かるっ
衝撃と襲撃
「……随分と直球だね」
「はい、提督には遠まわしではなくストレートに聞いた方がよろしいかと思いまして」
「…………」
「提督、状況は貴方が思っているよりも遥かに危険で予断を許さない状況なんです」
「…………」
「提督、上は貴方が闇の書に関わっているのを疑って——いえ!確信して調査しています!」
クロノが立ちあがって机を叩いて叫ぶ。その必死な面持ちにグレアムも少し驚く。
「我々には時間が無いんです!!こうしている間に闇の書の守護騎士達が魔導師を、「魔力を多く持つ者」を襲ったら……!!」
拳から血が出そうなほど強く握りしめている。グレアム提督はその姿がかつての部下とだぶる。
「——そうか、クライド……」
「提督……?」
グレアム提督は目を瞑って何かを思い出すように考えるようにじっとしている。しばらくすると大きく息を吐き目を開けリンディとクロノの2人を見る。
「——わかった、私の知っている事を話そう」
「っ!ありがとうございます!」
クロノが立ちあがり頭を下げる。リンディも頭を下げる。
「それではどこまで知っていらっしゃるんですか?」
「今の闇の書の主とその住んでいる場所も知っている、……彼女の支援をしているからな」
「え!?」
「あの11年前から私はずっと闇の書の転生先を探していた、そして見つけた……。それは身寄りのいないただの小さな女の子だったよ」
合わせた拳をぎゅっと握り話す。
「闇の書を封じる為、彼女を支援し闇の書の稼働を待った。
目覚め、蒐集し、覚醒した瞬間に2度と転生できないように永久封印する為にな」
そう言ってテーブルの上に1枚のカードを置く。
「これは……?」
「『デュランダル』、闇の書を封印する為にオーバーSランク広域凍結魔法『エターナルコフィン』を行使する為のデバイスだ」
「提督、貴方はそこまで……」
「そうだ、私はこの手でどうしても闇の書を終わらせたかった。だが聖王教会からの『予言』で状況が変わってしまった」
グレアム提督は軽くため息をつく。
「どういう予言だったか知らんが上は私の周囲を調べ始めた。それで私と彼女の繋がりを消してアリアとロッテにはずっと彼女の周囲を監視してもいらっている」
「アリアとロッテが!?地球に!?」
「そうだ、定期的に連絡してもらっている」
「い、今は!?今は連絡つきますか!?」
「ぬおっ!?」
クロノが急に身を乗り出してグレアム提督に詰め寄る。思わず身を引いてしまうグレアム提督。
「落ち着きなさいクロノ」
「でも母さん!!」
「駄目な時は駄目なものよ?」
「いやいやいや!!なんでそんな早く諦めてるの!?」
「だって、ねえ?」
「どういう事かね?」
「——提督、あの世界には私達の常識の範疇に収まらない【人達】がいるんです」
「……あの世界には『魔法』はない筈だが?」
「ええ、『魔法』はありません。でも【魔法】があるんです」
「【魔法】?」
「はい」
「それで!?アリアとロッテには連絡がつきましたか!?」
「ちょっと待ってくれないか、——っ!?」
グレアム提督がデバイスをいじり連絡を取ろうとして、表情が一変する。
「どうしたんですか?」
「——妙なデータが来た。何処かの座標のようだが……」
「見せて下さい!!」
クロノがデバイスをひったくり画面を覗き込む。そこにはどこかの住所らしきデータが載っている。
——そしてクロノは「そこ」を知っていた——
「そ、そんな、どうして、ここが……!?」
「知っているのかねクロノ君?」
「——ええ、クロノも私も「良く」知っています」
呆然としているクロノの横でリンディが緊張した表情で画面を一緒に見ている。
「【遠坂邸】、——【魔法使い】の拠点。私の夫、クライドも今ここに住んでいます」
「………………すまない、不思議な単語が聞こえたんだが」
「あ、夫のクライド生きてましたよ」
「そんな簡単に言う事かい!!?」
「1日すずかちゃんとフェイトちゃんといられるとかこれ至福」
「退屈じゃなかったですか?」
「何をおっしゃる!こんな美少女2人と長時間いられるとか素晴らしいリア充タイム」
「喜んでもらえて嬉しいです」
ホクホク顔で歩いている敏彦の両隣を金髪ツインテールの美少女、フェイト・テスタロッサと紫髪の美少女、月村すずかが一緒に歩いている。
「でもごめんなさい、急に……」
「全然問題無し!最近時臣達忙しくてかまってくれなかったからむしろ超嬉しい」
「そうなんですか?」
「うん、アリシアちゃんの体の調整とかいろいろやる事多いからねー」
「お姉ちゃんの様子はどうですか?」
フェイトが心配そうに敏彦に聞く。
「この前会った時はすげえ楽しそうに暴れん坊将軍の第4期見てた、あと粉々になれって言われた」
「あはは、元気そうですね……」
フェイトが若干乾いた笑いをしながら敏彦の言葉に答える。
「——何かあったの?」
「え?」
「いや急にすずかちゃんの家に呼ばれてフェイトちゃんと3人で1日ゲームしたけどその間に随分時臣とイリアちゃん、なのはちゃん達の事を随分気にしてたから、何かあったのかなって思ってね」
敏彦が理由を説明して聞いていく。
しかし実際は「何が起きるか知っている」のでそれを元に聞いている。
「まあ、俺『魔力』もないし【魔法】も使えないからなあ。出来るのは美少女の素晴らしいワンショットを撮る事ぐらいだからなあ」
「そ、それだけじゃないです!」
「そうです!料理だって上手だし!お話も面白いし——!!」
敏彦を2人が必死にフォローする。
「おお、ありがとう。今度美味しいスイーツをご馳走しよう」
「「ありがとうございます!!」」
2人が嬉しそうに返事をする。3人は翠屋で皆で夕食を食べる事になっている。
そこでクロノ達と共に時臣達の様子を聞く予定になっている。
——だが
「え?」
「え?」
「ほむぅ?」
一瞬で消える周囲の喧騒、
何かが『ずれる』感覚、
そして向けられる「敵意」——
「「フェイト・テスタロッサ」に「月村すずか」だな?」
上から女の子の声が聞こえる、3人が上を向くとそこには——
オレンジの髪に赤い帽子に赤いゴスロリ調の服。手にはハンマーを持っている少女。
褐色の肌に白い髪、青い獣の耳と尻尾を生やした筋肉質な体。両手に篭手をはめた男性。
『闇の書の守護騎士』である『ヴィータ』と『ザフィーラ』、
その2人が3人に敵意を向けて空中に浮かんでいた。