ついにとうじょう
【魔法使い】の少女と『魔導師』の少女
『<ま、待ってください!これ以上は危険です!!>』
「え?もう限界?」
『<これ以上は危険です!!>』
「壊れかけたデバイスを使って必殺技を使う、というのは盛り上がりますね」
「…………」
「逃げて!レイジングハート超逃げて!」
「いくよレイジングハート!!」
『<NOOOOOOO!!!>』
目の前の光景を見てアリサは溜め息をついた。
アリサの目の前では——
必死に点滅を繰り返して危険を訴える喋る赤いビー玉。
それを持って何かを期待するような眼で見るなのは。
その横で不安を煽る言い方をするイリア。
赤いビー玉に逃げるように必死に伝える敏彦。
我関せずと何かを打ち合わせしているアギトとリニス。
そして、
「あんた大丈夫?」
「あ、はい少し現実から目を逸らしたら大丈夫になりました」
思わず「どこが!?」と突っ込みそうになった自分を必死に止めながら若干焦点の合ってないユーノにアリサは可哀そうな視線を送った。
今日、今現在アリサ達はすずかの家の庭にいる。
他にジュエルシードを狙っている勢力がいるから罠にかける事になった。
それで周囲に迷惑をかけない場所としてすずかの家の大きな庭を借りたのだが、
彼、ユーノは少しでも協力しようと赤いビー玉——『魔導師』が使う『インテリジェントデバイス』と呼ばれる『魔法』を使う為の補助具のようなものをなのはに渡した。
そして使おうとして——
「やはり【魔法使い】の基準で力を回すとデバイスが耐えられませんね」
「うーん、ちょっと残念なの」
「1回くらいなら全力で動かせると思いますよ」
「……その後は?」
「間違いなく壊れますね」
「レイジングハートは犠牲になったのだ……!」
「ごめんね、レイジングハート……!」
『<え——>』
「ちょっと待ちなさい!!」
思わずなのはの手からレイジングハートを取り上げる。
「遺跡から発掘された貴重なやつなんでしょ!?もっと大切に扱いなさい!!」
「「えー」」
「ちょっと正座しなさい」
不満そうに言うなのはと敏彦に思わず正座を言いつける。
「ユーノを見なさい!【魔法使い】の非常識を目の当たりにして可哀そうな事になってるわよ!!」
「大丈夫ですよバニングスさん、少し目をつぶれば——ほら、楽しかったあの日々が——」
「お願い休んでて」
どこかおかしな方向にポジティブ精神を発揮するユーノを木の下に設置したテーブルに座らせて地面に正座したなのはと敏彦をアリサは睨みつける。
「そう言えばイリアさん、遠坂先生は?」
「兄さんは外せない用事があるので来られません」
既に席について紅茶を優雅に飲んでいるイリアの言葉を聞いてアリサは頭を押さえた。
「ひどいよアリサちゃん」
「そうだよバーニング」
「蹴るわよ」
「我々の業界ではご褒美です!」
「……イリアさんが2人を」
「我々の業界でも拷問です!」
「え!?私も蹴られるの!?」
正座しながら文句を言う2人からアリサは目を逸らして打ち合わせをしているアギト達に話しかける。
「どうですかリニスさん」
「あの子なら間違いなく来ると思います」
「その場で捕まえちまえばいいんじゃねえのか?」
「本来ならそれが最善なのですがプレシアも一緒に押さえたいのです」
「ふーん、ま、ロードが賛成したのならあたしは文句ねえよ」
「ありがとうございます」
そういって3人は地面に置かれた青い宝石『ジュエルシード』を眺める。
「それにしてもこれが【偽物】ねえ……」
「マイスターが作ったんだぜ!」
「恐らくあの子やデバイスでも識別するのは不可能だと思います」
「実際ユーノやレイジングハートでも無理だったんでしょう?」
この『ジュエルシード』は時臣が作った真っ赤な偽物である。
どんなに頑張っても願いは叶えてくれないし、魔力も引き出せない。
今回はこれを犯人に渡してその魔力を辿って本拠地を特定するのが作戦の内容である。
「ねえねえアリサちゃん、そろそろ正座やめてもいい?」
「犯人が来るまでそのままでいなさい」
「ええ!?」
「俺は?」
「さっさと配置につきなさい」
「お任せを」
「あれ!?私は!?」
「犯人が来るまでそのままでいなさい」
「あれえ!?」
それぞれが配置につき始める。
アギトとリニスは不測の事態に備えて待機。
敏彦は現場のカメラ撮影。
ユーノは『魔導師』としてのアドバイザー。
アリサは邪魔にならないようにイリアの側に。
イリアは周囲の【空間管理】と余計な介入が無いよう周囲を警戒している。
——そして、周囲が『結界』に覆われる。
「それを、渡して」
そこへ現れたのは長い金髪をツインテールにし、黒いマントを着たなのはと同い年くらいの紅い瞳の少女。
手には鎌とも杖ともいえる『デバイス』を握り締めている。
——そう、『デバイス』を持っている。
『<——わたしはここにいていいんでしょうか?>』
「——あ」
アリサの手には『インテリジェントデバイス』の『レイジングハート』が点滅している。
そして——
「じゅ、ジュエルシードは危ないものなんだよ!」
金髪の少女の前にはプルプル震えながらなんとか立っている高町なのはがいた。