ぼーるはともだち
本人の知らぬ間に話は進む
「そんな事があったのかい」
「ええ、そんな事がありました」
今日は休日、なんでも士郎さんが監督をしているサッカーチームが試合の日。
その前の準備運動を兼ねてベンチのメンバー+αと練習をしているのを士郎さんと見ているのだが……
「逃げろおおおおおお!!」
「無理をするな!危ないと思ったらすぐ避けるんだ!!」
「ひぃっ!?ぼ、ボールがこっちに!?」
「駄目だ!端によるんだ!!」
サッカーチームのレギュラー陣が悲鳴を上げながら必死に動いて(逃げて)いる。
ボールを持って走っているのはなのはちゃん、
その正面から行くのはすずかちゃん。
互いにジャンプしてボールを奪い合う。
その周りでは互いのチームのメンバー達がこの世の終わりか何かを見るような眼で見ている。
「俺の知ってるサッカーと違う」
「まるで少林サッカーみたいだね」
何でサッカーなのに皆ボール持ってる人(なのはちゃんとすずかちゃん)を避けるのか……。
理由は解らんでもないけど。
そしてゴールキーパー、何でゴールの横に立ってるんだ。ちゃんと真ん中に立とうよ。
もう絶対ゴール守る気ないよね?
ゴールキーパーの少年と目があった。
——いのちだいじに——
……何故だろう、そんな言葉が聞こえた気がした。
目から心の汗を流しながら動き回るサッカークラブの子供達、
空中で走り、足を振り回し球技(?)をするジャージ姿のなのはちゃんとすずかちゃん、
それを眺める俺と笑顔の士郎さん、カメラを回す敏彦。
おかしな所があるな、それも複数……
しばらくウォーミングアップらしきもの?が終わって試合が始まった。
サッカークラブのメンバーは何かから解放されたような笑顔で試合をしている。
「なんて清々しい笑顔で試合をしているんだ」
「そうだね、やっぱりスポーツは笑ってしないとね」
「その笑顔の原因をご存知ですか?」
「うちの娘の笑顔は良いでしょう?」
「お願いですからきちんと俺と会話して下さい」
俺が頭を抱えていると士郎さんが笑いながら俺の背中を叩く。
「ごめんごめん」
「全く……」
「ところで話は変わるんだが再来週の休日は空いているかい?」
「再来週ですか?」
今は特に何もないけど。
「今のところは大丈夫です」
「実は温泉に行こうと思っていてね、君達も一緒にどうかな?」
「え?いいんですか?」
「ああ、勿論だよ。君達が来てくれればなのはも喜ぶ」
温泉かあ、向こうでも温泉なんかほとんど行ってないなあ。スーパー銭湯ならあるんだけどね。
「いいですね温泉、他に誰が行くんですか?」
「いま決まっているのはうちにアリサちゃんとすずかちゃんとそのご家族。そんな所かな」
「結構な大所帯ですね」
「ああ、それで君達は4人でいいのかい?」
俺、イリア、リニスさん、そして敏彦。
「今答えないとマズイですかね?」
「今週には決めないといけないね」
「わかりました、今週中にはお答えします」
「ああ、よろしく」
うーん、間に合うかな……?
「いただきます」
「「「いただきます」」」
時間は経って昼食タイム、それぞれの家族や友人同士でシートをひいてご飯を食べる。
——何故か時々すすり泣く声や何かに感謝する声が聞こえてくる。聞かなかった事にしよう……
ちなみに俺の周りには
高町家一同
遠坂家一同(リニスさん、敏彦含む)
アリサちゃん&ユーノ
すずかちゃんと姉の忍。
かなりの大人数なのでレジャーシートを4枚も使っている。
目の前には和洋折衷、様々な弁当が広がっている。
「これ美味しいわね」
「当然でしょう、兄が作ったのですから」
「はい、あなた」
「ありがとう桃子」
「やっぱり運動した後はご飯が美味しいね、すずかちゃん」
「そうだねなのはちゃん」
「あんたらのアレは運動にカウントしていいの?」
「あははは……」
「どうぞ忍さん」
「あ、どうもリニスさん」
「美味いのう、美味いのう……!」
「泣きながら食うな、怖い」
賑やかに騒がしく昼食を食べ終わり全員で円状に座りお茶を飲む。
「——では、今後の事ですが」
最初に口火を切ったのはイリアだった。
「フェイト・テスタロッサが「最後」のジュエルシードを「回収」した後、管理局に渡します」
「勿論きちんと【封】をした後でね」
「大丈夫なんでしょうか?」
すずかちゃんが少し不安そうに聞いてくる。
「それは問題ありません、既に管理局とプレシア・テスタロッサとは話がついています」
「うわあ、完全な出来レースか……」
「双方の満足いく形を模索した結果です」
何度かリンディさんとプレシアさんを交えて話し合った結果だ。
……イリアも含めて3人が見事なまでの悪役が浮かべる笑顔で話しあっているのを見ているのはきつかった……!
「どんな形になったんですか?」
アリサちゃんが手を上げて聞いてくる。
「大まかな形でいえば
アリサちゃんが「最後」のジュエルシードを発見。
そこへ「同じ目的」のフェイトちゃんがやってくる。
そこでちょっとした「問題」が発生する。
少し時間が経ってから管理局が登場して「問題」を解決する。
ジュエルシードは全て回収され事件は解決。
ってところかな」
「わかりました、頑張ります」
『<サポートは任せて下さい>』
「ええ、よろしくレイジングハート」
アリサちゃんの首から下げられているレイジングハートが点滅しながら俺達にしか聞こえないくらいの声で伝えてくる。
「——で、実際はどうなんだい?」
横でお茶を飲んでいた士郎さんがいたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべている。
「それはこれから説明しますよ、管理局への報告書には今言った通りの事が「起きた事として報告」される。だけど「実際に起こる事」は違う」
俺が姿勢を正して話し始めると皆も表情を真剣にして此方を見てくる。
——敏彦は真剣にカメラいじってるけど。
「今回の騒動の最後に起きる事は全ての陣営が納得のいく終わり方として提案されたものだ。危険は勿論ある。だけど俺もそうだけど【魔法使い】も『魔導師』も最大限のサポートをする」
「皆が納得のいく方法って……?」
すずかちゃんが少し心配そうに聞いてくる。
「——今回の全ての最終解決の為の「鍵」は——なのはちゃんに託された」
「……ぶふうっ!?」
「うわあ!?」
お茶を飲んでいたなのはちゃんが突然の事にお茶を吹き出す。
——すぐ横に座っていたユーノの顔面に向かって。
うわあ……