としひこのしりあす
りゃくしてとしあす
【世界】と【物語】
「お、お前……!?」
突然の事にヴィータが驚いている。ザフィーラも声は出さないが驚いている。
「すずかちゃん達に話は聞いてたけどやっぱり関わってたかー」
「うるせえ、話しかけてんじゃねえよ、モブのくせによ」
小山田が吐き捨てるように言う。
その態度にすずかもフェイトも文句を言おうとするが敏彦が手で止める。
「……いやー、ここまで解り易いと逆に言葉に詰まるな」
「あ?何がだよ?それよりお前何フェイト達に付き纏ってんだよ」
「付き纏ってるつもりはないんだがなー」
「フェイトだって迷惑してるだろーが!」
「わ、私は迷惑なんか……!!」
フェイトが反論しようとしたが敏彦が止める。
「——なるほど、典型的なタイプか」
「ああ?」
「フェイトちゃんに入れ知恵してジュエルシード集めに貢献して好感度上げようとして失敗したから今度は闇の書の方に関わるのか?」
「な……!?」
「あ、やっぱり俺の事無関係だと思った?」
「てめえもか……!?」
「いや、俺達はどちらかというと【トリッパー】に属するかな?」
「なに!?」
「このままだと闇の書のせいで彼女が死ぬ、だから蒐集しないといけない。
でも闇雲に蒐集を続けていけば管理局に目をつけられる。
だからまずは自分達を監視している連中から蒐集していけばいい。
後は魔力の多い連中から蒐集していくだけ——そんな感じか?」
敏彦の言葉に小山田は口を開いたり閉じたりを繰り返している。
ヴィータもザフィーラも呆然としている。
「いやー申し訳ないけど闇の書は完成しないぜ?」
「——なに?」
「『闇の書は完成しない』、これだけは言える」
「……どういう事だ?」
「ザフィーラ!?」
ザフィーラが敏彦に質問をしたのをヴィータが驚く。
「おいおい、いきなり現れて突飛も無い事を言う俺の言葉を信じるのか?」
「……少なくともそこの奴よりは信用できる」
「なんだと!?」
小山田の方を見ながら言うザフィーラに小山田が喰ってかかる。
「貴様は我等の主やシグナム達をあまりいい目で見ていない」
「……そ、それは……」
「理由はそれだけで十分だ」
「て、てめえ!たかが守護騎士のくせに!!」
「お前はただの小学生だろ」
思わず敏彦が小山田につっこむ。すると怒りの表情で敏彦を睨み返す。
「うるせえ!!モブは引っ込んでろ!!俺の言う通りにしていれば闇の書は解決するし、そうすれば俺は管理局に入ってなのはもフェイトも——」
「——それはないわね」
突如空中からの声に全員が上を向く、そこには——
「人の娘に何しようとしてるのよ、焼いて燃やして焼却するわよ!」
「落ち着いて下さいプレシア、3つとも意味同じですから」
「落ち着けってプレシア!」
「母さん!」
——フェイトの母プレシアが両脇をアルフとリニスに抑え込まれた状態で降りてきた。
「な、なんでてめえらが……!?」
プレシア達を見て小山田が驚いている。
「私だけじゃないわよ」
プレシアの言葉と同時に魔法陣が現れ、そこからクロノをはじめとしてエイミィにリンディにクライド、そして何故か酷く疲れた表情をしたグレアムが現れる。
「闇の書の守護騎士、ですね?私は時空管理局のリンディ・ハラオウンです。そして——」
リンディは鋭い表情で小山田を見る。その視線に小山田は思わず後ずさる。
「な、なんで……こんな所に……それに何でプレシアが生きてるんだ……!?」
信じられない者を見たような表情をする小山田を見てプレシアは溜め息をつく。
「甘く見るんじゃないわよ、フェイトのバルディッシュには万が一に備えて常に状況がこちらに解るように改造してあるのよ!」
「……さよならバルディッシュ!」
『<!?>』
「ちょ!?フェイト駄目だって!!」
デバイスを投げ捨てようとするフェイトをアルフが必死に止める。そんな光景を背景にリンディが一歩前に進んで小山田を向いて告げる。
「あなたが「小山田顕」くんですね?貴方にはジュエルシード、ロストロギアに関する不正使用と闇の書への関与の容疑がかかっています」
「は——?」
リンディの言葉に呆然とする小山田。
「容疑?何言ってるんだよ?俺を管理局にスカウトにきたんだろ?」
「いいえ、貴方には確かに膨大な魔力がありますが「貴方自身」に問題があります」
「……!!」
「少なくとも僕達は君を管理局にスカウトする気はない」
「ふ、ふざけんなKY!!てめえはひっこんで——」
「ふざけるのはてめえだ!!」
「!?」
今まで黙っていた敏彦が小山田の胸元を掴んで怒鳴る。
「ジュエルシードを知っていながら何の処理もせずに持ち歩いて、すずかちゃんが死ぬかもしれねえのに見捨てて逃げたのは誰だ!!」
「あ、あれは——」
「フェイトちゃんにジュエルシードとなのはちゃん達の事を教えて戦いでやばくなってすぐに逃げ出しやがって!!」
「な——」
「てめえはオリ主なんかでも神様に選ばれた人間でもねえよ、「物語」に「主人公」は居ても【世界】には「主人公」なんていない!!」
敏彦は小山田を離す、そのまま小山田は尻餅をつく。
「モブだ?上等!俺は鎌田敏彦!!美少女と美少女が大好きな、ただの学生さ!!」
はっきりと満面の笑顔で言いきる敏彦。
「「…………」」
「何でフェイト達は頬を赤らめてるんだい?」
「……こればかりは私にもわかりません」
「フェイトーーー!!!」
外野がいろいろ喚いている中、クロノが小山田の前に立つ。
「そう言う訳だ、例え君達の知る「物語」に似ていても僕達は「登場人物」じゃない」
「!?」
そう言ってデバイス『S2U』を突き付ける。
「ひっ!!?」
「僕の名前は『クロノ・ハラオウン』!!次元航行艦アースラ所属、時空管理局執務官だ!!」
クロノが大きな声で叫ぶ。
——宣言するように、目の前の、自分が「主人公」だと信じて疑わない、愚かな「道化」に向けて——