ぱっとみるとらすぼす
彼女の名は『FATE』 --Ⅰ--
長い無機質な廊下を目的の部屋に向けて歩く。
私『フェイト・テスタロッサ』は母である『プレシア・テスタロッサ』に呼ばれてやってきた。
「一体何なんだよ、いきなり呼び出したりしてよ」
私の後ろで使い魔で大切な家族の『アルフ』が文句を言っている。
今私達はジュエルシードを捜索している途中に母さんに呼び出された。そして今私達が暮らしている「時の庭園」と呼ばれる拠点に帰って来た。
「大体フェイトが会ったって言う『魔導師』の事だってほとんどわかってないのに!きっとあいつらもジュエルシードを集めてるんだ!あいつらより早く集めなきゃいけないのによ!あのババア!」
「アルフ、母さんは母さんの考えがあるんだよ、母さんの悪口は言わないで」
「……フェイトがそう言うなら」
アルフが母さんの悪口を言い始めたので止める。
母さんに呼び出されたのはしょうがないと思う。
時間をかけて集めたジュエルシードは21個中たったの「3」個だけ。
現地世界の「協力者」の話の通りに捜しに行った時——
確かにそこにジュエルシードはあった。そしてそこで——
——私はあの金髪の『魔導師』と、栗色の髪の「少女」に出会った。
大した魔力のない脅威にならない魔導師、デバイスすら持たない『魔導師』ですらない少女。
何の問題もなくジュエルシードを回収できる筈だった。
一気に接近してジュエルシードを、取ろうとして——
私は栗色の髪の少女に地面にたたきつけられた。
ほ、ほんとなんです!
ジュエルシードに手を伸ばそうとしたら栗色の髪の女の子が笑顔のまま私を投げ飛ばしたんです!
魔法も使わずにやったんです!
気を失って目が覚めたら部屋の中で目の前には私を投げ飛ばした女の子。
……ちょっと、怖かったです。
でも、その後は驚いた。しばらくして部屋に入ってきたのは——もういない筈のリニス。
リニスの顔を見た時は驚きすぎて何も考えられませんでした。
でも話して彼女が本物のリニスである事が解って、少し泣いてしまいました。
……思い出すとすこし恥ずかしいです。
リニスが他の人達を説得してジュエルシードを渡してくれた。
その時リニスは母さんの事を幾つか聞いてきたので答えると
「……そうですか」
凄く悲しそうな表情をしていた。
何故か帰ろうとした時に魔導師と一緒にいた男の人が
「はいこれ」
「これは……?」
「サンドイッチだ、帰ったら2人で食べな」
「え?」
「さらば!」
「え?え?」
男の人は私にサンドイッチが入っているらしい大きめのバスケットを渡すと「ひゃおー」と言いながらどっかに行ってしまった。
なんだったんだろう?
そのまま家に帰ってバスケットを開けるとそこには幾つもの種類のサンドイッチとフルーツ、そして1枚の紙。そこにはこう書かれていた。
——顔は大丈夫かい?、「翠屋」という美味しい喫茶店の地図を同封する。美味しいから一度行ってみるべき——
見るとお店の写真と地図が入っていた。
——追伸、もう少し露出は控えるべき、でもグッジョブ!——
……この人は良い人なんだろうか?
そして、私の手にはその翠屋で買ったケーキとシュークリームが入った箱を持って歩いている。
「あいつにそんなもの買っても意味ないよフェイト」
「でも、美味しかったから母さんにも食べて欲しくて……」
「フェイト……」
それから「協力者」の人から「海に6個のジュエルシードがある」と聞き、
アルフと一緒に海に行った。探索したけど見つからず強制的にジュエルシードを起動させて回収しようとしたら突然リニスが現れてそのまま「時の庭園」に行き母さんのもとへ向かった。
最初リニスを見た母さんは凄く驚いていた。でもすぐにリニスを追い出そうとしたけど
「プレシア、貴方の「願い」が叶えられる方法を知っています」
その一言で母さんはリニスの言う通りに現地にやって来て何処かの館に入った。
最初応対に出てきた男の人は凄く驚いていた。
リニスと母さんは男の人と一緒に何処かへ、私とアルフは別の部屋に通されて
「さあ、おかわりはあるから好きに食べてくれ!」
あの時サンドイッチをくれた男の人に夕食をご馳走になっています。
「す、すみません」
「遠慮しないでどんどん食べてくれていいぞ」
「うまいな!」
「はっはっは、そうだろうそうだろう!」
「何で貴方が威張るんですか、作ったのは兄さんでしょう」
「最終的な味付けをしたのは俺!つまりこれは俺の作!」
「殴ります」
「確定事項!?」
目の前で女の人に殴られている笑顔の男の人から目を逸らしながらシチューを口にする。
——美味しい。
誰かが作ってくれた食べ物なんていつぶりだろう……、気が付いたらおかわりもしていた。
丁度食べ終えた頃にリニスと母さんがやってきた。
「母さん!リニス!」
「お待たせしましたフェイト、今日はもう帰ってもいいですよ」
「え?でも母さんは……」
「私は自分で帰れるわ」
「でも……」
「あなたは早くジュエルシードを集めなさい」
「おい!そんな言い方ないだろ!」
「——いいよアルフ」
「でもフェイト!」
母さんに掴みかかりそうだったアルフを止めているとリニスが母さんに話しかける。
「それではプレシア、また」
「……ええ」
あれから母さんのジュエルシードの催促が来なくなった。アルフは「静かでいい」なんて言っていたけど。
今日までの事を考えていたら母さんの部屋の前に来ていた。
「いちいち呼びつけないで自分から来いっつうの」
「母さんもきっと忙しいんだよ」
「は!どうだか」
「もう、そろそろ入るよ」
「はいはい」
一度深呼吸してから扉を叩く。
「母さん、フェイトです」
『入りなさい』
ゆっくりとドアを開く。
とても広い空間、部屋の中にはこれと言った家具もなく大きな椅子が1つ。
そこにA4サイズの大きくて分厚い本を膝の上に載せた母さん、
『プレシア・テスタロッサ』が座っていた。