ばーにんーぐ
援軍
「な、なにが……?」
「『フィジカルヒール』」
「!?」
突然の事だった。【影】の背中にオレンジの魔力光の砲撃が撃ち込まれ、
全身に自分のものではない魔力が触れる。急いで移動しようとするがそれが攻撃ではないと気付く。
「大丈夫ですか?」
「お前は……?」
横には薄い茶色に何処かの民族衣装のような服を着た10歳くらいの少年が自分に回復魔法をかけている。
「ひとまず体の負傷は治ったと思いますけどどうですか?」
「あ、ああ問題無い」
「シグナム!!」
「ユーノ!!」
「「!!」」
声に反応して2人が左右に分かれて飛び退く。次の瞬間には2人がいた場所に長剣が突き刺さる。
見ると姿勢を崩したままこちらへ長剣を【影】が投擲したようだった。まだ【影】は起き上がれていない。
「シグナム!大丈夫!?」
「はっ!」
「ユーノ!」
「僕は大丈夫だよアリサさん」
はやての元にやってきたシグナムにはやてが声をかける。
横では『ユーノ』と呼ばれた少年が『アリサ』と呼ばれた金髪の少女に自分の無事を伝える。
「あの、貴方達は……?」
「はじめましてかしら、『八神はやて』さん?」
「貴様……!!」
「落ち着いて下さい、『すずか』から聞いたって言えば解るかしら?」
「え!?すずかちゃんから!?」
アリサの言葉にはやてが驚く。
「すずかちゃんの友達で、金髪、アリサ……てことは『バーニング』さん?」
「——帰るわ」
「アリサさん!?お、落ち着いて!!」
「ご、ごめんなさい!冗談なんやー!!」
回れ右をして帰ろうとするアリサにはやてとユーノがしがみつく。
「やかましい!いきなり人を『バーニング』呼ばわりとかすずかから何を聞いたのよ!?」
「え?「頼もしい友人」って言ってたで?」
「なんでそれでバーニングになるのよ!?」
「アリサさん!今はそれどころじゃ——」
「今突っ込まずにいつ突っ込むのよーー!!」
アリサが黄色い空間で吼える。
「くっくっく……!」
「シグナム?」
突然肩を震わしながら小さく笑うシグナムにはやてが驚く。
そこには先ほどまでの必死さではなく何か力の抜けた様子のシグナムがいた。
「——申し訳ありません、あまりに緊張感のないやりとりだったので」
「……次は無いわよ」
「ありがとうございますー」
シグナムに笑われてアリサが少し恥ずかしそうにしながら縋りついてくるはやてをジト目で睨む。
「主の友人の知り合いか?……何故ここに?」
「ええ、ちょっと【知り合い】の家に行ったら玄関に「テレビ」が置いてあって触れたらここに来たってわけです」
「……なるほど、あの【イリア】と名乗った少女の仕業か」
「あー、やっぱり【イリア】さんの仕業かー」
シグナムの言葉にアリサががっくりと項垂れる。ユーノは若干遠い目になる。
「知っているのか?」
「ええ、今は詳しい説明は省くけど一番相手にしたくない人ですよ」
「それほどか……」
「ええ、だけど今は——」
起き上がろうとしている【影】に視線を向ける。
アリサが右手に赤いビー玉のような、デバイス『レイジングハート』を持つ。
シグナムがレヴァンティンを構える。
ユーノがはやてをお姫様抱っこでその場を離れる、アリサが鋭い横目でその光景を見つめていく。
「どうかしたのか?」
「……いえ、別に」
「そうか」
「……そうです」
2人の会話が終わると同時に【影】の長槍がアリサ達の方向へ突き出される。
シグナムは横へ避けながら【影】へ肉薄する。
アリサは後ろに逃げながらレイジングハートに話しかける。
「レイジングハート!」
『<セットアップ!>』
レイジングハートが輝き、アリサの服装が変わる。
体、腕など要所のみを守る薄い赤の混じったオレンジ色の軽装、
大人の体さえ隠すほどの大きさの盾が3枚アリサの体の周囲を回っている。
手には剣と銃を混ぜたような武器。
『<マスター、カウントを開始します>』
「よろしく」
デバイスの表面に時間が表示され減り始める。
「あたしは接近戦は苦手なんだけど……」
「ならばそちらは私に任せてもらおう」
「なら盾の方はあたしがどうにかします」
「——わかった」
一拍の間を置いてシグナムが爆発的な加速で【影】に肉薄する。
【どうした?諦めたか?】
「——馬鹿にするなよ」
【なんだと?】
「……気負い過ぎては視野が狭くなる……か」
シグナムが口の端だけを吊り上げるような笑みを浮かべる。
「我は主はやての騎士『シグナム』——参る!!」