さいかい
彼女の名は『FATE』 --Ⅱ--
椅子に座るプレシアが膝の上に置いた豪華な装丁の本を優しく撫でながらフェイトを眺めている。
フェイトは緊張して、アルフは居心地が悪そうに立っている。
「それで?集めたジュエルシードはたったこれだけ?」
プレシアは目の前に浮いている「3個」のジュエルシードを呆れた表情で見ている。
「ご、ごめんなさい母さん」
「本当に使えな——」
「……母さん?」
これからフェイトを罵倒しようとするプレシアの言葉が突然止まりフェイトは不思議そうにプレシアを見る。
プレシアは複雑な表情を浮かべながら本を優しく撫でている。
「……まあいいわ、フェイト」
「はい」
「これから言う場所にジュエルシードがあるわ、行って取って来なさい」
「はあ!?」
プレシアの突然の言葉にアルフが素っ頓狂な声を上げる。フェイトも声を出さないが驚いている。
「何?何か言いたい事でもあるの?」
「な、ないです」
「そう、ならさっさと行きなさい」
プレシアは場所言うだけ言うともう用が無いかのようにフェイトから視線を外す。そしてまた本を撫でる。
「あ、あの母さん」
「……何?」
おどおどと話しかけてくるフェイトに少し苛立ったような口調でプレシアが聞く。
少しびくついたがそれでも一歩前に出て持っていた箱を差し出す。
「それは?」
「み、翠屋っていうお店で売ってる人気のケーキで、母さんに食べて欲しくて……」
「そんな暇があるのなら——!?」
「か、母さん?」
再び会話が途中で切れた事に先ほどよりも警戒してプレシアに視線を向けるフェイト。
「!?」
そして彼女は気付く、
プレシアが膝の上に乗せている本から僅かだが『魔力』が発生している事を。
だがデバイスには見えない、今まで見た事もない。
「あの、その本は——」
「貴方には関係ないでしょ」
「それは——」
「さっさと行きなさい!私を失望させたいの!?」
「わ、わかりました……」
本について聞こうとした瞬間、プレシアの凄い剣幕にフェイトはこれ以上母を怒らせたくなかったのでアルフを引き連れて部屋から出て行こうとする。
「——フェイト」
プレシアがフェイトを呼びとめる。その表情には何か納得していないような表情が浮かんでいる。
「——ケーキは置いていきなさい」
「あ……」
「2度は言わないわ」
「は、はい!」
途端に嬉しそうに近くにテーブルの上にケーキの入った箱を置いてプレシアの方を向く。
その顔には先ほどまでの辛そうなものではなく、どことなく嬉しそうにしている。
「行ってきます母さん」
「……」
プレシアは無言のまま、フェイトはアルフと共に部屋から出ていく。
そして誰もいなくなった部屋でプレシアは愛おしそうに本を撫でながら言葉を紡ぐ。
「これで良かったの……?『アリシア』」
その言葉に反応するかのように僅かに本から魔力が出てくる。
「ええ、【魔法使い】に言われた通りにしたわ。後は知らないわ、例え……」
プレシアはフェイト達の出ていった扉を興味の失った目で見つめる。
「——【魔法使い】がフェイトを殺して貴方が戻ってくるなら、私は喜んでアレ(フェイト)を差し出すわ」
優しく本を抱きしめながらプレシアはそう呟いた。
「なあ、フェイト」
「どうしたのアルフ?」
母から言われた場所に向かっている最中、誰もいない暗い道でフェイトは後ろから使い魔であるアルフに呼び止められた。
「おかしいと思わないかい?」
「……」
「突然呼び出したと思ったらジュエルシードがある場所に向かえだなんて」
「それは……」
「そもそもあいつの抱えてたあの本は何だい?魔力を感じたからデバイスかと思ったけどそんな風には見えないし」
「……」
それはフェイトも思っていた。プレシアがあの本を持って帰って来てからプレシアは片時も本を離そうとしなかった。
常に優しく撫でている。それだけではなく時折抱きしめたりもしている。
まるで「宝物」のように——
「それにリニスだったかい?あいつも急に現れてなんなんだい?話は聞いたけどあまりにも怪しくないかい?」
「り、リニスは」
「だけどあいつはあの魔導師どもと繋がってるんだろ?だったら罠なんじゃないかい?」
「……」
「……なあ、フェイト」
アルフがフェイトの目線に合わせて少し屈む。
「もう、逃げよう。あいつの事なんかほっとこうぜ?」
「——それは出来ないよ」
「なんでだよ!?フェイトをまるで物みたいな扱いしてるあいつの肩を何で持つんだよ!?」
「……」
激昂するアルフにフェイトは笑顔を浮かべて答える。
「私の母さんだから」
「っ……!!」
「確かに母さんは辛く当たってるかも知らない、でもそれは私がきちんとできてないから。私が母さんの要望にちゃんと答えきれてないから」
「そんな事無い!フェイトは誰よりも努力してる!!」
アルフは首をちぎれんばかりに横に振る。
「ありがとうアルフ」
それにフェイトはお礼を言う。そしてポケットから金色の三角形の物体を取り出す。
「バルディッシュ」
『<はい>』
「力を貸して」
『<勿論です>』
点滅と共にフェイトの足元に魔法陣が現れ、光に包まれ光が収まるとそこには
マントを纏い、杖の様な、鎌のようなデバイス『バルディッシュ』を持ち、
『バリアジャケット』をその身に纏ったフェイトがいた。
「行こうアルフ」
そのまま空を飛んで一気に目的地に向かって行く。
しばらくするとプレシアに言われた場所が見えてくる。そこには——
「フェイト!」
「……」
最大限の警戒をあらわにするアルフ。
即座にバルディッシュを構えるフェイト。
目の前には空中に浮いた3つの人影。
「完全に警戒されてるわね……」
金髪を後ろで一つに束ねて『バリアジャケット』を展開した魔導師の少女「アリサ・バニングス」
「それは当然でしょう、言われた場所に我々がいれば馬鹿でも警戒します」
ジーパンにジャケットのラフな格好をしたアルフくらいの年の女性「イクスヴェリア・遠坂」
「こ、こんにちはフェイトちゃん!」
栗色の髪をサイドでまとめ、上下をオレンジ色のジャージで固めている少女
「高町なのは」が待っていた。