ついにかれがうごく
--彼--は--彼女達--に接触する
「——間違いないのか?」
室内に暗く重い声が響く。
明かりの無い暗い室内には4人の男女がいる。
20代くらいの肩くらいまでの長さの薄い金髪の女性。
20代くらいの腰まであるピンク色の髪をポニーテールにしている女性。
10歳くらいの三つ編みでオレンジ色の髪の女の子。
20代くらいの白髪の屈強な体の男性。
彼女達はテーブルに置いた1冊の本を囲んでいる。
「……断言はできないけど「彼」の言っている事は限りなく正しいと思うわ」
「くそっ!」
金髪の女性の言葉にオレンジ色の髪の少女が壁を殴る。
「何とかならねえのかよ『シャマル』!!」
「……」
シャマルと呼ばれた金髪の女性は静かに首を横に振る。
「……ならばやはり『蒐集』するしかないか」
「だけど『シグナム』!」
「ならば『ヴィータ』、主をそのままにする気か?」
「それは……!!」
シグナムと呼ばれたピンク色の髪の女性はオレンジ色の髪の少女、ヴィータを見ながら告げる。
それにヴィータは大きく首を横に振りながら叫ぶ。
「『はやて』を見捨てる事なんかできるか!!」
「その通りだ、ならば我等の成す事は一つだけだ」
「『ザフィーラ』……」
ゆっくりと前に出て拳を握る男性、ザフィーラの言葉を聞いて全員が頷く。
「ならさっさと『蒐集』を——!」
「待ってヴィータちゃん」
「何だよ!!」
「それなんだけど……「彼」が言うにはただ『蒐集』を始めれば、はやてちゃんは……
「死んでしまう」らしいわ」
「「「な!?」」」
——死ぬ——
その言葉に3人が驚く。
「どういう事だ!」
「詳しくは教えてもらえなかったけど、今までの話からすると嘘ではないと思うわ……」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ……!!」
「それについては「彼」に何か考えがあるみたい」
「……何が狙いだ?」
「特には、ただ「彼」の指示に従って動けばはやてちゃんは助かるって……」
「……信用できねえな」
ヴィータが鼻で笑いながら答える。
「私も会ったのは2度だけだけどあまりいい印象は持てなかったわ」
「私も同じ意見だ」
シグナムとシャマルは「彼」の事を思い出したのか表情を曇らせた。
「ならばどうする?」
「少しでも妙な事になったらすぐに蒐集しちまえばいいじゃねえか」
ザフィーラの言葉にヴィータが拳を鳴らしながら答える。
「確かに「彼」は魔力がある、でも、なんて言うか……」
「ああ……」
シャマルが歯切れの悪い調子で話す。それを知っている様子でシグナムも頷く。
「……とりあえず「彼」との接触は私とシャマルが担当する、ヴィータとザフィーラは主を頼む」
「承知した」
「任せとけ!」
4人は1つの扉の方向を見る。その先で眠っている自分達が仕える心優しい『主』を……
「では主私達はこれで」
「また後で迎えに来ますね」
「おー、頼んだでー」
次の日はやて達は図書館にやってきた。シグナムとシャマルは調べ物があると言ってはやてと別れる。
シグナムとシャマルは人気の無い本棚のコーナーへ向かう。
そこには——
「待ってたぜ『烈火の将』に『風の癒し手』さんよ」
嫌らしい笑みを浮かべて1人の少年「小山田顕」が壁に寄りかかって立っていた。
「それで決めたのか?」
小山田は周囲を気にしながらシグナムに話しかける。
「……ああ、私達はお前の指示に従おう」
「いいぜ、はやてを助けてやるよ。このままじゃ死んじまうからな」
「…………」
さも当然のように言う小山田にシャマルは顔を顰める。
シグナムも拳を力強く握りしめているが小山田は気付かずに話し続ける。
「じゃあ、ちゃっちゃと『蒐集』しちゃうか」
「どういう事だ?『蒐集』はまずいと言っていただろう」
「あんたらはどうせ管理局員襲ったり、無人世界とかでちまちま捜すつもりだったんだろ?」
「それは……」
小山田は大げさに肩をすくめると口の端を持ち上げて笑みを浮かべる。
「何事にも「順番」ってものがあるんだよ」
「順番だと?」
「そうさ、まずは面倒な奴等から「消して」いくんだよ」
小山田は低く声を押し殺して笑った。