こえー
のばされた腕、笑う少女
「アークセイバー!!」
フェイトの鎌から金色の閃光が放たれ漆黒の甲冑に直撃し、その動きを止める。
「ラケーテンハンマー!!」
そこへヴィータの巨大化したドリルのついたハンマーを振り回し叩きつける。
しばらくのせめぎ合いの後、甲冑を貫き吹き飛ばす。
6,7メートル吹き飛び地面に叩きつけられた後、
ゆっくりと【20体目】の甲冑が砂となって崩れていった——
「こ、これで最後か……?」
クロノがデバイスを杖代わりに肩で息をしながら周囲を見渡す。
「そう、みたい、ね……!」
「だ、だいじょう、ぶ……?」
「ぬ、う……」
「き、きつい……!」
「あ、お疲れ」
「…………」
「あっふ!!」
全員が地面でへばっていたり、肩で息をしている中1人だけ無事な敏彦にアルフが蹴りを入れる。
敏彦が嬉しそうな笑顔のまま転がっていった。
それをフェイトとすずかが追いかけていく。
「きみ、たちも、ぶじか……?」
「あ、ああ……」
ヴィータとザフィーラが肩で息をしながら腕を上げ無事をアピールする。
「……「奴」は?」
「わからない……やられた訳でもないみたいだけど……」
周囲を見渡したが小山田の姿が見えない。甲冑にやられたようにも攫われたような痕跡は見つけられない。
「今はしょうがない、それよりも——」
クロノがシャマルの方を見る。
「シャマルどうしたんだよ!?はやてはどうしたんだよ!?」
「そ、それが——」
シャマルがまだ混乱した表情で口を開く。いったい何が起きたのかを——
「ヴィータとザフィーラはどうしたん?」
「今ちょっと散歩に行ってますよ」
「え?こんな時間に出掛けたん?」
「はい、少し用事もあるそうです」
夕食を終えた八神家のリビングではやて、シグナム、シャマルがまったりとテレビでニュースを見ている。
シグナムも傷が癒え、日常生活なら問題なく過ごせるようになったので部屋から出て行動している。
はやてには無理をしないように言われ、家の外に出る事はまだ許されていない。
「……なあ、シャマル」
「どうしたのはやてちゃん?」
急に表情を暗くしたはやてにシャマルが心配そうに尋ねる。
「……なあ、皆『蒐集』なんかしてへんよな?」
「「!!」」
はやての一言に緊張する2人。
『シャマル、何か気付かれるような事をしたか?』
『わ、私は何も……!』
『ヴィータ達が何か感づかれるようなことしたのか?』
『な、なにかあったのかしら……?』
念話をしながらはやてとは普通に話すシャマル。
「勿論よ、あの時はやてちゃんと約束したじゃない、「『蒐集』なんかせずにはやてちゃんと一緒に居る」って」
「ほんとに……?」
「ええ、ほんとよ」
不安そうに問いかけるはやてに笑顔で応えるシャマル。しかし——
『嘘ですよ』
部屋に感情のこもっていない少女の声が響く。
「誰だ!!」
シグナムが瞬時に立ちあがり周囲を警戒する。
シャマルもデバイスを取り出して周囲を見渡す。その中ではやては一点を見つめ続ける。
「あ、あなたは……」
『ええ、お久しぶりですね『八神はやて』』
「「!?」」
声がした方を見て驚くシャマル達、そこにはテレビに映っているあの夜出会った少女、薄い笑顔を浮かべた【イリア】が映っていた。
「き、貴様は!?」
「ど、どうやって……!?」
『そんな事はどうでもいいじゃないですか』
イリアは肩をすくめながらはやて達を見ながら薄く笑う。
『さて、はやて。残念ながら「賭け」は私の勝ちです』
「ほ、ほんまに……ですか……?」
『わざわざ私が嘘をつく理由がありますか?』
「そ、れは……」
『さあ、私が「勝った」のですから代償を払って下さい』
「ま、待って——」
「主はやて!お下がりを!!」
「はやてちゃん下がって!!」
はやてが喰い下がろうとした瞬間、シャマルとシグナムがはやてを庇うように前に出てイリアの映る画面の前に立つ。
『おや、邪魔をしますか』
「黙れ!!主をどうする気だ!!」
『私はただ「約束」を守って欲しいだけなんですけどね』
「はやてちゃんに手は出させない!!」
『ああ、それはご心配なく、彼女には手を出しませんから』
「なに……?」
イリアの言葉にシグナムが怪訝そうな表情をする。
『——ですが』
そこまで言ってイリアの表情が変わる。イリアの顔から表情が消える。
『丁度いいので「2人」を【招待】しましょう』
「「「!!?」」」
その言葉と共にテレビ画面に変化が起きる。
画面が急に盛り上がり無数の【腕】が現れ、はやて達へと【手】を伸ばす。
「ひっ!?」
「主!!」
「はやてちゃん!?」
【腕】ははやてを掴んでテレビへと引き摺りこんでいく。
助けようとしたシグナムも呆気なくテレビへと引き摺りこまれる。
シャマルは2人を助けようとして——
「え!?」
2人がテレビに入ったと同時にテレビからあの夜自分達を追い回した漆黒の甲冑とよく似た甲冑が何体も湧き出てくる。
『彼女達を助けたいのなら【遠坂邸】に来なさい、ヴィータ達と一緒に居る連中に聞けば解りますよ』
その言葉を合図に甲冑達が一斉にシャマルの方を向く。
シャマルは咄嗟に窓から飛び出して走り出す。それを追うように甲冑達が群れを成してシャマルを追う。
『精々頑張りなさい、管理局も、守護騎士も——』
八神家の誰もいないリビングでテレビからイリアの声だけが響く。
『あの転生者も、全てきちんと使ってあげましょう。——「最後」——までね』