わーお
説得、そして強襲
「僕の名前は『クロノ・ハラオウン』!!次元航行艦アースラ所属、時空管理局執務官だ!!」
「…………」
言い切るクロノを後ろから眺めながらグレアムは軽く横を見る。
「クロノ、あんなに立派になって……!」
「子供は目を離すとすぐに大きくなるんだな……!」
「艦長、録画は順調ですよ」
11年前に死んだと思っていた部下が涙を流しながら子供の成長を喜んでいる——
最初に聞いた時は信じられなかったが、出会って本当に「彼」だと解ってグレアムは驚いた。
その全ての原因が——【魔法使い】
瀕死だった彼を治療し、ジュエルシードの事件ではその力の片鱗を見せつけたと言う。
我々の『魔法』とは一線を画す【魔法】——
彼女達の映像を見てその出鱈目さを実感する。
……もしかしたら彼等ならば、『闇の書』をどうにかできるのかもしれない——
そんな思いがグレアムにあった。そして今、どうやら彼の使い魔達は【魔法使い】のもとに居るらしい。
その為にここにやってきた。道中で聞いた【魔法使い】の彼等の対策に悩み、
リンディとクライドの新婚のような関係に疲れた表情になったのは仕方がないと思う。
「——それで、我等をどうする気だ?」
思考に耽っていたグレアムが顔を上げるとクロノと闇の書の守護騎士の1人、ザフィーラが話しあっていた。
「投降しろ、とは言わない。だがそちらの事情を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「…………」
「ふざけんな!お前等と話す事なんてねえよ!」
「落ち着けヴィータ、ここで戦うには分が悪すぎる」
「——だけど!!」
「主が望んだのは「家族」だ、ここで我等の1人でも帰らなければ主は悲しむ」
「っ!!」
ザフィーラの言葉にヴィータは悔しそうな表情で俯く。
「それで、そいつはどうするの?」
プレシアが怒気の入った声色で小山田を睨みながらリンディ達に尋ねる。
「ここは管理外世界ですから直接捕える事は出来ませんが魔力にリミッターをかけるなどの処置が取られると思います」
「……まあ、いいわ。これ以上余計な事をすれば【魔法使い】の反感を買うでしょうし」
「それが一番困るんだ……」
クロノがため息をつきながら答える。
……一瞬頭の片隅に冷めた笑顔のイリアが思い浮かぶが頭を振って追い出す。
「な、なんで俺が!?プレシアは犯罪者だぞ!?
フェイトはジュエルシードを盗もうとしたんだぞ!!」
「おまえ……!!」
「アルフ駄目!!」
小山田の言葉にアルフが殴りかかろうとするがフェイトがそれを止める。
「残念だがプレシア・テスタロッサの罪は裁判で既に無罪になっている」
「は!?」
「フェイトについてはジュエルシードの回収の協力者と言う事になっていて犯罪者ではない」
「ど、どういう……、!!、お前の仕業か!!」
「大体イエス!」
小山田の言葉にピースで敏彦が答える。
「悪いようにはしない、どうかついて来て欲しい。それが駄目ならそちらの指定した場所でもいい。ただリンカーコアを無作為に蒐集するのではなく、話し合いで解決策を探したいんだ」
クロノの言葉にザフィーラとヴィータが顔を見合わせる。
「……本当か?」
「ああ、出来れば急ぎたい。どうやら君達は【魔法使い】と既に接触してしまっている。彼女達が動き出す前に何としても——」
クロノが焦った表情で彼等を説得しようとする。だが——
「ザフィーラ!!ヴィータ!!」
「!!?」
突然魔法陣と共に薄緑の服を着た金髪の女性が突然その場に必死の表情で転移してくる。
「シャマル!?」
「し、シグナムが……、はやてちゃんが……!!」
「危ない!!」
「キャア!!?」
クライドが咄嗟にシャマルの手を掴み引き寄せ『盾』を展開する。
——そして轟音と共にシャマルが立っていた場所が吹き飛んだ。
「シャマル!!」
「父さん!!」
ヴィータとクロノが同時に叫ぶ。煙が晴れると2つの影が現れる。
1つはシャマルを抱き寄せた姿勢で『シールド』を展開しているクライド。
「大丈夫か!?」
「は、はい、だいじょうぶです……」
「……あら、あなた、けがはない?」
「あいたたたたた!!ち、違うんだリンディ……!!」
左腕でシャマルを抱き寄せて右腕をリンディに不思議な方向に曲げられたクライドがいた。
「ねえクロノ君……」
「言うなエイミィ、今視界をずらして入らないようにしてるんだ」
クロノは軽口を叩きながら「もう1つの影」を凝視している。
エイミィやヴィータ、ザフィーラ達は警戒はしている。
そしてクロノ達はその「姿」に「見覚え」があった。
フェイトやリンディ達はそれぞれのデバイスとバリアジャケットを展開していた。
——煙が晴れていく。
2メートルほどの身長。
体全てを覆う曲線的な漆黒の甲冑、その姿は肉食獣を彷彿とさせる。
手には何も持っていないが指先が鋭いまるで爪のような形をして鈍い光沢を放っている。
手をだらんと脱力した姿勢だがその体からは漆黒の魔力が噴き出している。
「オ……ォ……オ……!」
ガチガチと甲冑を揺らしながら声にならない声を発している。
「な、なんだこいつは!?」
「油断するな!!こいつの攻撃には『非殺傷設定』がない!!」
「な!!」
「オオオオオオオオォォォォォォォ!!!!」
漆黒の甲冑が吼え周囲の空気が震える。
「来るぞ!!」
クロノの言葉にヴィータ達とフェイト達が同時にデバイスを構える。
——戦いが——始まった。