ははとはは
『魔導師』 対 【魔法使い】 --弐--
「なんなんだ、これは……」
思わずクロノの口からそんな言葉が出る。
——それは誰かに向けたものなのか、自分に向けたものなのか
フェイトが次々と撃ち出していく魔力弾がなのはに近づくだけで消えていく。
なのはが接近するだけでフェイトの肌が焼けていく、彼女は苦悶の表情を浮かべながらも金色の刃を振るう。
なのはが避ける。
なのはが攻撃する。
フェイトが避ける。
フェイトが攻撃する——
ただそれだけの動き、——なのにその光景から目を離せないでいる。
「【魔法】ですよ」
横から声をかけられる、クロノが横を向く、そこにはどこか達観した表情で今も空中で壮絶な戦いをしている2人の戦いを見ているユーノがいる。
「【魔法】……」
「そうです、『魔法』ではなく【魔法】です」
「『魔法』ではなく……」
「僕は最初、【魔法】を研究したかった」
まるで人生を振り返るかのようにゆっくりした口調でユーノは語り出す。
「だけど「知った」今は違う」
ゆっくりと頭を横に振る。
「【魔法】を研究するなんて不可能です」
絞り出すように声を出す、手はいつのまにか真っ白になるほど力強く握りしめている。
「『魔法』は研究できる、でも【魔法】を研究するという事は【魔法使い】になるしかない」
「【魔法使い】に……?」
「そうです、でもそれは1人では決して辿り着けない。【魔法】を知るには【魔法使い】になるしかない」
ユーノが顔を上げ前を見る。クロノもつられて前を見る。
そこには片方はミッドチルダの長い歴史の中で研鑽された『魔法』、
片方はそんな歴史を簡単に打ち砕き、今までの常識を簡単に覆し続ける【魔法】。
「なのはさんはまだ基礎しか学んでない、それゆえに力の制御も甘く『魔法』の勝ち目があります。
——では」
少し言いよどんだ後、ユーノはその言葉を口にする。
「——【魔法使い】には勝てますか?」
その言葉にクロノは思わず横を見る。
そこにいるのは2人の【魔法使い】
——この2人が本気を出したら?全く別の【世界】を作り出すような【魔法使い】と戦う?
考えたら思わず笑いが出た。その笑いにイリアが少し不機嫌そうにクロノを見る。
——無理だ、馬鹿馬鹿しい。
考える事すら愚かで想像でも勝てる気がしない。
「自分が理解できない【知識】を他人に教える事なんて出来ない」
「……ああ、その通りだ」
2人は顔を見合わせ苦笑する。
「なんだか考えたら馬鹿らしくなってきたな」
「ええ、そうですね」
「君達何でそんなに悟り開いた顔になってるの?」
「「【魔法使い】のせいです」」
「……すみません」
思わず謝った時臣だった。
「……少しいいかしら?」
「……なに?」
プレシアの前にリンディがやってくる。プレシアはリンディの顔を見ないようにしながら応える。
「貴方の事は聞きました、目的も」
「そう」
「それでお聞きします。——フェイトちゃんを見捨てるんですか?」
「見捨てるんじゃないわ、「代価」よ」
「代価?」
「そう、私は【魔法使い】と取引したの。アリシアを取り戻す代わりにあの子の「生殺与奪権」を渡す」
プレシアははっきりと言った。
リニスは俯いていて表情が読めない。アルフはプレシアに飛びかかろうとしているがイリアに抑え込まれたままで動けない。
「……本気ですか?」
「ええ、本気よ。あの失敗作を渡せばアリシアが戻って来るのよ」
リンディが渋面をしているがプレシアは本を撫で続けながら平然と答える。
「アリシアじゃないのなら要らないわ」
「——それはあなたの本心ですか?」
「……そうよ」
「——本当にそうですか?」
「……何が言いたいの」
「あの子に本当に興味が無いのならどうしてわざわざ「ここ」に来たんですか?」
「——それは」
本を撫でる手の動きが止まる。リンディは一歩プレシアに近づく。
「あんなにも貴方を慕い、貴方の為ならば犯罪行為すらしてみせる。そんなあの子が可愛くないんですか?」
「……あの子はアリシアじゃない」
「そうです、あの子の名前は『フェイト・テスタロッサ』、貴方の「もう1人の娘」です」
「——違う!!」
そこで初めてプレシアはリンディを見る。
強く唇を噛みしめながらリンディを睨みつける。それでもリンディはプレシアを真っ直ぐに見つめている。
「アリシアの出来そこない!私の娘なんかじゃないわ!!」
「——ならどうしてすぐに「処分」しなかったんですか」
「そ、それ……は……」
「失敗だったのなら「次」を作ればいい、それが駄目ならさらに「次」を。でも貴方はそうしなかった」
「違う……」
「いいえ、違いません。貴方はそうしなかった——何故です?」
「わ、私は……」
震える声で必死に反論し続けている。さらに一歩進んで屈んで椅子に座ったプレシアと同じ目線になる。
「アリシアちゃんは戻ってくるかもしれない、ではフェイトちゃんは?」
「……」
「プレシアさん、貴方はもう一度「娘」を失うつもりですか?」
その言葉にプレシアは大きく目を見開く。
それと同時に空中で大爆発が起きる。
変わらず炎を纏ったなのは、そして——
重力に引かれて落下していくフェイトの姿があった。