そして
彼女の名は『FATE』 --Ⅲ--
「え、えーと」
「……」
「ふ、フェイトちゃん」
「……」
なのはは困っていた。
目の前にはバリアジャケットを着込んだフェイト・テスタロッサとその横には彼女の使い魔のアルフの2人。
そしてその2人は完全にこちらを警戒しており、はた目から見ても交渉はうまくいきそうにない。
——【い、イリアさん。どうしましょう?】——
——【どうするも何も兄さんがこの前言っていたとおりですよ】——
——【ほ、他の方法は……】——
——【無理ですね】——
イリアがなのはの言葉をバッサリ切り捨てる。そしてフェイトに話しかける。
「さて魔導師、貴方の望みはこれですね?」
イリアはポケットから蒼く輝く菱形の物体、ジュエルシードを取り出す。
——勿論偽物なのだが
それをこれみよがしに見せつけながら話を続ける。
「はっきり言いましょう、
貴方はこれが欲しい。私達はこれに興味が無い。
これだけ聞けば私達がこれを貴方に渡せば解決するように思いますがこんな危険極まりないものを渡して何かが起きてからでは困る」
「……」
「ですからこれは『管理局』に渡します、既に連絡がついてこちらに向かっている最中です」
「!!」
管理局がこちらに向かっている——
その言葉に大きく反応するフェイトとアルフ。
その様子を見てイリアは満足そうに話す。
「そう言う訳ですので諦めて下さい」
「……他のジュエルシードは」
「残念ですが全てこちらの手にあります。——アリサ」
イリアの言葉に頷いてアリサはレイジングハートに格納された残りのジュエルシード(偽物)を取り出す。
それを見てフェイトの目が大きく見開かれる。相当ショックだったようだ。
「何が目的か知りませんがそちらには3個もあるのでしょう?それを持って帰りなさい。管理局には黙っていてあげます」
「……どうすれば」
「なんですか?」
「……どうすれば、ジュエルシードを渡してもらえますか」
「言った筈です、「渡す気はない」と」
感情のこもっていない瞳でイリアはフェイトを睨みつける。アルフは一瞬たじろぐがフェイトは負ける事無くイリアに頼み込む。
「お願いです、ジュエルシードを譲って下さい」
「断れば実力行使でもするつもりですか?貴方が?私達に勝てると?なのはにすらまるで手が届かない貴方が?」
「……お願いします、何でもします。ジュエルシードを、譲って下さい」
頭を下げて必死に懇願するフェイト。アルフも普通なら力ずくで奪いにかかるだろう。だがそれが出来ない。
理由は簡単、「怖い」からだ。
ここに来て彼女達に出会ってから全身が警告を発している。
——使い魔としての能力か、
——元獣としての本能か、
「カノジョ」ハキケンスギル——!!
もしもこの場に居るのが自分だけならば即座に逃げ出していただろう。
だが、自分の主人であるフェイトが引く事無くいるのだ。ここで下がれる筈がない!
イリアは顎に手を当てて何かを考え込む。
10秒ほどだろうか、ひどく長く感じられた静寂の中イリアはゆっくりとフェイトに話し始めた。
「……何でもすると言いましたね」
「はい」
迷うことなく即答するフェイト。
「私達としても管理局に一度連絡してしまった手前、はいどうぞ、と渡す事は出来ません」
困ったと言わんばかりの表情でイリアは肩を竦める。
それを何故か呆れた表情でアリサが見つめる。なのはは苦笑している。
「ですから「私達から強奪した」と言う事ならば私達も言い訳が出来ます」
うんうんと頷きながらイリアは語る。——「奪われた」のなら仕方がないと
「なので貴方には私達の中か1人を選んで勝負して下さい。全員で行ったらただの弱い者いじめですからね。貴方が勝ったらジュエルシードを全て渡しましょう」
「……私が負けたら?」
「負ける事を考えていては勝てませんよ」
「……わかりました」
フェイトの瞳の中の闘志が大きくなり、デバイスを握る手に力が入る。
「誰にしますか、私としては彼女なんかお勧めですよ、大して魔力もないし、まだ訓練不足ですし」
「ちょ、ちょっ!!?」
イリアの突然の発言に大きく狼狽するアリサ。しかしフェイトは首を横に振る。
「そこの栗色の髪の子と戦います」
「——理由を聞いても?」
「——」
「まあ、いいでしょう。——なのは、ご指名ですよ」
「はい!」
「よろしくね、フェイトちゃん」
「……」
「あ、あのー」
「……」
「にゃああ、コミニュケーションは必要だと思うの……」
なのはとフェイトは対峙して空中に浮いている。距離は約10メートル。
周囲には誰もいない。イリアとアルフ達はすでにこの場から離れている。
フェイトはバルディッシュを下段に構えたまま無言を貫いている。
なのはは何度か話しかけたが何の反応も返ってこない。……流石にちょっと悲しくなってきている。
「フェイトちゃん……」
「——私は」
「え?」
「私は母さんの力になりたい」
独白のように、宣言するように——
「母さんが望むのなら私はそれに応えたい。どんなことでもしてみせる。それが母さんの願いなら」
少し視線を落とし自分のデバイスを見る、デバイスはただ点滅する。
それを見てフェイトは目を瞑って、目を開き、
再び前を、——なのはを見据える。
「だから、私は絶対に負けない」
「——私も負けないよ」
そこでやっとフェイトの顔に笑顔が浮かぶ、だがそれは口の端だけを釣り上げる獰猛な笑み。
それになのはも応えるように同じ笑みを浮かべる。
「「なら」」
言葉が重なる——
2人はゆっくりと姿勢を変える。「闘う」為に——
——一瞬の間——
「「勝負!!!」」
そして【 】が始まった。
すみません、前回投稿予約時間を間違えました