むじるししゅうりょう
むじるしの終わりはカオスでいこう
「…………」
「…………」
我が家の中庭でなのはちゃんとフェイトが無言で向かい合っている。
あの戦いから1週間——
リンディさんが管理局へと報告した今回のジュエルシードに関する報告書。
「管理外世界へのロストロギア漂流、通称PT事件」
指名手配されていた魔導師、プレシア・テスタロッサが管理外世界に「偶然」漂着したロストロギア『ジュエルシード』を回収に来た魔導師、ユーノ・スクライアと合同で回収して現地に到着した管理局に引き渡した事件の総称。
プレシアさん自身が指名手配をされていた魔導師であったのでこのような名前がついた。
——なのはちゃんは知らないけど【関係者】の間では「PT事件」、通称「プラズマ・高町事件」とも言われている。
そしてフェイトの怪我も治り、プレシアさんの治療も安定したので今日はプレシアさん達が事情聴取等でミッドに向かう日——
そんな感じでちょっとした送別会をしているんだが——
どうやらなのはちゃんはフェイトときちんと話がしたい。
フェイトはいまだになのはちゃんが苦手できちんと話が出来ない。
そんなわけで両者とも動けずに謎の膠着状態が続いている。
「……何してるのあの2人」
「会話をしたいんじゃないかな」
「……会話、ねえ」
横にやってきたプレシアさんが手羽を食べながら呆れたように呟く。
「そう言えばまだお礼を言ってなかったわね」
「アリシアの事かい?」
「それもあるけど『アレクトロ社』の事よ」
「ああ、あれか」
プレシアさんは元々アレクトロ社という会社に所属していた魔導師で上からの無茶な要求や安全を無視した命令のせいで起きた事故でアリシアを失った。
そこで俺達はアレクトロ社の機密や不正の証拠等を段ボール5箱分ほどをリンディさんに渡しておいた。
「あれだけの証拠ぶつけられたらあの会社もおしまいね」
「ついでに癒着してた管理局のお偉いさんの首もいくつか飛ぶね」
「彼女が言ってたわ、あの証拠と今回の私の行動で罪状も大きく減るだろうって」
「それは良かった」
「……あなたは知ってるの?ジュエルシードを運んでる船を攻撃したのは私だって」
「さて?何の事やら」
「……アリシアに言われたわ、「お母さんは私を見ていない」って」
プレシアさんはリニスさんやアリサちゃん達と楽しそうに話しているアリシアを眩しそうに見ている。
「あの子の魂はフェイトの中で眠っていた。
私はそれに気付けなかった。
あの子を、フェイトを「出来そこない」と思った。
でもフェイトの中にはアリシアがいた。
あの子はフェイトにした仕打ちを、私はフェイトとアリシア、2人を虐げてたのね……」
プレシアさんの表情は解らないが声は少しかすれている。
「私は……あの子達の傍に居ていいのかしら……?」
「あなたは「母親」だ。娘の傍に居ないでどうするんだ?」
「それは……」
「あんたは一度母親を「放棄」してる。まさかもう一度「放棄」する気じゃないよな?」
「……私を舐めないで頂戴」
こちらを見たプレシアさんの目には確固たる「意志」があった。
「見てなさい、フェイトもアリシアもこれ以上ないくらい立派に育ててみせるわ」
「精々頑張ってくださいな」
「ええ勿論よ」
……これなら大丈夫かな。
「フェイトちゃん!」
「は、はい!?」
おや、ついになのはちゃんが話しかけたぞ。
「そ、その……私と……友達になって下さい!」
「わ、私が、ですか?」
「うん!」
「で、でも……」
「……だめ?」
「そ、そんな事はないです!!」
なのはちゃん、可愛らしく言ってるけど電気出てるから。フェイト怯えてるからね。
「それじゃあ、私の事名前で呼んで?」
「え、な、名前でですか?」
「うん!なのはって呼んで!」
「わ、わかりました……」
フェイトは深呼吸をしてなのはを見る。なのはちゃんは緊張した面持ちでフェイトを見ている。
そして——
「これからよろしくお願いします!なのは「さん」!」
——笑顔でフェイトは「さん」付けした。
「……違うの、あそこは「よろしくねなのは!」ぐらいの勢いだったと思うの……」
「ロード、元気出せって」
「そうよなのは、きっと時間が解決してくれるわ」
なのはちゃんが隅っこでうちひしがれているのを桃子さんとアギトが慰めている。
