りりかるまじかる
金髪の『魔導師』と金髪の『魔導師』
「…………」
金髪の少女、「フェイト・テスタロッサ」は困っていた。
彼女は母親からジュエルシードを集めるよう言われていた。
母親の頼みなら彼女は決して嫌とは言わず集める。
この世界に来て早速1個見つけたがそれ以降ジュエルシードは見つからなかった。
困っていると現地の住人と思われる「少年」が接触してきた。
彼が言うにはジュエルシードの場所を知っていると言い、1個を信頼代わりにと預けてきた。
しかし少女の使い魔は彼の協力を嫌がっている、今も協力と言う名の監視を行っている為にここには来ていない。
確かに自分と同い年くらいの少年の粘つくようなあの視線を少女もあまり好きにはなれない。
言われたとおりの場所に来るとジュエルシードがあり、
言われたとおりの外見をした少女がいた。
彼が言うには「強力な魔導師」であり彼女もジュエルシードを狙っているらしい。
しかし……。
少女、「フェイト・テスタロッサ」は困っていた。
目の前の少女はデバイスを持っておらず、なぜかプルプル震えながら涙目だった——
「……えっと、それを渡して」
とりあえず同じ事をもう一度言う。
「ちょ、ちょっとまって足が……」
「あ、うん」
——どうしよう……
何だかよく判らない状態だった。
「ど、どうしようイリアさん!」
「少し落ち着きなさい」
すぐ横の木の下では若干パニックになったアリサがイリアになだめられている。
「なのはならデバイスが無い方が戦えます」
「で、でも……!」
「じゃあ、貴方が行きますか?」
「そ、それは……」
「何の力もない貴方が出ていってもなのはの足枷にしかなりません」
「……っ!!」
「そもそも今回はあの【偽物】を彼女に渡すのが主目標です。いざとなったらアレを渡して逃げてしまえばいい。」
「で、でも……!」
「今この周囲の【空間】は私の支配下にあります、こちらの声が向こうに届いていないのはそのせいです。いざとなれば彼女だけ別の場所へ飛ばせば済みます」
イリアはそう言うとクッキーを一口食べる。
「それでも不安だと言うのならお好きにどうぞ、まず間違いなく貴方ではどうにもできないと思いますが」
イリアの鋭い言葉がアリサに突き刺さる。反論をしたいが正論故に返す言葉もない。
そんな中——
『<少しよろしいでしょうか>』
レイジングハートがアリサに声をかけた。
『<貴方は魔力が少ない、ですが無い訳ではありません>』
「え……」
『<短時間ならば『魔法』は使用可能です>』
「……!!」
『<私を、使いますか?>』
「あたしは——少しでもいい、なのは達の力になりたい——!!」
『<了解しました>』
瞬間、レイジングハートが輝き、アリサの足元に魔法陣が展開する。
「え!?」
光に包まれるアリサ。光が収まるとそこには——
ポニーテルに髪をまとめた金色の髪、
薄い赤で統一された学校の制服のような服、
手には先に赤い宝石のようなものがはめ込まれた少し長めの杖。
『<バリアジャケットの展開完了、マスター登録の完了。魔力の枯渇まで残り5:37>』
『魔法』少女となったアリサ・バニングス。
アリサは残り時間を聞いてなのはの方へ走り出す。それを見送ったイリアは一言呟く。
「なるほど、兄さんはその可能性も考えていましたか」
そう言って残りの紅茶を口へと運んだ。
「なのは!」
「へ?」
なのはは震える足で横を見ると何故かレイジングハートを持ったアリサがいた。
イリアの方を見ると気にした様子もなく紅茶を飲んでいる。
「魔導師!」
少女、フェイトは突然現れた魔導師に警戒する。
しかし見た感じそこまで魔力を持っていない。フェイトの力なら問題ない相手である。
「なにしてるのアリサちゃん?」
「なにって、あたしも加勢するわよ!」
「え?」
「何!?不満なの!?」
「いや、そうじゃなくてね?」
なんて言っていいのか言葉に詰まるなのは。
——それを好機ととらえたフェイトは行動を起こす。
高速移動で突然現れた魔導師、アリサと呼ばれた少女へ攻撃を行おうとして一気に間合いを詰める。
そして——
——手から弾き飛ばされる『デバイス』、
——何が起きたか理解しようと考える間もなく腹部に叩き込まれる掌底、
——口から言葉よりも先に肺の空気が全て吐き出される。
——霞む視界が一気に横へとぶれる。
——何が起きたか理解できずに体は横へ1回転、
——シェイクされる脳では最早考える事すらできない。
——そのまま力無く投げ出した腕を取られ、思い切りぶん投げられる。
——あまりの激しい体の動きに金色の髪をまとめていたリボンが外れる。
——ただされるがままになった視界に映るのは茶色の地面と——
——デバイスを持っていないはずの少女の顔——
——ここまでが僅か1秒足らずで起きた事とは理解する事もなく——
——金髪の少女「フェイト・テスタロッサ」は空中で錐揉み回転しながら勢いよく顔面から地面に激突した。
「ぎゃあああああああ!!?幼女があああああ!!?」
「きゃあああああ!!?フェイトオオオォォォォォ!!?」
「……え?」
カメラで全てを撮影していた敏彦が悲鳴を上げ、
顔面から地面に着地して海老反りの姿勢で微動だにしない少女にリニスが悲鳴を上げながら駆けつけ、
「あーあ、ロードに接近戦挑むとか馬鹿だな」
「だから言ったでしょう、「必要無い」と」
「……え?」
必死に介抱される少女に憐れみの視線を向けるアギト。
表情を変える事無くクッキーをモグモグしながら答えるイリア。
「にゃははは……、「つい」体が反応しちゃったの」
『<魔力の枯渇まで残り5:07。マスター、脅威の消失によりバリアジャケットの解除を推奨します>』
「……え?」
恥ずかしそうに頬を掻くなのは、問題はもうないから変身解いたら?と言ってくるデバイス。
「……E?」
アリサ・バニングスは高町なのはの理不尽さをこの日大きくその身を以って改めて理解した。