ぷれしあがあらわれた
きちんと話をしよう
「……それで何があってこうなったの?」
「——すみません」
目の前にはテーブルを挟んでプレシアとリニスが座っている。
フェイトと彼女の使い魔『アルフ』は別室で夕食をイリアと敏彦監視の中食べている。
——俺の作った、俺が食べる筈だった夕食だったんだけどなあ……
リニスさんから話を聞くとこういう事だった。
監視中に転生者がフェイトと接触、
何でも海には6個のジュエルシードがあるとフェイトに教えたらしい。
残念だけどジュエルシードは今フェイトが持っている2個以外は全部管理局が持ってるんだよね。
それを聞いたフェイトが移動を開始、リニスさんもそれに続く。
海に到着してジュエルシードを魔法で無理矢理起動させようと結界を張ろうとしたので思わず阻止。
その後、混乱するフェイトと一緒に時の庭園に移動、久しぶりにプレシアと対面するが目的は変わらず。
フェイトの為にもやむを得ず【魔法使い】ならば可能かもしれないと言ってここへ連れてきたらしい。
--リニスさん、あれほど無茶な行動は控えてと言ったのに……
「貴方ならアリシアを蘇らせられるんでしょ?」
「……自己紹介も無しにいきなり直球だね」
「わたしは一刻も早くアリシアを蘇らせたいの、1秒でも早く」
「それは貴方の病気の関係かな?それとも管理局の動きの関係?」
「……そう、リニスから聞いたのね。そうよ、わたしの時間はもう長くはないの。だから早くして頂戴」
彼女の瞳は若干血走り焦点が合っていない。
必死なのだろう、気持ちはわかるがもうちょっと理性を持って話してくれないかなあ……
……ここにイリアがいなくて良かった。イリアがいたら即座に戦闘になってたよ。
ずっとこっちを威嚇するように睨みつけてくる。
……話には聞いてたけど、——化粧や『魔法』で誤魔化してるけど顔色は相当悪いな。
半分は気力で動いていると言っても過言ではないな。
「何故命令されなければいけないのかな?まるで此方が言う事を聞く事を前提に貴方は話しているようだけど?」
「——何が欲しいの?」
「金が欲しいわけではないよ」
「じゃあ、何が目的なの?ジュエルシード?」
……これはいかんな。焦っているせいなのか交渉というものを理解していない。
「協力してもいい、だが幾つかこちらから要求があるんだけど」
「いいわ、何?」
「その前に聞きたいんだけど、——フェイトの事なんだけど」
「あの失敗作が何?」
「——っ!!あなたは……!」
「リニスさん」
「……すみません」
怒鳴りそうになるリニスさんに釘を刺して改めてプレシアさんに向き直る。
「彼女を見たけどどこが失敗作なんだい?」
「全てよ、わたしはアリシアを作ろうとしたのに出来たのはあの子。失敗以外の何だというの?」
「確かに彼女はアリシアにならなかった、しかし『生命の創造』。そして『記憶情報の定着』という観念では彼女は『成功作』だと思うんだけど?」
「私が欲しかったのはアリシアよ!アリシアにならなかったら意味がないのよ!!」
プレシアが立ちあがり叫ぶ、リニスさんは彼女を見て辛そうに俯いている。
恐らくリニスさんがプレシアのもとから離れた時から彼女の目的は変わらなかった。
——失った娘を取り戻すための人生をかけた研究。
——しかし結果は失敗。彼女は彼女になる事はなかった。
——その果てに目指したものは古代に滅んだ文明の技術。
「貴方は娘ともう一度会いたかった、その為に1つの研究を始め、『成功』させた」
「何を言ってるの?失敗したって言ってるでしょ」
「——「人」に必要なものは【設計図】たる【魂】が必要だ」
「?なにを——」
「——例えその人の記憶を100%植え付けたとしてもそれは本人にはなる事はない」
「………………」
「どれだけ同じ肉体を与えても、どれだけ同じ記憶を与えても」
「………………」
「【魂】が無ければそれは「新たな人格と素質を備えた別人」に過ぎない」
どんなに「外見」を取り繕っても「中身」がなければそれは「本物」にはならない。
「……じゃあ、何?わたしのやってきたのは全て最初から無駄だったと言うの……?」
「プレシア……」
プレシアが椅子に座りこんで掠れた声で呟く。
「——だが、全てが無駄ではなかった」
プレシアの前に一冊の「本」を差し出す。
豪華な装丁を施された本、そしてその本から僅かながら滲み出ている魔力。
「……これは?」
「貴方がこちらの言うとおり協力してくれるのなら貴方の願いを叶えよう、全ては貴方次第だ。——どうする?」
プレシアは俺と本を交互に見た後躊躇う事無く本を手にした。
「——私は誓ったのよ、アリシアを必ず取り戻すって」
さっきまでとは違い狂気ではなく強い意志を秘めた瞳でこちらを見るプレシア。
——これなら大丈夫そうかな。
「その為なら地獄にだって行ってやるわ、--早くアルハザードに行きましょう」
「——いや、アルハザードにはいきませんけど」
「え?」
「え?」