どう?体に異常はない?」
「大丈夫です、本当にありがとうございました」
ユーノが頭を下げる。
「ところでそのジュエルシードについて詳しく教えて欲しいんだけど?」
「あ、はい。そもそもジュエルシードと言うのはですね——」
ユーノが説明しようとした瞬間、なのはとリニスが何かを感じたかのように同じ方向を向いた。
「ど、どうしたんですか?」
「ジュエルシードだと思います!」
「ええ!?」
「リニスさん、スクライア君をお願い!」
「かしこまりました」
「え?え!?」
なのはが窓を開けて外へ飛び出していく。ユーノも向かおうとしたがリニスに止められる。
「な、なにを!?」
「落ち着きなさい、起きたばかりで勝手も分からない管理外世界です、ひとまず主が戻るまで待ちなさい」
「でも、『デバイス』も無しに……!」
「ああ、そんな事ですか」
ユーノの言葉に大した事でもないようにリニスが答える。
「彼女には【補助】がいますから心配はいりません」
「くくくっ、これで本格的に原作介入だ……!」
夕方の道を1人の少年が歩いている。その手には青く光る石が握られている。
昨日の夜に頭に突如聞こえてきた助けを求める声、それは「物語」の始まる合図——
「これでフェイトに近づいて好感度を上げていけばいい。プレシアが死んだ後は慰めれば簡単に落ちるだろ。なのは達は好感度MAXだからあとははやてとヴォルケンズだけだな」
少年は低く笑う、その表情はとても小学生とは思えない陰湿なものだ。
「管理局入りしたらどうするかな……、ティアナやスバル達を子供のころから可愛がるか?くはっ!夢が広がるなあ、——ん?」
気が付くと前の方を2人の見知った少女が歩いている。少年は更なる笑みを浮かべながら歩く速度を速めて近づいていく。
「よう、すずかにアリサじゃないか」
「げ、あんた……」
「こ、こんにちは……」
後ろから少年、小山田に話しかけられた2人の少女、すずかとアリサはすぐに表情を曇らせる。
今日はすずかが図書室に行く用事があり、アリサも付き添い少し帰りが遅くなっていた。
「一緒に帰ろうぜ」
「嫌よ」
「そんなに恥ずかしがるなよ」
「嫌がってるのよ!」
アリサの真剣に嫌そうな表情も彼からすれば原作知識でのツンデレだと思っている。すずかも引っ込み思案の大人しい性格だと知っているのであまり好意を表に出せないのだと思っているのだ。
実際は好意の欠片もなく純粋に嫌われているのだが。
「ほら行くわよすずか」
「う、うん」
アリサがすずかを促しさっさと帰ろうとする。
「なんだよ、待てって」
小山田が手を伸ばしすずかの腕を掴む、その瞬間小山田の反対の手に握られていた石が一気に輝きだす。
「は?」
「え?」
光は一瞬で目を開けられないほどに青白く輝くとその光はあっという間にすずかへと吸い込まれていく。
全ての光がすずかに吸い込まれると同時にすずかは体をくの字にして突如苦しみ出した。
「あ……ガッ!?アアアアアアァァァ!!」
「すずか!?」
突然倒れて苦しみ出した友人に駆け寄り必死に声をかけるが苦悶の声を上げて反応はない。
「あんた!何をしたのよ!!」
「し、しらない……こんなイベント原作には……」
「答えなさいよ!!すずかに何をしたのよ!!」
「く、くそっ!!」
「あ!」
小山田は走って逃げ出した。アリサは追いかけようとしたが、すぐそばでは親友のすずかが今も苦しんでいる。
「と、とにかく救急車を……!!」
「救急車は駄目だよ、アリサちゃん」
「え?」
突然の声に顔を上げるとそこには用事があって早めに家に帰った筈の親友、なのはが立っていた。