ついにしゅつげんかんりきょく
ユーノと管理局と報告
「はじめまして、ユーノ・スクライアです」
「はじめまして、時空管理局、『アースラ』艦長の『リンディ・ハラオウン』です」
「執務官の『クロノ・ハラオウン』だ」
和風の部屋、床には畳。壁には掛軸がかけてある。とても次元世界を行き来する巡航艦の中とは思えない。
その一室--
時空管理局次元巡航艦『アースラ』、その艦長室にユーノはいた。
ユーノの前にはエメラルド色の長い髪を後ろでまとめている女性、
時空管理局提督『リンディハラオウン』が大量の砂糖を入れた緑茶を飲んでいる。
その横にユーノよりは少し年上の黒髪の少年、
若き管理局執務官『クロノ・ハラオウン』が座っている。
「これが『ジュエルシード』です」
ユーノが木箱をリンディに差し出す。それを慎重に受け取りゆっくりと箱を開ける。
「これがジュエルシード……」
「はい、そうです」
「見た目が情報と少し違うようだが?」
「はい、それなんですが——」
木箱を開けるとそこには幾つものローマ数字の書かれた「真っ黒」な石が入っている。
「調べた限りでは内包していた魔力が無くなっています、まだ仮説に過ぎませんが世界を越えた時に魔力を失ってしまったのではないかと思います」
「なるほど……」
ユーノが自分の考えた仮説をリンディに説明する。リンディはそれを聞いて何度か頷いている。
ロストロギアとは今の技術では解明できない物、何が起こるかは予測できるものではない。
ならばこういった不測の事態が起きても不思議ではない。
「ですがロストロギアには違いませんので厳重な管理をお願いします」
「わかりました、ではこれは此方が責任を持ってお預かりします」
「お願いします、あと……」
「わかっている、残りの2個のジュエルシードの捜索は此方が引き継ぐ」
「ありがとうございます」
「……スクライアさん」
「はい、なんでしょうか?」
話が一段落するとリンディが少し表情を引き締めてユーノに話しかける。その雰囲気にクロノも気付く。
「本当に貴方一人でこれだけの数のジュエルシードを集めたんですか?」
「それは……」
「始めての世界、それも管理外世界で1人でこんな迅速に回収できるとは思えません」
「…………」
「教えていただけませんか?本当の事を」
たった1人で、9歳の子供がたった2日少しで21個中19個ものロストロギアであるジュエルシードをただ1か所で無くそこら中に散らばったものを1人であつめるのは至難の業だ。
別にリンディは責めているのではない。
もし現地の住人と協力してもそれは仕方のない事だ。少なくとも彼が手柄を一人占めしたいが故に黙っているようには見えない。
ならば何故黙っているのか?
それがリンディの疑問だったのだ。
ユーノはしばらく俯いて黙っていたが顔を上げた。
「……これから話す事は秘密にして欲しいのですが……」
「……わかりました」
「かあさ、艦長!」
「私が責任を持ちます」
「……わかりました」
「それでは話していただけますか?」
クロノはまだ不満があるようだったがリンディが責任を持つと言ったのでひとまず引き下がった。
「……実は『魔導師』の方に助けてもらったんです」
「魔導師?この世界にか?」
「はい、困っていた所を助けてもらったんです」
ユーノの話ではジュエルシードを探しに来たはいいが魔力は底をつき、何処かも知らない所で困っていると
「偶然」
魔導師の男性と出会い、事情を話すと捜索に協力してくれたという。
「そうだったの……」
「何者だったんだ?その魔導師は」
「詳しい事はなにも、名前しか教えてくれなくて……。「自分の名前は絶対に出さないで欲しい」と言われまして……」
「怪しいな、艦長、犯罪者かもしれません。調査した方がいいかと」
「そ、そんな!?」
「——クロノ執務官」
「す、すみません」
クロノの言葉にリンディが少し強い口調でクロノを叱る。
「約束します。決して記録にも残さない、口外しないと。」
「……どうか信じてもらえないでしょうか」
「……わかりました」
しばしの沈黙が流れた後、ユーノはようやく頷いた。
「先に申し上げたいのですが名前は聞いただけですから本名とは限りません」
「ええ、わかっています」
「あと、一応あの世界にいた時にその魔導師の方に泊めさせてもらった住所です」
「あら、ありがとう」
「それで魔導師の名前は?」
クロノの質問にしばらく言い辛そうにしたあとユーノは口を開いた。
「その人は『クライド・ハラオウン』と名乗っていました」
「ここが……」
「……ええ、間違いないようね」
次の日、早朝にクロノ、リンディ親子は第97管理外世界「地球」のある洋館の前にいた。
「……母さん」
「クロノ?」
進もうとするリンディの服の裾をクロノが掴む。
「本当に『父さん』がここに?」
「……わからないわ」
あの後ユーノに家族写真を見せ間違いないと言われ、2人は混乱の極みだった。
——11年前に死んだはずの人間が生きている。
管理局の提督でもなく執政官としてではなく、ただの「家族」としてリンディとクロノはここにいる。
部下には「ジュエルシードの捜索」と言ってここへやってきた。
「間違いでもいい、ただ「会って」みたいの。偶然同じ名前かもしれない」
「——本当に父さんだったら?」
その問いにリンディは答えられない。
——11年か何をしていたのか?
——どうして何の連絡もしてくれなかったのか?
——私達は
——捨てられてしまったのか——
その考えが脳裏に浮かんだ瞬間、その考えをすぐに打ち消し呼び鈴に手を伸ばす。
若干震えている手に苦笑しながら呼び鈴を押す。
僅か数十秒が果てしなく長く感じながら待つ。
やがてドアのノブが回りドアが開く。そこには——
「はい、何のご用でしょうか?」
10歳ぐらいの栗色の髪の少女が2人を出迎えた。