むそうしたい
現れた【魔法使い】
「ああああああああああ!?」
「アリサさん!!」
何も無い暗闇をただ、落ちる。
「おおお!!結構スピード出とるーー!!」
「……結構落ち着いていらっしゃいますね」
「烈火の将、主は私に任せてくれ」
「いや、ここは将たる私が——」
「いや、ここは管制人格たる私が——」
「「……」」
「ふ、2人とも、落ち着きいや!管制人格さん、お願い!」
「は!お任せ下さい主!」
「……くっ!」
「……あの3人元気ね」
「そうだね」
「でも……」
落ちながらもワイワイ騒いでいるはやて達を見ながらアリサが呟く。
「——このまま無事に終わるとは思えないわ」
「光や!」
「気をつけろ!」
「ええ!」
「はい!」
下に光が見える。その光はあっという間に近づき視界を埋め尽くした。
「……え?」
それは誰の声だったか。眩い光が消えると彼女達の視界に入ったのは——
見渡す限り何も無い荒野、
空はどんよりと雲に覆われ太陽も青い空は見えない。
そして——
「……これは思ってたよりもやばいわ」
アリサの呟きが空しく響く。
誰も周囲の光景に言葉を返す事も出来ない。
【漆黒の甲冑】、シグナム達を追いこんだ驚異の存在。
それが「見渡す限りの荒野にひしめいていた」
「おや、もう少し言葉で驚きを表現して欲しかったんですが」
「イリアさん!」
「イリア殿!」
その先頭にイリアはいつも通りの表情で立っていた。
「——何が目的なんですか?」
「随分と単刀直入ですね」
「イリアさんに駆け引きで勝てるとは思っていないので」
周囲を甲冑に囲まれた中、アリサがイリアに問いかける。
「いいでしょう、では私も率直に答えましょう」
イリアは頷き——
「「私」の目的は『闇の書』の、いえ『夜天の魔導書』の完全破壊です」
あっさりとその目的を明らかにした。
「『夜天の魔導書』?」
「ええ、本来の『闇の書』の名前です。『闇の書』とは歴代の『夜天の魔導書』の持ち主たちが好き勝手に弄った果ての姿です」
「そ、そんな……それじゃあ……」
「『闇の書』が主を殺す、破壊を撒き散らす。それは本来の形が歪んだ果ての事。真の『夜天の魔導書』とは主と共に世界を巡り『魔法』を研究する、ただそれだけのものでした」
「では、我等は……?」
「主と書の守護という任務は変わっていませんよ、ただそこにリンカーコアの蒐集が追加されただけですよ」
事も無げにイリアは告げる。そこにアリサがさらに質問をする。
「先生達ならその壊れてしまった『夜天の魔導書』を直せるんですか?」
——核心たる質問を——
「できますよ」
簡単に、【魔法使い】であるイリアは肯定した。
「な……!?」
「ですが、しません」
「何故だ!?」
「何故?当然でしょう、管理局にも民間にも恨まれ、憎まれ、疎まれているそんな面倒極まりない「モノ」に手を出さねばならないのですか?」
「貴様!!」
「よせ、烈火の将!!」
「だが——」
「——でも、「先生」は違ったんですね」
「————」
アリサの言葉に初めてイリアの表情が変わる。
それは言い表すなら「嫉妬」と言う言葉が合うだろう。
「「先生」は『夜天の魔導書』をなんとかしようとした。でも、イリアさんは反対だった」
「そうだ、だから彼女は【彼】に黙ってこの「チャンス」に全てを終わらせようとしている」
アリサの言葉を引き継いで管制人格が話す。
「チャンス?」
「ああ、【彼】は今——」
「……そこまでです、管制人格」
「!!」
管制人格の言葉をイリアが殺気を出しながら遮る。
それに即座にシグナムがレヴァンティンを構える。ユーノはアリサを庇いながら前に出る。
アリサもレイジングハートを構えながらイリアに話しかける。
「なんでですか!?先生は『夜天の魔導書』を直そうとしてるんですよね!?だったら——」
「——だからだ」
「え?」
イリアの周囲に漆黒の【魔力】が吹き荒れる。
周囲にいる甲冑を何体か一瞬で分解しながらイリアははやて達を殺気の籠った黒い瞳で見る。
「『夜天の魔導書』はこの世から抹消する。例え兄さんに何を言われてもだ……!!」