ぶわっ
彼のゆく道、少女の決意
走る、走る、走る——
何度も躓いて、こけて、泥だらけになって——なお走る。
既に服の至る所がこけたせいで破れている。
「クソ!なんだってんだくそ——!!」
ただ罵声を口にしながら走り続ける。
「なんなんだよ!?何処なんだよ!!「此処」は——!?」
半狂乱になりながら「彼」、転生者【小山田顕】は叫ぶ。答えが返って来ないのはわかっているはずなのに彼は叫び続ける。
管理局に確保されそうになった瞬間、突然現れた西洋の甲冑を着た謎の集団。
戦闘の衝撃で吹き飛ばされ、必死の思いで逃げ出した。
「ふざけんな!!何なんだよ!?ここは「リリなの」の世界なんだろ!?」
彼の叫びは周囲に響いてすぐに消える。
「なんでだよ!?俺は転生したんだろ?なら俺が「主人公」だ!!フェイトもはやてもシグナムもシャマルも皆俺のものだ!!」
欲望のままに、思った事を口にしていく。
「どうなってんだよ……!!」
彼の脳裏に映るのは自分の知る「原作」とはかけ離れた出来事の数々。
そして原作では死んでいたはずの人間が生きていた事。
そして——
「あの野郎……!!」
自分の事を【トリッパー】だと名乗った青年。
彼の横にはフェイトとすずかがいた。
「ふざけやがって……!!「此処」じゃ俺が「主人公」なんだぞ!!それをモブの分際で……!!」
呪詛のように罵詈雑言を放っていたが突如ピタリと止まり子供とは思えない笑みを浮かべる。
「……闇の書の頁を埋めるには俺の協力が必要不可欠じゃないか、魔力も持ってないあんなモブじゃ、はやても守護騎士も助けられない」
彼の雰囲気は一気に明るくなっていく。
「そうだよ、一時はあのモブに皆騙されるだろうけど最終的には俺の元に帰ってくるじゃないか!!」
そこまで言うと狂ったように笑い始める。
「見てろよあのモブ野郎、俺を馬鹿にしやがって、死ぬまで痛ぶってやる——!!」
「残念だが」
「それは出来ない」
「——あ?」
突然の声に小山田が振り返ると——
「選ばれた転生者よ」
「貴方に受け取って欲しい【もの】がある」
猫耳と尻尾を生やした双子の少女。
ギル・グレアム提督の使い魔、『リーゼアリア』と『リーゼロッテ』。
そして姉のアリアの手には豪華な装丁の本、——ロストロギア『闇の書』があった。
「……ぐっ、こ、こは……?」
意識を取り戻したシグナムが頭を振りながら周囲を見渡す。
気を失う前の最後の記憶はテレビの画面から飛び出してきた無数の腕に引きずり込まれる主であるはやてを助けようとして自分もそれに巻き込まれてしまった記憶。
「!!、そうだ!主!主はやて!!」
そこまで思い出しシグナムは一緒に巻き込まれた筈のはやてを探す
「……し、シグナム?」
「主はやて!!」
少し離れた所にひっくり返った車椅子の横で倒れていたはやてをシグナムは駆け寄って抱き起こす。
「主はやて!お怪我はありませんか!?」
「う、うん。私は大丈夫」
「よかった……!」
はやての無事を確認し、安堵するシグナム。それから念話でシャマル達と連絡を取ろうとするが——
「どうなん?」
「……申し訳ありません、シャマル達と繋がりません」
「……ここ、どこなんやろ……」
回りを見渡す2人。
見渡す限りの黄色1色の空間、
自分達のいたすぐ近くには大きなブラウン管型のテレビが6台ほど縦に積み重なっている。
何より目を引いたのが——
「こ、ここで何かあったんかな……」
「……わかりません」
まるで殺人事件が起きた現場のような人の形をチョークでなぞったような人型が積まれたブラウン管テレビを中心に円状に幾つも地面に描かれている。
「……主」
「どしたんシグナム?」
「主はあの少女と面識があるのですか?」
「…………」
気まずそうに目を逸らすはやて、それを肯定と受け取ったシグナムがはやてに話しかける。
「主とあの少女は「賭け」について話しておられました、一体あの少女と何があったのですか?」
「私、イリアさんと約束した……」
「約束、ですか?」
「そうや」
そう言ってはやてはシグナムを真っ直ぐ見つめ、話し始める。
「『闇の書』が、シグナム達が「蒐集」をしたら私がその責任を「死んでも」取る、って」