ありさちゃんふぁいと
それいけ遠坂邸
「申し訳ないけど無理」
「二度言われた!?」
アリサちゃんが見事なまでのorzを表現している。その横では必死になのはちゃんが慰めている。
「あ、アリサちゃん」
「……なのは、あたし、そんなに才能ない?」
「【魔法使い】の才能はないけど大丈夫だよ!」
「……なのは、それはフォローになってないぞ」
なのはちゃんのお兄さんが思わずツッコミを入れる。
「さて、では我々は帰るとしよう、すずかちゃん。明日なのはちゃんと我が家に来てくれ、いろいろと教える事もあるからね」
「わかりました、よろしくお願いします」
「それじゃなのはちゃん、他の皆さんもまた会おう」
「はい先生!」
「ありがとうございました」
【転移】を実行してこちらの拠点に帰る。それで——
「……なんで敏彦は泣き崩れてんの?」
「翠屋の閉店に間に合わなかった……!」
「明日行けばいいじゃん」
「そうなんだけど……やっぱり悔しいんだ……!」
「とりあえず寝ろ」
「チッ、はーい」
「兄さんちょっと待ってください」
部屋の隅でいじけてる敏彦を部屋へ追い返そうとしたらイリアが待ったをかけた。
「どしたの?イリアちゃん」
「少し今後の打ち合わせをしておきたいのですが」
「……ああ【転生者】の事か?」
「え!?いんの!?」
「ああ、さっきな——」
敏彦にさっきまでの出来事を伝える。
「……なるほどな、確かにそんな事原作には無かったな。でもそれって「この世界での突発的な出来事」じゃないのか?」
「いや、なのはもアギトも【転生者】だと感じたらしい」
「原作知識持ちの【転生者】かあ……、どうすんだ?」
「向こうからちょっかいをかけてくるまでは無視する」
「え?それでいいの?」
「はい、いくら【転生者】だろうと何の経験も知識も無しに力は振るえません。放っておくのが得策かと」
「じゃあちょっかい掛けてきたら?」
「「仕留める」」
俺とイリアの台詞が被って敏彦は苦笑してる。
「さーて俺は今後の仕込みをしてくるよ」
「あれ?もうするのか?」
「少し早めに手を打つ事にするよ、万が一に備えてな。それに明日からはすずかちゃんも訓練に参加するし」
「俺も見てていいか?」
「いいけど、巻き込まれるなよ」
「幼女に吹き飛ばされるのは我々にとってはご褒美です」
駄目だコイツ、早くなんとかしないと……。
すっごい笑顔でアホな事言ってる敏彦は無視してイリアに声をかける。
「イリアの方は「彼」の面倒を頼むよ、後で俺も話すけどさ」
「わかりました」
窓を開けて外へ一歩踏み出す。
そのまま落ちる事無く空中を歩きだす、さーて、いきますか。
翌日、遠坂邸の前には数人の人影があった。
「へえ、結構良い家じゃないの」
「ここに来るのも久しぶりなの」
「そうなんだなのはちゃん」
「全然知らなかったわー、なのはも秘密を持つような歳なのね。子供が大きくなるのも早いわねー士郎さん」
「ああ、そうだな桃子。少し寂しくなるけどそれも親として通る道の一つさ」
「にゃああ!お父さん、お母さん!」
アリサにすずかになのは、そしてなのはの母の桃子と父と士郎が遠坂邸の前に立っていた。
「っていうかなのは、ご両親連れてきちゃって良かったの?」
「昨日の夜に家族の皆と話したの」
「最初は勿論びっくりしたさ、でもなのはの【魔法】を見せてもらったら信じないわけにはいかないからなあ」
「本当にびっくりしたわ、なのはが天井を歩くんですもの」
「あんたは何をしてるの!?」
「え?わかりやすいように——」
「もっと穏便な方法はなかったの!?」
「その後アギトちゃんを紹介されてなー」
「かわいい子だったわ」
「先にそっちでしょうが!」
なのはの素っ頓狂な行動にアリサが叫ぶ。
今に始まった事ではないがなのはの行動は普段は冷静なのに時折あまりにも常識はずれな行動をする。
いつもそれに対して突っ込むのがアリサの役割になってしまっている。
「と、とりあえず中に入ろう」
「おっと、そうだったね」
「なのは、普通にチャイム鳴らせばいいのかしら?」
「うん、そうだよお母さん」
桃子がチャイムを鳴らす、しばらくするとドアが開き高校生くらいの男子が出てくる。
男子は桃子達を見て驚いた表情をしている。
「あ、あのー、先生はいらっしゃいますか?」
「…………み」
「み?」
「翠屋が攻めてきたーー!?」
「あほかーーー!!」
男子の絶叫とともにアリサのドロップキックが放たれた。
「いやー、申し訳ない。まさかなのはちゃんのご両親が来るとは聞いていなかったので」
「いえいえ、こちらこそ何の連絡も無しに来てしまって——」
遠坂邸の廊下を歩きながらアリサに吹っ飛ばされた男子となのはの両親が挨拶をしている。
「あ、自己紹介が遅れました。自分は鎌田敏彦と言います。彼とは腐れ縁と言ったところです」
「なのはの母の高町桃子です」
「父の士郎です」
「アリサ・バニングスです」
「月村すずかです」
「高町なのはです」
「これはどうも、アリサちゃんのキック、良い蹴りだったぜ!」
「……はあ」
笑顔でサムズアップする敏彦にうんざりした表情のアリサ、横ではすずかが苦笑している。
「あ、あの鎌田さん」
「どうしたんだいなのはちゃん?」
「先生は私の事なんて言ってましたか?」
「【優秀な魔法使いの弟子】って言ってたなー」
「ほ、ほかには何か言ってませんでしたか!?」
「……ほほう」
敏彦の怪しく目が光る。
「なるほどなー、なのはちゃんはあいつの事が?」
「にゃあ!?」
「おや、そうなのかい?なのは?」
「あらら、なのはったら」
「にゃあーーー!?」
大人3人に優しい笑顔を向けられにゃーにゃー言って狼狽えるなのは。
「へえ、なのはってあの先生の事が好きなんだ」
「そうみたいだね」
「あの人みたいな変態じゃないわよね」
「……多分大丈夫じゃないかな」
「マイスターは変態じゃねえよ!」
後ろではアリサとすずかが友人の思い人が変態でない事を願う。
その横ではアギトが憤慨している。
敏彦の先導で部屋に入る。
そこには60cmほどの青く輝く水晶が部屋の中央に鎮座している。
水晶の前には2mほどの円が床に描かれている。
「ここは?」
「なのはちゃんも初めてだっけ?」
「あ、はい」
「とりあえず皆さんこれ付けて下さい」
敏彦が全員に腕輪を渡す。
「これはなんですか?」
「【通行証】のようなものです」
「はあ……」
「それじゃあ皆さんこの円の中に入って下さい」
全員が腕輪を着けたのを確認すると敏彦は床に描かれた円の中へ誘導する。
「それじゃ行きますよっと——」
敏彦が何かの【札】のようなものを取り出し撫でると札と水晶が輝きだす。
光が周囲を埋め尽くし——
「なによこれーーーー!!?」
光が収まった時、彼等がいつの間にか立っていた常夏の島にアリサの絶叫が響いた。