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彼女達の決意と彼への問い
「それじゃあ今日はシグナム部屋でお休みかあ」
「はい、はやてちゃんに風邪がうつってはいけないのでシグナムの部屋には行かないようにして下さいね?」
「1回くらいは行っちゃあかんの?」
「はやてが風邪ひいたらシグナム責任感じまうからな」
「そっかー……、じゃあ私の代わりにお大事にー言うといてな?」
「はい」
「私はシグナムの看病があるので今日の病院へはザフィーラが付き添ってくれますから」
「ザフィーラよろしくー」
「承知」
「いってらっしゃーい」
はやてが病院に出かけたのを確認するとヴィータとシャマルは頷きあい、シグナムの部屋に向かう。
「シグナム、調子はどう?」
「……ああ、大丈夫だ。すまない」
「謝んなって、次で勝てばいいじゃねーか」
部屋ではシグナムがベッドで上半身を起こして休んでいる。
傷は塞がり、千切れかけていた腕も元に戻っている。
「次は勝つ——か」
「なんだよシグナムらしくねーじゃねーか」
自嘲気味に答えたシグナムにヴィータがしかめっ面をする。
「ああ、あの時確かに私は油断していたと思う、だが奴の太刀筋を見る事が出来なかった」
「シグナムでも見えなかったのか?」
「ああ」
「それに、あの甲冑……」
あの夜、あの甲冑を着た正体不明の敵に追い回され何とか撒いてボロボロで何とか家に帰って来たシャマルとシグナムの姿にヴィータとザフィーラは驚いた。それに——
「あの夜、本当に私達以外の『魔力』を感じなかったの?」
「何度も言ってんだろーが、お前たち以外の『魔力』は特になかったって」
そう、あの夜ヴィータとザフィーラはシグナムとシャマル以外の大きな『魔力』を感知しなかった。戦闘が行われたにもかかわらず『結界』の展開も感じなかったという。
「どういう事なのかしら……」
「……確か奴は言っていたな、蒐集にも「順番」があると」
「そういえば……」
「つまり奴は「彼女」の事を知っていた可能性が高い」
「そうか!だからあいつやたら蒐集する順番気にしてたのか!」
シグナムの言葉にヴィータとシャマルが合点したように頷く。
「くそっ!!あいつ知ってて黙ってやがったのか!!」
ヴィータが苛立って壁を蹴る。シャマルも何かを考えているのか無言で立っている。
「これからどうすんだ?」
「決まっている、蒐集を続ける。主はやてを助けるには闇の書の完成しか方法はない」
「だな」
「——待って」
シグナムとヴィータにシャマルが待ったをかける。
「何だよシャマル、まさかお前ビビってんじゃねーだろーな!?」
「そうじゃないわ、今後の事よ」
「聞かせてくれシャマル」
「彼は言っていたわ、「さっさと蒐集を終わらせないと管理局が来て全てが無駄になる」って」
「ああ、だから真っ先に我々を監視していたギル・グレアムと言う管理局の男の使い魔を狙った」
「だけど失敗した、なら一気に管理局が動く可能性があるわ」
「どうすんだよ」
「彼にはあの使い魔を無事に蒐集をしたと告げるわ、その後——
出来る限りの蒐集するべき相手の情報、
ここに来る管理局の魔導師の情報、その中でも注意すべき相手の情報を聞き出すわ」
「て事は……」
「ええ、一気に決着をつけるわ」
「……もしも彼女と接触した場合は?」
「いざとなったら闇の書の『ページ』を使っても戦いは避けて」
「——わかった」
「——おう」
「それじゃあ、私は彼と連絡を取って情報を集めてくるわ、ヴィータはシグナムの傍に居てあげて」
「任せとけ」
「それじゃあ」
「ああ」
3人が一斉に頷く。想いは1つ、新たなる闇の書の優しい主の為に——
「——久しぶりだね、リンディ君、それにクロノ君まで急に」
「申し訳ありません、何の連絡も無く急に」
「お久しぶりですグレアム提督」
柔らかい笑顔でリンディとクロノを出迎えたのは管理局顧問官を務めている『ギル・グレアム』提督。
彼は2人に着席を勧め、2人は来客用のソファーに座る。
「それでどうしたのかね?」
「お話の前にこれを、休暇で旅行に行ってきた場所で買ったお土産です」
「おお、ありがとう」
リンディが京都土産をグレアムに渡す。
「後で頂くとするよ、そういえば前に見事ジュエルシードを回収したそうじゃないか。流石だね」
「いえいえ、優秀な部下と現地の協力者もいましたから。私1人の手柄ではありません」
「プレシア・テスタロッサだったね、彼女の事情は聞いたよ。裁判の結果は短期間の奉仕活動だったかな?」
「ええ、そうです」
「君のお陰であの会社の不正が明らかになって大変らしいな」
グレアムが苦笑いしながら話す。実際不正が明らかになって会社だけではなく繋がっていた管理局の上層部の一部が一気に捕まった。
「気をつけたまえよ、君を恨む者も多い」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
グレアムの忠告に礼を言うリンディ。
「それで、私のような窓際の管理局員に何の用かな?」
グレアムがおどけながら聞いてくるがその目には冗談の欠片も無い。
リンディは表情を引き締め口を開く。
「——では率直にお聞きしますグレアム提督、
貴方は今回の闇の書について何処までご存知で、
何処まで関与されているんですか?」