たたかいはつづく
『魔導師』 対 【魔法使い】 --四--
プレシアが結界から外に出て走り去った後——
ゆっくりとリンディがリニスに近づいていき尋ねる。
「……行ったかしら?」
「ええ、行きました」
「……上手くいったわね」
リンディのその言葉で張り詰めていた周りの空気が一気に緩んだ。
「おつかれー!」
「いやー、結構緊張したなー」
「いい言葉だったぞリンディ」
「お疲れ様、母さん」
「ありがとう2人とも、ずっとドキドキしてたわー」
「はい?」
安堵した表情でリンディと周りの人が話し始める。アルフは1人状況が理解できず呆然としている。
「お疲れ様ですアルフ」
「え?ああ?おう?」
リニスがアルフの肩を叩いて慰める。アルフは未だに状況を理解できずに良く解らない返事をする。
「あれ?先生達は?」
「なのはちゃん達を見てるって」
「ああ、私達じゃ危ないもんね」
「だ、大丈夫だよ」
「あたしが心配してるのはあのフェイトって子の事よ」
「……」
「無言にならないですずか、不安になるから」
「ご、ごめん」
アリサとすずかはなのは達が移動した方向へ向いて1つの事を願った。
「「どうか相手が無事でありますように……」」
「『アリシア』がフェイトに【接触】しました」
「あれま、流石に黙ってられなくなったか」
「そりゃ「死ぬ」なんて言われりゃ我慢なんてできないだろ」
今、俺達はなのはちゃん達の戦いを追いかけて移動済み。
イリアは解るけど、なんで敏彦も一緒なのかは考えないようにしている。
「敏彦、お前なんでいるの?」
「魔法少女を撮るたぶうひゃあ!?」
「どや顔しないでください、ぶん殴りますよ」
「イリア、もう殴ってるから」
地面で敏彦がのたうちまわってる……でもカメラと三脚は微動だにしてない不思議。
目の前では地面に接触する直前で体勢を立て直したフェイトと近くで『本』を抱えたまま立っているプレシア。
上空では魔力と炎を撒き散らしているなのはちゃん。
プレシアの持っている『本』には『アリシア・テスタロッサ』が入っている。
どういう事かというとフェイトとなのはちゃんが最初に接触した時、フェイトの中に「もう1人」いたのを感じたイリアがフェイトが気絶している間に回収。
それを一時的に【魔本】に収納した。
どうやらアリシアは同じ記憶と限りなく同じ体を持つフェイトの中に入っていた事で【魂の摩耗】が防げたみたいだ。
その後、家にきたプレシアにアリシアの入った本を渡してプレシアと【接触】させて彼女の精神の安定と意識の改善を行った。
おかげで今まさに彼女は「娘の危機」に動いた。
「しかし中々粘りますね」
「確かに、いくらなのはちゃんの制御が甘いとは言え一度で理解して対応するとは優秀な『魔導師』だな」
「勝てるのか?なのはちゃんに?」
「勝てるかもね、ただしその為にはかなり無茶をする必要があるけどね」
今のままではなのはちゃんの魔力が尽きる前に勝負は決まる。
フェイトが勝つには——
「……なあ、時臣」
「なんだ敏彦」
敏彦がカメラを覗いたままこちらに話しかけてくる。
「なんで今回のフェイトとの戦いをなのはちゃんに任せたんだ?」
——ああ、やっぱりそこ聞いてくるか……
「『魔導師』の事ならアリサちゃんがバーニングすれば済むだろ?原作通りにしたいなんて考えじゃないだろ。お前なら【魔法使い】の事を前に出したくないだろうから裏方で徹すると思ってたら普通に関わってる」
「流石は親友だな」
「——思ったんだけどさ、お前『フェイト』を犠牲にしてなのはちゃんを【魔法使い】にする気か?」
「——————」
「イリア落ち着け」
「イリアちゃん落ち着いて、俺泣きそう」
敏彦の言葉にイリアが敏彦だけを狙ったピンポイントに殺気をぶつけている。
敏彦は震えてるけどカメラは微動だにしない。……どうやってるのそれ?
「——前に言った筈だよ敏彦、【魔法使いは寂しがり屋】だって」
「時臣……」
「なのはちゃんはまだ【見習い】だ。そして完全な戦闘方面に特化している【魔法使い】だ。「俺」じゃあ彼女をきちんと【魔法使い】にしてあげられない」
「……兄さん」
2人に顔を見られないように帽子を深くかぶって襟を立てる。
——多分凄い悔しそうな顔をしてるだろうから。
「イリアなら何とかなるかもしれない、でもフェイトならなのはちゃんを【魔法使い】へのステップアップと同時にいろいろ得られるものもある」
「……その為にフェイトが死んだとしても?」
「もしも死んだら何とかしてやるさ、その為に犠牲がでるなのなら「仕方ない」」
はっきりと言う、敏彦の方を見ると向こうはカメラを覗いたまま。
「——そうか」
敏彦の静かな声で言う。
「じゃあ俺、フェイトが死にそうになったらフェイト庇うわ」
「……どうやってですか」
「何とかしてやるさ、一般人舐めんなよ!その気になったら一般人だって空ぐらい飛べるし」
「それはもう一般人ではないかと」
そこで初めて敏彦が笑顔でこちらを向いた。
「大丈夫だって!それに時臣、フェイト死なせる気ないだろ?」
「……まあね」
そりゃまあ「約束」しちゃったからなあ、なのはちゃんと。
——先生、フェイトちゃんと戦う時フェイトちゃんが危なくなったらすぐに手を出して下さいね!——
「あーあー、少しは悪役ぶりたかったんだけどね」
「お前じゃ無理だな」
「無理ですね」
「厳しいね君達……」
泣くよ?
「おや、フェイトが一気に離れましたね」
話している内にフェイトが距離を一気をあける。なのはちゃんは警戒と魔力の消費を考えて追撃しない。でもいつでも動けるようにしている。
「さてさて、どっちが勝つかな?」
「魔法少女に1票」
「一応、両方魔法少女だからな?」
「ではプレシアが両方を倒す」
「「その発想はなかった」」
『魔法』少女と【魔法】少女。どちらに勝利の軍配が上がるかな?