おれおまえ
騎士と鏡と否定
「誰だ!!」
「闇の書の守護騎士の将、シグナムだ」
もう1人の【シグナム】が当然のように答える。
「ふざけるな!!」
「ふざけてなどいない、私は闇の書の守護騎士だ」
「し、シグナムが2人??」
はやても目の前のもう1人の【シグナム】を見て戸惑っている。
「さあ、主はやてよ。一刻も早く『闇の書』を完成させましょう」
「え!?」
「我等に命じていただければすぐにでも『蒐集』を行います」
「何を言っている!?」
「?、貴様こそ何を言っている?」
シグナムの問いにもう1人の【シグナム】が不思議そうな顔をする。
「我等は『闇の書』の守護騎士、書の完成の為に『蒐集』を行うのは当然だろう」
「主はやてはそのような事望んでいない!!」
「——だからどうした?」
「な、に?」
「我等の目的は書と主の守護だ」
「そうだ!その主が『蒐集』はしないと——!!」
「『蒐集』しなければ主は死ぬ」
「!!」
もう1人の【シグナム】が軽く笑いながら話す。
「なら答えは簡単だ、『蒐集』して書を完成させればいい」
「だ、だが……!!」
「主が拒否した?だが「私」はあの男の口車に乗り『蒐集』を始めたじゃないか」
「そ、れは」
「主を助ける為ならば仕方のない事だ」
「そんな事無い!!」
はやてが大声を出してもう1人の【シグナム】の言葉を否定する。
「『蒐集』なんかせんでいい!!一緒に居てくれればそれでええ!!」
「それは違います主はやて、それでは『闇の書』が完成せず、主も命を落としてしまうではないですか」
「それでも、『蒐集』はいやや……!!」
「ご心配なさらずとも主の手は煩わせません、全て我等守護騎士にお任せを」
「貴様!主を無視してそれでも誇り高きベルカの騎士か!!」
「誇りだと?」
もう1人の【シグナム】が首をかしげる。
「我等は書と主を守る為だけの存在、人ではなく使い魔ですらない。誇りが何だと言うんだ」
「貴様!!」
「では聞くが誇り高き騎士は大きな魔力を持つ存在を片っ端から襲い、『蒐集』するのか?」
「!!」
「時にはたった1人を全員で襲い、『蒐集』する。誇りが何だと言うんだ、我等にはそんなもの必要ない」
「そんなものだと!!」
もう1人の【シグナム】の言葉にシグナムが激昂する。
「その通りだ、我等はただ主の命に従い書を完成させる為に『蒐集』する。時には主が『蒐集』に反対するが——」
もう1人の【シグナム】がはやてを見る、はやては不安からかシグナムの服を強く握る。
シグナムはそんなはやての手をそっと握る。
「いつまでも主の「家族ごっこ」にかまっている暇はない」
「なに……!?」
「言葉の通りだ、我等は「人」ではない。プログラムされた存在に過ぎない」
もう1人の【シグナム】が冷たく言い放つ。
「だが!!」
「主は勘違いしている、我等は「人」でない。我等は「道具」だ。
書と主の為に動き、いざとなればこの身を使って書を完成させればいい。
感情?誇り?そんなもの、所詮はプログラムされただけの「モノ」に過ぎない。
ただ『闇の書』の完成を目指せばいい。何を考える事があると言うのだ?」
「違う!!!」
シグナムが絶叫に近い声で否定する。
「我等は誇り高きベルカの騎士だ!!」
「所詮は作られたプログラム、誇りなど無価値だ」
「我等は主はやてと共に……!!」
「そうだ、その為に『蒐集』するのだ」
「だが!!主は……!!」
「管理局の放った使い魔を仕留め損ねた、奴等が攻めてくるのは時間の問題だ。ならばあの男の情報に従い大きな魔力を持つ者達を全て『蒐集』するべきだ。何を悩む?何を躊躇う?我等はプログラム、そのような「無駄」は省いて迅速に行動するべきだ」
「黙れ……!」
「何故だ?主を救う為に、主を守る為に、主と共に居る為に、——『蒐集』は必要不可欠だ」
「黙れ!!貴様に何が判る!!」
シグナムがデバイスを片手に持ち、もう1人の【シグナム】に突き付ける。
しかしもう1人の【シグナム】は動じない。
「わかるさ、【私】はお前だ」
「違う……!」
シグナムは目の前の【自分】を睨みつける。デバイスを向けられても構える事無く笑みを崩す事も無い。
「貴様は、違う……!」
「何が違うと言うのだ?何が違う?」
「貴様は……!!」
シグナムは【自分】を睨みつける。【自分】は臆することなく笑みを浮かべてシグナムを見ている。
「貴様は……「私」ではない!!!」
シグナムは【 】を「否定」した——