おーぷん ざ せさみー
【吸血鬼】、きちんとはじめました
「--なるほどな」
「ど、どうでしょう……?」
なのはちゃんが横で不安そうに聞いてくる。
こう言ったら失礼かもしれないけどなのはちゃんは【魔法】に関して言えば戦闘に関して凄い素質があるんだが、その他は……その……まあ、そんな感じです。
「ふむ、肉体への異常なまでの魔力の負荷、か」
「あ、あの……」
「ん?」
後ろから声をかけられて振り返るとなのはちゃんと同い年くらいの少年がリニス?だったかな。
確かプレシアの使い魔で消滅する筈だったが何の因果かなのはちゃんに助けられた--
彼女に引き連れられてやってきた。
ジュエルシードの回収で協力関係を取っているらしい、と言う事はこの少年がユーノか?聞いた話では最初はフェレットだったと聞いていたけど……まあ、いいか。
「なにかな?」
「あ、貴方がなのはさんの……?」
「如何にも、彼女の師をしているよ」
「すずかの身に何が起きているんですか!?」
ぬお!?急に横から紫髪の同い年くらいの女子が出て来た!あれ?この人が「月村忍」?なら隣にいるのがなのはちゃんの兄の「高町恭也」か?朴念仁と噂の……
「膨大な魔力が彼女の肉体と魂に多大な負荷をかけている。このままでは耐えきれずに肉体か魂か、または両方が崩壊してしまうだろう」
「な、なんとかならないの!?」
「おい!マイスターにでかい口を叩くな!」
勢い良く前に出てくるアリサにアギトが怒る。2人とも落ち着いて下さい。
「構わないよアギト、友人の命が危ないんだ。必死にもなるさ」
「だけど……」
「……ごめんなさい」
「いや、かまわないよ」
「すずかに何が……?」
「困った事に彼女に流れ込んだ魔力が何の【属性】も持っていなかったせいか、魔力全てが彼女に親和してしまっている」
「で、でも何処に魔力が?」
「ああ、魔力が彼女の【存在】に溶け込んでいるんだよ」
「そ、そんざい?」
「そう、【吸血鬼】としての存在に魔力が反応している」
「「「!?」」」
俺の言葉に月村忍と高町恭也、それとメイドが驚いている。
「ど、どうして……!?」
「【魔法使い】は【素】に敏感でね、なのはちゃんも気が付いていただろう?」
「そうなのなのは!?」
「……う、うん。でもすずかちゃんの口からちゃんと聞きたかったから……」
「そうだったの……」
なのはちゃんの言葉に月村忍が嬉しそうにしている。すずかちゃんの事を本当に信頼してくれていたからだろう。
ただ一瞬言葉に詰まったように見えたの気のせいかな……
「あまり時間もない、早速何とかするとしようか」
「すずかをお願いします」
「了解した、じゃあなのはちゃん。後で詳しい話を聞かせてくれ」
「はい!」
さて急いで【処置】するとしよう。
4時間ほどして【処置】が終わって部屋から出るとユーノとリニスがいなくなってイリアが来ていた。
アリサはもう夜なのにまだここにいるけど大丈夫なのか?
「あ、先生!」
「すずかはどうなの!?」
「落ち着いてくれ、きちんと説明する」
凄い勢いでやってきたアリサをなだめながらイリアに【会話】を繋げる。
——【イリア、ユーノ達はどうした?】——
——【こちらとの約束を無視して【魔法】についてしつこく聞こうとしたので、リニスでしたか?彼女が連れて帰ったそうです】——
ユーノェ……
——【イリアはどうしたんだ?】——
——【「彼」が起きたのでその報告に来ました】——
お、やっと起きたか。
——【様子は?】——
——【最初はやはり混乱していましたが言われたとおりに伝えて提案は呑ませました】——
——何故だろう、イリアが言うと平穏に話した感じがまるでしない。
——【敏彦は?】——
——【翠屋に行くとか言ってましたが?】——
え?こんな夜から?何してんだあいつは……
「さて、皆集まったかな?」
イリアとの【会話】を一旦切り上げて集まった面々を見回す。イリアと話している内に休んでいた姉の忍もやってきたようだ。
「それですずかはどうですか?」
「ああ、もう心配はいらない」
その言葉に皆から安堵のため息が漏れる。
「しかし、少々注意もある」
その言葉に空気が一気に引き締まる。
「本人も交えて話した方がいいだろう、——すずかちゃん」
「はい」
呼ぶと部屋からすずかちゃんが出てくる。特にこれと言った変化はないが少し大きめの眼鏡をかけている。
「すずか!」
出てきたすずかに皆が一斉に集まって無事を喜んでいる。
うんうん、いいのーこういうほのぼのいいのー
——【兄さん、年寄りくさいですよ】——
はっ!?馬鹿な!?思考が読まれた!?
