まじとしひこ
事情と事実
「間違いねえ、——奴等だ」
ビルの屋上でハンマーを担いだ少女『ヴィータ』が呟く。
横の褐色の肌で獣の耳と尻尾を生やした男性『ザフィーラ』も無言で頷く。
「「あいつ」から聞いてた通りの外見だ、あの金髪も紫髪もかなりの魔力を持ってやがる」
「うむ、蒐集すればかなりのページが埋まるだろう」
「ところで——あいつは誰なんだ?」
ヴィータが警戒したように2人に挟まれるように歩く男性、鎌田敏彦を見ながら隣のザフィーラに問いかける。
「——わからん、魔力も感じられんし武の心得がある様にも見えん」
「じゃあ、ただの一般人か」
「そうだろう、『結界』を張る、問題無いだろう」
「——よし、だったらすぐに始めるぞ」
「——ああ」
周囲に『結界』を展開する。それと同時に空を飛び、一気に彼女達のもとへ向かう。
瞬時に周囲を警戒するフェイトとすずか。
そんな彼女達の上空へ飛来し——
「「フェイト・テスタロッサ」に「月村すずか」だな?」
彼女達へ声をかけた。
「……貴方達は?」
「悪いがお前達の『リンカーコア』を貰う」
「闇の書!?」
「っ!!ザフィーラやるぞ!!」
「応!!」
「「っ!!」」
一気に戦闘状態へと向かうかと思った瞬間
「激写!!」
「んな!?」
突然ヴィータの視界に入る閃光、思わず踏みとどまりそちらを向くと——
「運が良かったな、これがカメラじゃなくて攻撃だったらお嬢ちゃん。あんた、終わってたぜ?」
「「敏彦さん!?」」
不敵な笑みでカメラを持って仁王立ちしている「ただの一般人」鎌田敏彦が立っていた。
「な、なんなんだオメーは!!」
「はじめまして姓は鎌田名は敏彦少し前からこの街に棲息しだした哺乳類です失礼ですが名前を伺ってもよろしい感じですかな?」
「ヴぃ、ヴィータだ……」
一息で一気に喋る敏彦に思わず答えてしまうヴィータ。
「よろしくヴィータちゃん」
「お、おう…………ってちげーよ!!」
普通に促されるままに握手をしていたヴィータはハッと気付いて距離を取る。
「てめえ何が目的だ!?」
「くっくっく」
「貴様……」
敏彦の様子にザフィーラも構える。
「——ヴィータちゃんの手、柔らけー!」
「……は?」
「見事な柔らかさ、綺麗な指、サイコーです!」
「いやいや何を言ってるんだテメーは」
「「わ、私達の手も触ってください!!」」
「おおう!両手で2人の手の感触を同時に!?このままでは脳の解析容量がオーバーロードしてしまう……!!」
「話聞けよ」
ヴィータの心の底からの言葉だった。
「——主の為に魔導師のリンカーコアを蒐集すると……?」
「そうだ、それが我等守護騎士の役目だ」
「でもだからって……!魔導師を襲うなんて……!!」
「うるせえ!あたし達は守護騎士だ!主の為にあるんだよ!」
「話し合う事は出来ないんですか?」
「——それは……」
「もういいザフィーラ!さっさと蒐集するぞ!「奴」が来る前に終わらせるぞ!!」
「「「奴?」」」
フェイト、すずか、敏彦の声が重なった。
「も、もしかして……もう……?」
フェイトが震えるような声で呟く。
「あ、あの!なのはちゃんと会ったんですか!?」
すずかが心配そうに尋ねる。
「はあ?そいつとはまだ会ってねーよ」
「「よ、良かった……!」」
ヴィータの返答にほっと胸を撫で下ろすフェイトとすずかの2人。
だがその返答に敏彦は疑問を持った。
「なのはちゃんの事知ってんの?」
「あっ……!」
「それにフェイトちゃんの事もすずかちゃんの事も知っていた。て事は「誰かから聞いた」?」
「「!!」」
「あちゃービンゴかー」
「ああ、そうだよモブ」
「「「「!?」」」」
全員がその声に振り返る。そこにはフェイトとすずかと同い年くらいの黒髪、黒瞳の少年。
しかしその瞳は9歳とは思えない少年とは思えない目をしている。
【転生者】「小山田顕」がニヤニヤした表情でコートを着てそこに立っていた。