ちなみにフェイトは理解できずにオロオロしている。
「ど、どうしたんだろう?」
「いろいろあるのよ」
「まあ、ゆっくり時間をかけていけば大丈夫でしょう」
「そうなのリニス?」
「ええ」
「まあ、あの子の言いたい事も理解できるわ。仲良くなりたかったら名前で呼び合うのが最初のステップみたいなものだから」
「そうなの?お姉ちゃん」
「そうよ、名前で呼び合うと距離が縮まった感じがするじゃない?」
「名前で……呼び合う……」
「どうしたんですかフェイト?」
フェイトが何か考え込んだのをリニスが不思議そうに見ている。
「……私、仲良くなりたい」
「お!ならきちんと言わなきゃ!」
「そうですね、きちんと言葉を交わさないと解らない時もありますから」
「うん、行ってくる!」
「頑張れフェイト!」
「頑張って下さい」
笑顔でフェイトはなのはちゃんに向かって走り出す。
それに気づいたなのはちゃんも笑顔になる。
フェイトは笑顔のまま走って、
なのはちゃんを通り過ぎて——
「あれ?」
「あ、あの!」
「うん?」
その先ですずかちゃんとアリサちゃん、ユーノと話していた「敏彦」に話しかけた。
「どうしたのフェイトちゃん?」
「と……」
「と?」
「敏彦さんって呼んでいいですか!!」
「「「いいいいいやああああああ!!!!」」」
俺の横に居たプレシアさん、それを見ていたアリシア、リニスさんから同時に悲鳴が上がった。
「なんということでしょう」
「あばばばばあっばっばば……!!」
「兄さん、プレシアが顔面蒼白ですが?」
「気のせいだ」
「痙攣もしてますけど?」
「そんな日もある」
まさか、よりにもよってそうきたか……
「て、テスタロッサさん!?早まっちゃ駄目!!こんな所で人生を棒に振っちゃ駄目!!」
「全然OK!よろしくフェイトちゃん!」
「はい!敏彦さん!!」
「話を聞いてええええええ!!」
「落ち着いてアリサさん!!」
「じゃ、じゃあ私も敏彦さんって呼びます!!」
「すずか!?」
「どんと来い!」
「はい!!」
「いやああああああ!!すずかがあああああ!!」
「待って!アリサさん!」
敏彦の了承に顔を赤くして嬉しそうなフェイト。
負けじと提案するすずかちゃん。
友人のまさかにショックを受けて走り出すアリサちゃん。
追いかけるユーノ。
すぐ横で引きつけを起こしてるプレシアさん。
一応心配してるイリア。
見なかった事にする俺。
「HA☆NA☆SE!!」
「いけませんアリシア!!」
「大丈夫よ!!一撃で首を落とすから!!」
「論点はそこじゃありません!!」
「あ、あたしはどうすれば……!?」
「笑えばいいんじゃないかな」
「見てあなた、ちょっとアンニュイなクロノもいいと思わない?」
「クロノもあっという間に大きくなったな」
手を刃状にして物事の簡潔な解決を目指そうとするアリシア。
必死にアリシアを抑え込もうとするリニスさん。
どうしていいのかアワアワしているアルフ。
遠い目をしながらアルフの肩を叩くクロノ。
そんなクロノを微笑ましい目で見ているリンディさんとクライド。
——よし、逃げよう。
目の前を通り過ぎてったフェイトちゃんとすずかちゃんが鎌田さんと笑顔で話してる。
——あれえ、どうしてこうなったの……?
だ、大丈夫なの……!
これから時間をかけて友好的な関係を築いていくの!!
周囲を見渡すとそこは——カオスでした。
その中でこっそりとこの場を離れようとする、先生——時臣さん。
とても頼りになって、何一つ誰かを傷つけられない【魔法使い】——
「先生、逃げないでください」
「にゅわ!」
「あ!ちょっと先生!先生なら何とかできますよね!?」
「NO!」
「拒否!?」
「あなた【魔法使い】なら何とかしなさいよ!!」
「俺じゃねえ!俺のせいじゃねえええ!!」
プレシアさんやアリシアさん達に囲まれて凄く困ってる先生。
騒がしいけど決して苦痛に思えない光景。
私、高町なのは——【魔法使い】、はじめました。
拙い文章を読んでいただきありがとうございます!!
今後は少しの間をおいてA’sに移りたいと思います!
間では何話かの閑話を書こうと思っています。
もしも今後「こんな話が見たい」というご意見がありましたら
よろしくお願いします!!
それでは今話にて無印編終了です!