——【なんとなくわかります】——
なんとなくわかっちゃうのか……
「よかったすずか……!」
「心配したのよすずか!」
「よかったねすずかちゃん」
「ありがとうお姉ちゃん、アリサちゃん、なのはちゃん」
「でもなんで眼鏡なんてしてんの?」
「それはこちらから説明しよう」
これはちゃんと説明しないとな。
「どういう事ですか?」
「身体的には問題はない、むしろ向上したと言っていい」
「ええ?」
「ジュエルシードだったかな、その魔力が彼女に大きく親和してしまってね。簡単に言うとジュエルシードの魔力がそのまますずかちゃんの体へと溶け込んですずかちゃんの一部になってしまったと言えばいいかな」
「だ、大丈夫なんですか?」
おや、少し怖がらせてしまった。姉の忍が心配そうに聞いてきた。
「大量に得た魔力の影響が吸血鬼としての能力にも非常に影響していてね、その眼鏡は突発的に暴走するのを抑える為のものだよ。寝たり外さなければいけない時以外はきちんと力を制御できるまでは着けていた方がいいだろうね」
「わかりました」
「一応予備も渡しておくよ」
「ありがとうございます」
「でも、吸血鬼の力が強くなるってどういう事なの?」
すずかに予備の【魔殺】の眼鏡を渡していると横からアリサが質問してきた。ああ〜……
「そうだな、例を上げるなら【肉体を蝙蝠に変える】事が出来るよ」
「え゛?」
「耐久性も大きく上がったからちょっとやそっとの攻撃じゃ傷も付かないな」
「ええええええ!?」
月村家に女性陣の絶叫が響いた。
「そ、そんなこと本当にできるの!?」
「出来るよ、だけど不老不死になったわけじゃない、それにきちんと力の制御が出来なければ力の行使は無理だね」
「す、すごいわねすずか……」
「う、うん、私も最初聞いた時、すごく驚いた」
「——さて、なのは」
今まで喋らなかったイリアがなのはに厳しい視線を向ける。
「【魔法使い】とは秘されるもの、いくら友人の危機だろうとそんなものは関係ありません」
「……すみません」
「関係ないってあんた!!」
「——黙っていなさい」
「っ!?」
イリアから部屋中を押し潰さんばかりの殺気が立ちこめる。
アリサちゃんの顔色が一気に青褪めていく。
高町恭也は月村忍とすずかちゃんをかばうように前に出ているが顔色は悪い。
「——イリア」
「…………兄さん」
声をかけるとイリアが殺気を霧散させて不満そうな顔をこちらに向けてくる。
いやいやいや、9歳の子供に殺気をぶつけるんじゃありません。
ほら、アリサちゃんが凄い苦しそうな顔してるじゃん。
「確かに今回のなのはちゃんの行動には問題があった。【魔法使い】の事を知られずに解決できる方法があったかもしれない」
「ごめんなさい、先生……」
一歩前に出てなのはちゃんの頭を撫でる。一瞬ビクッとなったがすぐにこちらに身を任せる。
「過ぎてしまったものはしょうがない、本来なら彼等の記憶から我々の記憶を消した方がいいだろう」
「……っ」
「だが状況が状況だからな、むしろ周りに理解ある人がいたほうがいいだろう」
「いいんですか?」
「「今後」の事を考えるとそのほうがいいだろう」
「……わかりました」
まだちょっと不満そうだけど一応イリアは納得してくれた。後は——
「さて、すずかちゃん」
「は、はい」
「君に聞きたい、
君の【異常】をそのまま封じたままにするか、
その【異常】を自由に扱えるようにするか、
この場で選択して欲しい」
「選択、ですか?」
「ああ、別に使いたくないと言うならきちんと力を【封】じれる道具を用意しよう。力を自分の意思で扱いたいのならその扱い方を教えよう」
「…………」
「無理強いはしない」
「……すずかちゃん」
「……すずか」
考え込むすずかちゃんになのはちゃんとアリサちゃんが心配そうに見ている。やがて顔を上げる。
その顔には何かを決意した表情が浮かんでいる。
「決まったかな?」
「はい、私に【力】があるのならその使い方を教えて下さい」
「後悔しないかな?」
「はい!」
「すずか」
「ごめん、お姉ちゃん……」
「——あなたが選んだのなら後悔しないようにね」
「……うん!」
「イリアさん、なのはちゃん、【魔法使い】さん」
月村忍が前に来てこっちに頭を下げる。
「どうかすずかをお願いします」
「にゃにゃにゃ!?」
「私は兄さんの決断には従うだけです」
「了解した」
「ね、ねえ!」
「ん?」
振り返るとアリサちゃんが何か決断した顔をしている。なんだろう?
「あ、あたしも【魔法使い】になれますか?」
「え、無理」
「即答!?」