であい
--守護騎士--
『そうか、まだ動かないか……』
「はい、お父様」
路地裏で2人の女性が空中に浮いている画面に映る初老の男性と話している。
女性2人は茶色の交じった灰色の髪と同じ色の瞳、1人は短い髪でもう1人は肩までの長さを持っていて顔立ちは良く似ていて双子のようだ。
だが2人の頭には『猫の耳』が付いていて『尻尾』も生えている。
何かのコスプレのようにも見えるが彼女達の耳も尻尾も彼女達の言葉や表情と共に動いてる。
『闇の書自体は稼働しているんだな?』
「はい、間違いありません」
『『蒐集』に動いている様子は?』
「ありません」
『…………』
初老の男性は顎に手をやって何かを考え始める。
その前では女性2人が直立して男性の言葉を待っている。
「ねえお父様、こうなったらこっちから誘いをかけて動かした方がいいんじゃないの?」
短髪の女性が男性に提案する。
『——いや、それはまずい。ただでさえ上は私を疑っている、ここで大きく動けば疑念はより大きくなるだろう』
初老の男性、時空管理局顧問官『ギル・グレアム』は顎に手を当てたまま答えた。
全ての始まりは11年前、『闇の書』の輸送していた艦隊司令を務めていたグレアムは暴走した『闇の書』を止める為に部下のクライド・ハラオウンの乗った艦を闇の書ごと破壊した。
それから彼は「闇の書の永久封印」を決意して密かに転生した闇の書の行方を追っていた。
そして数年前ついに闇の書の新しい『主』を見つけ出した。
——八神はやて——
身寄りのいない彼女に両親の知人だと偽り、援助をしつつ裏では彼女ごと闇の書を封印する計画を立てた。
——しかし少し前から上層部がグレアムと彼の周辺を調査し始めた。
調べているのは主に聖王教会と繋がりのある局員達で何かを探しているようだった。
すぐに彼は自分と八神はやてとの繋がりを消して彼女達、彼の『使い魔』である『リーゼアリア』と『リーゼロッテ』をはやての監視として戻る事無く調査し続けるように命令した。
報告は秘匿回線で短時間だけ行うようにした。
結果、彼等は『彼と繋がりのある魔法と縁のない人物』を探していた。
しかし既に繋がりを隠蔽していた為、調査は行き詰ったようだった。
その後聖王教会からもたらされた『予言』、それによれば『管理外のとある世界にて闇の書が目覚める』という内容だった。
もはや時間が無い——
彼は焦っていた。別に闇の書を封印するなり破壊するだけなら管理局で行えばいい。
だが彼には「自分が行わなければいけない」という強い意志があった。
——それが部下だった『彼』と彼の家族に対するけじめなのだ。
『闇の書を封印するのは私の最後の仕事だ、迷惑をかける』
「気にしないで下さいお父様」
「そうだよ父様、気にしないでよ」
『……ありがとう』
「でもこれからどうするの?」
『そろそろ彼女の体も限界の筈だ、彼女達『守護騎士』は必ず動く。お前達はそれをサポートするんだ』
「もしも管理局員が邪魔してきたら?」
『……その時は彼等には闇の書の糧になってもらう』
決意した表情でグレアムは決断する。
「「わかりました」」
『では次の報告を待っている、決して無茶はするな』
「「はい」」
画面が消え周囲には静寂が訪れる。
彼女達は耳と尻尾を消して人通りの無い通りへと出る。時間は夜中な為か誰も通る気配はない。
「それじゃあロッテ、早速向かうわよ」
「うん」
長髪の女性『リーゼアリア』の言葉に短髪の女性『リーゼロッテ』が頷く。
これから再び彼女達は姿を変え、闇の書の主である八神はやての監視を行う。
——その筈だった。
「——あ?」
「——え?」
突然のロッテの言葉にアリアが振り向く。
——そこには胸から「誰か」の手を生やしたロッテがいた。
「ロッテ!!!」
「——あ」
ロッテの胸から生えた手は輝く『何か』を握っている。
そして手はゆっくりと戻っていく、手が消えるとロッテはその場に崩れ落ちる。
すぐさまアリアが駆け寄ろうとして、横から何かに殴り飛ばされた。
「あぐっ!?」
地面に叩きつけられたアリアは苦痛に喘ぎながら倒れたロッテを見る。
そこには人の姿ではなく『猫』の姿になったロッテがぐったりと倒れたまま微動だにしない。
「な、なにが——」
「動くな」
上から感情のこもらない声が響く。痛む体をおして上を見上げる。
まるで「騎士」のような甲冑、
風でなびくピンク色のポニーテール、
手に持つのは刃の無い機械的な剣、
その瞳に映るのは感情無き無機質、
ただアリア達を見下ろしている。
「お、おまえ、は——!!」
そこにいたのは『闇の書』の『守護騎士』の1人、『シグナム』だった。
「動くな」
「ぐっ……!」
剣を突き付け、幾つもの帯状の魔法『バインド』でアリアの動きを封じる。
「き、きさ——」
「時空管理局提督『ギル・グレアム』の『使い魔』、『リーゼアリア』と『リーゼロッテ』だな」
「——え?」
アリアは一瞬何を言われたのか理解できなかった。
——何故正体を知られている?頭の中が疑問符で一杯になる。
「——やはり、そうか」
それを肯定と受け取ったシグナムは何処からか『闇の書』を取り出す。
その意味を理解して逃げようともがく。しかし——
「『蒐集』しろ」
『<蒐集>』
「あああああああああ!!」
その言葉と共にアリアの胸から闇の書へと輝く何かが吸い込まれていく。
本に完全に吸い込まれた瞬間、アリアはぐったりと倒れ込む。
「ふむ、2人でかなりのページが集まったな」
「シグナム」
「——シャマルか」
シグナムの隣へ薄緑色の服を纏ったシャマルが空からやって来て着地する。
「どう?」
「ああ、中々の収穫だ」
「そう、じゃあ」
「ああ、こいつらには主に報告をされては困る、ここで消えてもらう」
2人の視線の先にはぐったりと倒れ込んだ猫の姿をしたアリアとロッテ。
シグナムは剣を振りかぶり——
「動物虐待をするなら余所でやってもらえますか」
突然かけられた声にその行動は中断させられた。