これなんてむりげー
『魔導師』 対 【魔法使い】 --壱--
「くっ!!」
大きく体を反らしながら武器を振るう、金色の刃は残光を残しながら空を切る。
『<右!!>』
武器からの声に即座に反応して大きく飛び退く。その途中に視界の隅から信じられない速度で拳が現れる。
拳の風切り音は最早砲弾の音に近い。
同時に全身が「焼かれるような」激痛が走る。
——否、「焼かれている」のだ。むき出しの腕は一気に熱を帯び、火傷していく。
体はバリアジャケットがあるがどんどん「分解」され、武器の光り輝く刃が崩れていく。
喉は最初に少し吸い込んだだけで肺は浅い呼吸をしただけでズキズキと痛む。
距離を取り即座に10近い魔力の球体を作り出し叩き込む。だがそれは彼女の3メートルほど手前で霧散する。
接近戦を挑めば全身が内からも外からも——「焼かれる」——
中・遠距離戦は悉くが無効化された。
痛む全身を堪えながら少女「フェイト・テスタロッサ」は前を見る。
そこには
紅く輝き火の粉を撒き散らす髪、
髪と同じ色の瞳を輝かせ、
背中から炎で出来た翼を広げ、
首から濃い紅のペンダントを下げ、
周囲に炎を纏うジャージの少女、
【高町なのは】が悠然と空中に浮いていた。
「至急説明を求む」
「ういうい」
どうも遠坂時臣です。現在周囲を【隔離】してさらに一部を【隠蔽】してそこにて目の前の激闘を眺めております。
周囲には
高町家一同、
遠坂家一同(敏彦含む)、
ハラオウン一家+管理局の人、確かエイミィだったかな?
アリサちゃんにすずかちゃん、ユーノとプレシア、アルフにリニスさんという大所帯だ。
ほとんどの人が呆然としている。……理解はできる。
「……何、アレ?」
「こらこらアリサちゃん、友達を指差して「アレ」呼ばわりは酷いと思うよ」
「他に表現しようがないんですけど……」
アリサちゃんが諦めた表情で聞いてくる。
「1個ずつ説明して行こう」
「お願いします」
そう言うと今も激戦を繰り広げている空中を見ながら説明する。
「詳しい説明は省くけどあの姿がなのはちゃんの【魔法使い】としての【魔法】の使用状態だよ」
「凄く迷惑なんですけど……」
文句や苦情は本人にお願いします。
「なのはちゃんは今現在自分の魔力をアギトの【炎熱変換】を借りてそれを行使しているんだ」
「髪や瞳の色が変わったのは?」
「【魔力の変換】の過程でその影響が体に現れてるんだ。本来は見た目だけなんだけどまだきちんと制御しきれてないからそのまま外に影響してる」
「つまり?」
「近づいたら燃える」
「今度からなのはとの距離を考えます」
普段は大丈夫なんですけど……
「それなんて超最強なサイヤ人?」
「いや、なんでもこっちの世界の小説を参考にしたらしい」
「なにそのホラー小説」
確か【炎髪灼眼】だったかな?俺は読んでないから詳しい事は知らないんだけど
「早すぎて捉えきれん、完全なヤムチャ視点すぎる」
「ズーム諦めたら?」
「頑張る」
「頑張れ」
「ところでなんでフェイトの魔力弾が当たる前に消滅してるの?」
隣でカメラで必死に動きを追う敏彦から質問がやってくる。……頑張るなあ
「溢れた膨大な魔力がなのはの周囲に濃密に展開しています。あまりの密度で他の魔力を全て分解してしまうようです」
「その通り、流石はイリア」
「すごいやイリアちゃん」
「ありがとうございます兄さん、ぶっ飛ばしますよカメラマン」
「名前ですら呼ばれないとは……」
喜ぶイリアに落ち込む敏彦、それでもきちんとカメラは回し続けるお前は凄いよ。
「何だその非常識は……」
ボソッと後ろの方からクロノの呆然とした声が聞こえてきた。——すみませんね非常識で。
「でも問題もある、あんな勢いで魔力を放出しているからあまり長続きはしないな」
「あとどれくらい?」
「30分くらいかな」
「フェイトが炭になるな」
そんな事を話していたら後ろから誰かが飛び出して行こうとする。しかしその前にイリアに抑えつけられた。
「は、離せ!!」
「うるさい、黙りなさい」
たしかフェイトの使い魔だったかな?アルフは動こうとするが微動だに出来ない。
「このままじゃフェイトが!!」
「問題ありません、「親」の許可は貰っています」
「!!、プレシアアアァァァ!!」
アルフは後ろで椅子に座っているプレシアに吼えたが彼女は少しばつが悪そうに目を逸らす。
「これは「全て」が許可されたものです、
「なのはの家族」
「時空管理局」
「フェイトの親」
たかが使い魔が口を挟む余地なんてありません」
「ふざけんな!!」
「ふざけてなどいませんよ」
「フェイトを殺す気なのか!?」
「別に最初から殺す気ではありませんよ?「もしかしたら」死ぬぐらいです」
「それでも!!」
「ええ、「あの状態」のなのはの一撃を受けた時点で——」
イリアは一瞬プレシアの方へ視線を向けたがすぐに戻し、
「——間違いなく「死にます」」
事実を口にした。