ふたりのむすめ
『魔導師』 対 【魔法使い】 --参--
体が、痛い——
腕は焼けて真っ赤になっている。
喉も肺も高熱の空気を吸い込んだせいで息をする度に激痛が走る。
デバイスを握っているのか、ただ掌の肉がデバイスと癒着しているのかすらわからない。
——私は、何の為に?
こんなに体がボロボロになってまで、ナンノタメニ……?
——もう逃げようよフェイト!「あいつ」の為なんかに頑張る事なんかないよ!——
アルフが泣きそうな顔で私に訴えかけてくる。
あ——いつ……?
——さっさとしなさい、どうしてこれぐらい出来ないの——
あれ?この人……は……?
紫色の長い髪の女の人が私を睨んでいる。
——大丈夫?痛くないかしら「————」——
……母さん?
紫色の長い髪の女の人が私を心配してくれている。
——本当に愚図ね、こんな簡単な事すらできないなんて——
——良く出来たわね!偉いわよ!——
——私の言った通りににも出来ないの!?役立たず!——
——流石は私の娘ね!貴方は本当に私の自慢の「娘」ね!——
——貴方は私の言われた通りにすればいいのよ!——
——優しくていつも「私」を褒めてくれる母さん。
——いつも厳しくて「私」を責め続ける母さん。
私の中に「母さん」が「2人」いる——?
——どうしてうまくいかないの!?——
母さんが「私」の肩を掴んで「私」を責める。
——全ての記憶情報の転写は問題無く済んだ筈なのに——!!——
記憶……転写?
——どうして『アリシア』にならないの!!——
あ、りし、あ……?
——失敗作!!何もかも上手くいってたのに!!——
あ、あああ……
——もういいわ、貴方は『アリシア』を蘇らせるまでの「代わり」よ——
ああああああああああああああああああ!!!!!
「落ち着いてフェイト!!」
突然視界が真っ暗になる、落下している感覚も体の痛みも消えた。
そして目の前に——「私」が立っていた。
「あ、貴方は……?」
「初めましてフェイト、私の「妹」」
「いも、うと——」
私が?妹?
「私の名前は『アリシア・テスタロッサ』、貴方のお姉さんだよ」
そう言って私と同じ姿をした、『アリシア』は笑顔で私に答えた。
「……私は事故で死んだの」
アリシアが悲しそう顔で話し始める。
「お母さんは私を蘇らせようとした、『プロジェクトF』を使ってね」
「『プロジェクトF』……」
「そう、クローニングした肉体に記憶を定着させることで元となった人物の肉体と記憶の複製する、プロジェクト『F.A.T.E』」
「FATE……」
「そう、『フェイト』。貴方の名前と同じ計画名。貴方は私を生き返らせる為に生まれた」
体がぐらつく。私はアリシアを生き返らせる為に?でも私は——
「——そう、貴方は私にはならなかった」
「ど、どうし——」
「詳しい事は省くけど【魔法使い】のお陰で今、私は貴方と話せる。そして貴方と【繋がってる】。だから一時的な心の境が曖昧になってる、だからなんとなくフェイトの言いたい事がわかるの」
「私は……」
それじゃあ、彼女の、アリシアの話す事が本当なら。私のこの「母さんとの記憶」は——!!
「……うん、それは「私とお母さん」との記憶」
その場で足から力が抜けて崩れ落ちる。
私の記憶はアリシアので、母さんはアリシアに戻って欲しくて、私は母さんには——
——本当に役に立たない——
ワタシハ——?
「フェイト!!」
「あ、りしあ」
アリシアが私を抱きしめてくれる。
温かい感覚が全身に広がっていく。
「貴方は私じゃない、貴方はフェイト、フェイト・テスタロッサ!!お母さんの娘で私の妹だよ!!」
「でも、母さんは私を——」
「違う!お母さんは貴方の事をちゃんと見てくれてる!」
「フェイト!!」
名前を呼ばれた、アリシアじゃない、アルフでもリニスでもない。
この声は——
感覚が戻ってくる。全身に痛みがやってくる。
空中をただ下に向かって落ちている。
痛みを堪えて首を動かす、声のした方向へ——
「フェイト!!」
大きな本を両手で抱えて肩で息を切らしながら、「私」を見て、「私の名」を呼んでくれている。
紫色の長い髪の女の人が——
母さんが、私の名前を呼んでくれている!!!