ちょっとしたひとまく
閑話--温泉の夜--
「それでは乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
掛け声とともにコップがぶつかる音が響く。
「かあー!やっぱり温泉で夕食後って言ったらこれだなあー!」
「それただのオレンジジュースだよな?」
「命の水だ!」
「わかったら顔を近づけるな」
目の前で美味しそうにジュースを飲む敏彦を遠ざけながら周りを見る。
今俺達は2泊3日の温泉旅行に来ている。
来ているのは遠坂家、高町家、テスタロッサ家、ハラオウン家という大所帯だ。おかげで行く時マイクロバスを借りて行く事になった。
それで今は夜の10時を越えた所で男だけで飲もうって話になって飲んでいる所だ。
俺の他には敏彦、ユーノ、恭也、士郎さん、クロノ、クライドの計7人がいる。
ユーノはさっきまでアリサちゃんに抱き枕扱いされてたのを敏彦が強制連行してきた。
本人は救出だって言ってたけど。
「すまんねユーノ、何か無理やり連れてきちゃって」
「いえ、僕も男性だけで話してみたかったので」
「ならいいけど」
確かにユーノは普段アリサちゃんやなのはちゃん達と一緒に居る事が多いからな。
「時臣」
「どうした恭也」
「いや、特にこれと言った用事があるわけではないんだが……」
「士郎さん達は?」
「向こうでクライドさん達と飲んでる」
恭也に指を指された方を見ると楽しそうに酒を飲んでいる2人が見えた。
そして間に挟まれて何とも言えない表情をしているクロノ。
なんでそうなった……
そして横に既に空のビンが何本か見えてるんだけど……
「大人は大人で楽しんでるみたいだしこっちはこっちで盛り上がりますか」
「そうですね」
「わかった」
「オレンジ最高」
「黙って飲め」
「ところでクロノさんは?」
「見なかった事にしよう」
「そうかあ、アリサちゃんの練習は順調か」
「はい、確かにアリサさんは魔力が少ないですがそれを生かせるだけの十分な才能があります」
「てことは管理局から誘いが来てる訳か」
「……はい」
うん?なんかユーノが落ち込んだ?
「どうかしたのかい?」
「……僕のせいでアリサさんが危険な目にあってると思うと申し訳なくて」
「お前が悪いな」
「うえ!?」
敏彦のダイレクトアタックでユーノが凄い仰け反った。
「だったらユーノ君、君が出来る事をすればいい」
「恭也さん」
「自分の責任だと悩むのなら出来る事をして彼女を助けていけばいい」
「はい!」
「そしてイチャイチャする訳ですね解ります」
「お前もう寝ろ」
それから2時間ほど騒いでユーノもそろそろ眠気が限界に近くなってきたようでウトウトしている。
敏彦は恭也と何か話している。時折殴られてるけど。
クロノは力尽きたようにうつぶせで微動だにしない、なにがあった。
「時臣君」
「どうしました士郎さん?」
「いや、君にきちんと聞いておきたくてね」
どうやら真剣な話らしい。酔っていた筈の士郎さんから一気に酒気が消えた。
「君はなのはの事をどう思う?」
「……正直な話、まだ異性としての好意が持てたとは言い難いですね。ただ少なくとも妹のような家族的扱いではないですが」
「君は誰か好きな人がいるのかい?」
「いいえ、今のところいません」
「……そうか」
「なのはちゃんが別の人を好きになる事もあると思いますが」
「君は本当にそう思うかい?」
うーむ、自惚れじゃないがあんまり想像できないな。
「私達としてはなのはの意思を尊重したい、ただ君なら私達としても安心できるという事さ」
「胡散臭い【魔法使い】がですか?」
「君だからさ、遠坂時臣君」
「…………」
真正面から言われると恥ずかしんですが……
「もしもあの子が大きくなってもあの子の気持ちが変わらなかったら誤魔化さずにきちんと答えて欲しい」
「……わかりました」
「良かった」
士郎さんが笑みを浮かべている。
本当にこの人はなのはちゃんの事を——
「断ったら刀の錆にしていたよ」
——過保護すぎだよこの人。
「駄目だこの人」
「失礼な、私は本気だよ」
「余計駄目じゃないすか」
「まあ、君がなのはと付き合う事になったら1度死合いをしてもらうけどね」
「試合ですよね」
「死合いだよ」
ん?なんかニュアンスがおかしいな。
「まずは美由希、そして恭也で最後は私だ」
「なぜに3連戦」
「家族になるという事はそう言う事だよ」
「何処の部族ですか」
「ようこそ高町家へ!」
「話を聞いてよ」
そんな話をしながら夜が更けていく。
また1つ高町の常識外れな面を知った気がした——