かげのたーん
一影倒してまた一影
——巨体が崩れ落ちる。
鎧の至る所に亀裂が走り、煙が上がっている。
盾は砕け、武器も同じように砕けて原型を保っていない。
轟音と共に地面に【影】が倒れる。
シグナムもユーノもはやてもアリサも固唾を飲んで注視する。
やがて——【影】はゆっくりとその姿を崩して消滅した。
「なんとかなったか……」
シグナムが大きく息を吐いて騎士甲冑を解除する。
「シグナムー!!」
「主」
遠くからはやてがユーノとアリサに肩を貸してもらってやってくる。
「シグナム凄かったなあー!!」
「いえ、私だけでは無理だったでしょう。そこの魔導師が奴の盾を砕いてくれなければこちらの一撃を入れるのは無理だったのですから」
「ほえー、アリサちゃん凄いんやね」
「凄くないわよ、あたしは魔力の量とか考えた結果そういう戦い方になっただけだから」
「それでもアリサさんは凄いよ」
「……ありがと」
「あれ?私ら邪魔?」
「主、思っても口に出す事ではないかと」
はやての言葉にシグナムが思わず突っ込んだ。
「【魔法使い】……か」
「そう、それが貴方達が攻撃した人の正体よ」
歩きながらアリサはシグナムの問いに答える。
シグナムの話を聞いてアリサとしては今すぐにでも逃げ出したかった。
【なのは】ならまだいい、事情を話せば理解してくれる。
【時臣】もまだいい、彼は余程自分に面倒が降りかからないのであれば一度くらいは見逃してくれる。
だが——【イリア】は違う。
一度「敵」と認識されれば辿り着く結果は「1つ」しかない。
例外は彼女の【兄】が何か言わない限りは変わらない。
そして今現在も、恐らく【イリア】が作りだしただろうこの【空間】は維持されている。
つまりは「【時臣】から【イリア】へ行動を止められていない」と言う事になる。
「情報が足りないわね……」
「そうか……」
アリサの言葉にシグナムが悲痛な表情をする。
話しを聞くかぎりだとどう転んでも彼女達の結末は決まってしまっている。
——だが、腑に落ちない点も幾つかある。
「あの【イリア】さんがこんな遠回しに仕掛けてくるのが変だと思ってね」
「これで遠回しなのか……!!」
「私の知ってる『魔法』と違うわー」
「大丈夫だよ、ほとんどの『魔導師』もきっと同じ事言うから」
はやての言葉に若干遠い目になりながらユーノが答える。
アリサは【魔法】を知ってから『魔法』を知ったのでそこまでの衝撃はなかった。
だがクロノやプレシア達の反応を見る限りはやて達の反応は仕方が無い。
……誰もが【魔法】よりも【魔法使い】に四苦八苦している事はアリサは口に出さない。
「ところで何処を目指しているんだ?」
「さっきレイジングハートに調べて貰ったらこの先に小さいけど魔力反応があるって」
「まさか……」
「【イリア】さんじゃないみたい、まだ誰かは解らないけど行く他に選択肢が無いからね」
「じゃあしょうがないなー」
「そういうこと」
シグナムに抱きかかえられたはやてが頷く。
しばらく他愛ない会話をしながら歩いていると突然周囲の景色が変わる。
「な、なに!?」
「アリサさん!!」
「なんだ!?」
「え、え!?」
全員が一斉に固まって周囲を見渡す。
何の変哲もない一軒家のリビングらしき場所。
「うそ……」
「馬鹿な、ここは……」
はやてとシグナムが驚いている。
「どうしたの?」
「ここは……私の家や」
「間違いありませんか?」
「ああ、間違いない」
アリサとユーノの言葉に驚きながらも2人は答える。
「そうやで、ここは「私」の家や」
部屋の奥から声と共に車輪の回る音が聞こえてくる。
「ま、まさか……!?」
シグナムが信じられないといった表情で前を見つめる。
「何を驚いてるんやシグナム、ここは「私」の家なんやから「私」がいるのは当然やろ?」
やがて声の主が姿を現す。それは——
「わ、たし——?」
「そうや、この家の主【八神はやて】や」
そう言って【八神はやて】は歪んだ笑みを浮かべてシグナムの腕の中で驚くはやて達を出迎えた。