またひとり
闇の書対策会議in翠屋
「——みんな今日はよく集まってくれた」
「はいこれ京都のお土産です」
「あら、ありがとうございます」
「母さんお願いだから後にして」
クロノが挨拶とツッコミをしながら周囲を見渡す。
大分寒くなってきた12月の中旬前に第97管理外世界日本の海鳴市の喫茶「翠屋」を貸し切ってクロノは緊急会議を開いた。
参加しているのはハラオウン家のクロノ、リンディ親子、
フェイト、プレシア・テスタロッサ親子と使い魔のリニス、アルフ。
月村すずか、アリサ・バニングス、ユーノ・スクライア。
なのはを除いた高町家の一同。
そして——
「はじめまして、時空管理局、通信主任兼執務官補佐で『アースラ』の管制官を務めています『エイミィ・リミエッタ』です」
エイミィが挨拶すると皆から歓迎の拍手が起こる。
「クロノ君、何かあったのかい?」
士郎が尋ねるとクロノが神妙な表情で頷く。
「はい、この世界で危険な『ロストロギア』の稼働が確認されました」
危険なロストロギア——
その言葉に部屋に緊張が走る。
「そんなに危険なの?」
「ああ、一級捜索指定のロストロギア、『闇の書』だ」
「や、闇の書!?」
闇の書の名前に一番大きく反応したのはユーノ、プレシアも大声は出さないがかなり驚いている。
その様子にアリサ達は大きな事件だと理解する。
「——それで……」
クロノは何かを言い辛そうにエイミィを見る。
「?どしたのクロノ君?」
「……これから話す事を聞けば君は引き返せなくなる」
「え?」
「……だから君に選択して欲しい、『関わるか』『関わらない』かを」
「…………」
「関わらないなら艦に戻って通信連絡に専念してくれていい。無理強いはしない」
「全く君は……」
エイミィは溜め息をつくと少し屈んでクロノと同じ目の高さになる。
「え、エイミィ?」
急に屈んで顔も近くなって若干腰が引いている。
「君と私は「コンビ」なんだよ?いつだって何かあったらお姉さんにお任せだよ?」
「エイミィ……」
「だから私だけ抜けるって言うのは無しだよ、例え危険な『ロストロギア』が相手でもね」
「……わかった」
「うん、よろしい」
観念したかのようなクロノの表情に満足したように頷くエイミィ。
「よろしく頼む、この世界の、いや下手をすれば管理局を含めたミッド世界の存続の危機だからな」
「……え?」
「これからよろしくねエイミィ、後で夫を紹介するからね」
「……え?」
「闇の書も危険だがもっと危険な【人】がいるから気をつけろよエイミィ」
「……ええ?」
どんどん告げられる衝撃の言葉に二の句が告げられないエイミィの肩を誰かが叩く。
エイミィが振り向くとそこには笑顔のアリサと苦笑いしている他のメンバー。
「……え?」
「ようこそエイミィさん、非常識な【魔法使い】の世界へ!」
「えええええええええええ?」
こうしてまた一人、【魔法使い】の世界へ足を踏み入れた。
「聞かなきゃよかった……見なきゃよかった……」
「え、えっとファイトです!」
テーブルに突っ伏して魂の抜けた表情でずっと呟いているエイミィ。
それを横で励ましているフェイト。
それを横目に合流したクライドを含めた魔導師達が話し合いをしている。
「——ほんの少しでも結界なり魔法を使えば探知されると思う」
「でも『魔法』を使わずに闇の書の関係者全員を抑えるのは無理だと思うわ……」
「時臣さんやイリアさんは自分に危害が来なければ積極的に動かない時があるんですが——」
「やっぱり問題はなのはちゃんか……」
「——少しだけ可能性があるわ」
皆で悩んでいる時、プレシアが呟いた。
「どういう事ですか?」
「……多分しばらくは【魔法使い】は「動けない」と思うわ」
「「「詳しく」」」
「……そろそろ『アリシア』の体の調整が終わって魂を戻すのよ、それで2週間くらいは動けないってこの前話してたわ」
「イリアさんは?」
「彼女も手伝いで同じように動けない筈よ」
「……なのはちゃんはどうかしら?」
リンディが僅かな希望を持って尋ねる。
「あの子なら【魔力制御】の特訓とか言って屋敷で【結界】部屋に長時間籠ってたわ」
「ええ、なのはなら帰ってきたらいつも朝までぐっすり寝ています」
「!!、つまりは……」
「アギトは気付いてもなのはちゃん達に害が無ければ動かないと思う、だからその時間で動けば「なのはちゃんに気付かれない」」
僅かながらも可能性が出てきた事に周囲がやる気を出してきた。
「——でもまだ問題があるわ」
プレシアが緊張を込めて発言する。全員がプレシアを注目する。
「どういう事です?」
「あなた達、忘れてないかしら?【魔法使い】よりももっと気をつけなければならない相手がいるでしょう?」
「え?だ、誰ですか?」
「あの忌々しい遠坂家に居る……!!」
「母さん、敏彦さんの事?」
「名前で呼んじゃ駄目よおおおおおおお!!」
翠屋にプレシアの慟哭が響き渡った。
「——それで、彼が危険なのかい?」
「……ええ、ちゃんとした理由もあるわ」
プレシアがフェイトとリニスに正座をさせられたままクロノの方を向いて答える。
「あんにゃろうは【魔法使い】と強い繋がりがあるわ、多分何かあれば【魔法使い】に伝わるようになってると考えるべきよ」
「なるほど……」
「だからもういっそのこと……!!」
「プレシア落ち着いて下さい」
「母さん落ち着いて」
「……ちっ、とりあえず詳しい事情はあんまり説明しないで関わらないような行動をとらせればいいんじゃない?」
2人に睨まれ小さく舌打ちしながらもきちんと答える。
「関わらせないような行動って——」
「「任せて下さい!」」
同時に手を上げるフェイト、すずかの2人。
後ろでは肩を落とすアリサを慰めるユーノ。口を塞がれながら暴れようとするプレシアを抑え込むリニス。
「しかし君達は——」
「「…………」」
2人からくる無言の圧力、クロノは——
「……わかった、彼の事は君達に任せるよ」
「「はい!!」」
諦めて2人に任せる事にした。後ろでは締め落とされたプレシアを溜め息をつきながら引き摺っていくリニス。
「今後の行動方針としては基本、1人では行動しないようにしてくれ。何かあったらすぐに連絡すように、いいか、決して無理はしないでくれ。誰1人欠ける事無くこの事件を解決するんだ」
クロノの言葉に全員が頷く。
「あなた、クロノがあんなに立派に……」
「本当に、大きくなって……」
「クロノ君、リンディさん達が泣いてるけど?」
「見るな、視界に入らなければ問題無い」
クロノは窓から見える雲で覆われた灰色の空を見る。そして1つの決意をする。
——決して誰も犠牲者を出させない……!!——