あいはむなやけ
なのはと初めての『管理局』 --Ⅱ--
「今これだから——」
「でも、そこを削ると——」
リンディさんとクライドさんが一生懸命な表情をして机の上に様々な紙を出し、
空中にモニターを出したりしていろいろと計算している。
クロノさんはそれをじっと真面目な表情で見つめている。
「ううん、やっぱり難しいわ」
「そうだな、このままだと——」
「今定期を崩しちゃうのは厳しいわね、クロノが24までに提督になってくれるのなら可能性はあるわね」
「だが、クロノもいつかは結婚するだろう?そうなったら新居や新生活で出費があるだろうし——」
「結婚してもクロノとは一緒に暮らします」
「そうか、それなら何とかなるか……」
「………………」
「クロノさん……」
「クロノで良いよ……」
「えっと、クロノくん。いいの?なんかクロノくんの将来設計がどんどん決まっていってるけど……」
「……仕方ないさ……」
クロノくん……。何だか【魔法】を知ったユーノくんみたいに悲しみを背負っちゃってるの……
「とりあえず俺はまだもう少し此方で働いて少しでも負担を減らすよ」
「そんな!せっかく会えたのにまた離れ離れなんて……!!」
「すまない……だが俺1人の事情にお前達を巻き込みたくないんだ——」
「あなた……!!」
「リンディ……!!」
2人とも辛そうな表情のままに抱き合う。
……そこまではいいんだけど、その後チラチラこちらを見ないで欲しいの。
「寸劇は終わりましたか?どんな事情であれ、これ以上治療費を削る事はありません」
「仕方ないわね」
「まあ、ここが限度だろうな」
す、凄い……!一瞬であの悲しそうな表情が消えて席につく。
——これが管理局……!!
「表情的に勘違いしてるようだから言っとくが、全ての管理局員があの人達みたいじゃないからな?」
「あら、ひどいわねクロノ」
「親に何てこと言うんだクロノ」
「治療費をまけてもらおうと寸劇で同情を引こうとしてる親をリアルタイムで見る子供の気持ちがわかるか!!」
「お、落ち着いてクロノくん!」
リンディさん達に指を突き付けて怒るクロノくん。
「そんなにカッカしちゃ駄目よ、執務官ならもっと常に落ち着いていないと」
「クロノ、執務官になったのか?」
「ええそうなの!最初の試験は落ちちゃったけどそこから頑張ってね——!」
「そうなのか——!」
「なんでいきなり僕の昔話に!?」
「ああ、なんだか自分を見ているようなの……」
「……君の家もこんな感じなのかい?」
「うん、最初は子供自慢が続くんだけど気が付いたら夫婦のノロケに入るの。その前に止めないと甘酸っぱい空気を長時間味わう事になるの」
「なんてことだ……!!」
クロノくんがこの世の終わりみたいな表情をしてがっくりしてる。
……凄くわかるのその気持ち、私の家では回避不能な食事時にノロケが襲ってくるの……!!
「ただ、こちらの言う事を聞いてもらえれば少しは治療費を下げてもいいと思っています」
「何でしょうか?」
「それは「情報」です」
「——管理局の情報を貴方に渡せと?」
「管理局と言えば管理局ですが、別に機密を渡せと言っている訳ではありません。
こちらからの「情報」の提示とそちらからの「情報」の提示、
そして今回の件の書類の一部内容改竄です」
「それは……」
「貴方とて死んだと思っていた夫が関わっていたなどと報告したくないでしょう?」
「リンディ……」
「……そうですね、そんな報告をすればこの管理外世界に大きく干渉してくる可能性も高くなるでしょうし……」
「では、そう言う事でよろしいですね」
「——ええ、それでそちらが欲しい「情報」というのは?」
「簡単な事です——」
「その調子でしばらくその状態を維持して」
「——はいっ!」
真夏の太陽の照らす中、すずかちゃんの力を使いこなす訓練は順調に進行中。
これなら1年もかからずに終わりそうだな。
それで、こっちは——
「シュート!」
「おふうっ!!」
「……楽しそうだね」
「ち、違うんです!!そういうつもりじゃなくて……!!」
射撃訓練場のような場所ではアリサちゃんがデバイス片手に射撃の練習中。
……何故か的を無視して敏彦に叩き込んでるけど。
「おー時臣、お前も混ざる?」
「断固拒否する」
「えー?」
「何故不思議がる」
「面白いよ?」
「あたしは面白くない!!」
「ほうおー!!」
「……なんだかなあ」
『<お疲れ様です>』
「お疲れ様『レイハ』、アリサちゃんはどう?」
『<悪くはありません、飲み込みも早いです。ただ魔力の低さがネックですのでどうしても短期決戦型になりますが>』
「ああ、それに関してはこちらでちょっと試したい事があるので」
『<わかりました、では一度休憩にします。--気分を入れ替える意味で>』
「なんか、ごめん……」
敏彦ェ……
「……凄く疲れたわ」
「お、お疲れ様アリサちゃん」
「すずかの方はどうなの?」
「うん、やっと感覚が掴め始めた感じかな?」
「へえ、凄いじゃない。遠坂先生は時間がかかるって言ってたのに」
「えへへ、アリサちゃんはどうなの?」
「そうね、とりあえずレイジングハートの指導って解り易いから助かってるわ」
『<アリサは優秀な生徒ですから>』
「うっ……」
「ほう、アリサちゃんお顔が真っ赤ですぞ?」
「——ふんっ!!」
「ありがとうございます!!」
何でお前は嬉しそうに悶絶してるの?
「でも、あたしもまだまだよ。なのはに比べればね」
「なのはちゃんと比べちゃ駄目でしょ」
「なのはちゃんは見習いとはいえ【魔法使い】だからなあ」
「遠坂先生だって強いし……」
「「え?」」
「え?」
え?強い?
「俺強くないよ」
「コイツ強くないよ」
「よし上等だ、表出ろ」
「俺に勝てるかな?」
「落ち着いて下さい」
静かに響くすずかちゃんの一言、しかしその表情は笑顔なのに凄く怖い。
「「凄く落ち着いた」」
「それは良かったです」
「強くないってどういう事ですか?」
アリサちゃんが不思議そうに聞いてくる。
——あー、そういえばきちんと言ってなかったな。
「そういえばきちんと説明してなかったね」
「ああ、そういや言ってないのか」
「え?何がですか?」
「俺、攻撃【魔法】なんて使えないよ」
「「ええ!?」」