くろまく
見守る者と企む者
「せ、先生!?なんでここに——!?え!?でもその胸は、確かに、え!?」
「落ち着いて下さい主」
混乱しているはやてをシグナムが宥める。
「どういう事?——あなた、もしかして【魔法使い】の関係者?」
「どちらかと問われれば私は『闇の書』の関係者だ」
「なんだと!?」
先生の言葉にシグナムが反応する。
「どういう事だ!?我等とどんな関わりがあるというのだ!!」
「——こういう関わりだ」
そう言うと髪を結んでいたリボンを外す、するとシグナムの表情が一瞬で驚愕に染まる。
「お前は——管制人格!?」
「ええ!?」
——「先生」、
『闇の書』の管制人格はシグナムに抱きかかえられたはやての前に膝をついて臣下の礼を取る。
「今まで黙っていて申し訳ありませんでした、我が主」
「えええええーー!?」
周囲にはやての絶叫が響き渡った。
「……はー、そうだったんやー」
「はい、本来なら最初にお会いした時に全て話せればよかったのですが口止めされていたので……」
「確かに今考えれば私、「先生」の名前、一度も聞いた事無かったわ」
「私達も何度か顔を合わせた事があったが気付かなかったのは——」
「このリボンのせいだ、これを着けると【認識をずらして】私だと認識できなくなるのと【周囲への違和感を無くす】そうだ」
「相変わらずぶっ飛んだ物作るのね……」
「ははは……」
アリサが溜め息をつき、ユーノが乾いた笑いをする。
「それじゃあ今『闇の書』は……?」
「解らない、すでに私は完全に闇の書と切り離されている。今の私は僅かな力しか残っていないただの融合騎に過ぎない」
「そう、か……」
シグナムが僅かに落胆と同時に安堵の顔を見せる。
「でもどうして今になって急に?」
「……」
「管制人格さん?」
ユーノの質問に意を決したように管制人格が口を開く。
「——今回のこの一連の出来事、全ては【魔法使い】の1人の独断で起きています」
「え!?」
「全ては『闇の書』の対処に関する考えから始まりました」
管制人格が語り出す。彼女の知る限りの【魔法使い】達の動きを——
「最初に私が『闇の書』から切り離された影響を彼等は心配していました。ですがこれといった大きな影響はなく、むしろ私と防衛プログラムの一部が完全に喪失したことで『闇の書』の主への浸食が通常よりも小さくなっていました」
「え?そうなんや」
「はい、私と一部のプログラムが現存していれば主への影響ははるかに大きかったと思います」
「そうだったんや……」
「何故医者に扮して主に?」
「……私が無理を言って頼んだのだ、「主への『闇の書』の影響が自分の目で確認したい」と」
「そうだったんですか……」
申し訳なさそうな管制人格にはやてが手を伸ばして管制人格の頭を撫でる。
「主……?」
「ありがとなー、ずっと私の事見守ってくれてたんやなー」
「!!、いえ……!私は……!」
「ううん、病院でいつも私の事きちんと見とってくれたやんか」
「……主」
「ありがとう」
管制人格はただ頭を下げて肩を震わせている。
はやてはその頭を撫でている。
シグナムはただ優しい表情でそれを見ていた。
「管制人格さん、聞いても良いですか?」
「ああ」
落ち着いた頃を見て管制人格にアリサが質問する。
「独断で【魔法使い】が行動してるってどういう事ですか?」
「そのままの意味だ、【彼女】は【彼】の「案」を無視して行動している」
「え!?まさかイリアさんが先生を無視して!?」
「——そうだ」
信じられない言葉にアリサが驚く。ユーノも隣で大きく驚いている。
「そんなに驚く事なのか?」
シグナムは【魔法使い】達の事を知らないのでアリサ達に尋ねる。
「驚きね、イリアさんが先生の考えを無視してるのもそうだけど、先生に気付かれずに行動してるのも驚きね」
「それはしょうがない、【彼】は——」
【そこまでにしてもらいましょうか】
声が響く、絶対的に敵意を滲ませて——
「もう、気付かれたか……!!」
「え!?え!?今度は何や!?」
「今言ってた原因の【魔法使い】に察知されたのよ!!」
「主!じっとしていて下さい!!」
「う、うん!」
【——ああ、少し目を離した隙に随分と関係ないのが混じっていますね】
空間に「何か」の密度が上がっていく。
「イリアさん!!何を考えているんですか!!」
【————】
アリサの問いかけにイリアは答えない。代わりに——
「「「「「な!?」」」」」
ガラスの砕けるような音、突然の浮遊感。
空間が砕けアリサ達は何も無い暗闇へ吸い込まれた。