じかいしゅうごう
迫る刃と集う者たち
「どうしてそこまで……?」
「アリサ、ここ最近兄さんと会いましたか?」
「え?」
イリアからの突然問いに戸惑うアリサ。少し考えた後、ハッとした表情になる。
「そういえば、ここ2,3カ月会って無い……?」
「そうです、何故だと思いますか?」
「何故って、アリシアさんの為に……!?」
そこまで言ってアリサははやて達の方を見る。
「アリシアの【体】は半年前に土台を作ってゆっくり出来あがるのを待つだけで大変なのは【入れる】時だけです」
「もしかして……!?」
「ええ、そうです。ここ3カ月、兄さんはずっと『夜天の魔導書』関係で動き回っていたんですよ」
イリアははやて達を見ながら告げた。
「え!?わ、私達の為に!?」
「——会った事も無い人の為に、ただの壊れたプログラムの願いを聞き入れて寝る時間を削って作業を行って……」
イリアが拳を握る。手は真っ白になって今にも壊れてしまいそうなほどである。
「プログラムの為に道具を作って書の主に接触できるように図り、いろいろとした準備を整えていると言うのに——」
シグナムを睨みつける。
「あんな道化の言葉に踊らされて『蒐集』を行うとは……!!」
「あ……」
「あの時決意した。お前達は兄さんの「障害」でしかないと、なら——兄さんの「障害」は私が全て壊してやる」
イリアの言葉に反応して甲冑達が徐々に包囲の輪を狭めていく。
「待って下さい!!」
はやてがイリアに叫ぶ。イリアは面倒臭そうに視線を向ける。
「なんですか」
「だったら!その【先生】さんと話をさせて下さい!!きちんと話して——」
「その必要はありません」
はやての言葉をイリアは切り捨てる。
「兄さんへは全て事後報告となります、
「闇の書が予想外のエラーによって暴走、私の力ではどうにもならずやむを得ず全て破壊した」と」
「なに……!?」
「で、でも僕達が事情を知っています!」
「ええ、ですから貴方達は「人道的配慮」から「この件」の記憶を【消します】」
「「「「「!!」」」」」
淡々と告げるイリアにアリサ達の背筋は凍る。
「多少記憶が曖昧になりますが、人はパニックにならないよう辻褄を合せようとします。
管制人格が病院に潜り込んでいる時も誰も何も言わなかったでしょう?」
「あ……!」
「明らかに「異物」が紛れ込んでいるのに「違和感が無い」、
人は混乱を収める為に自分自身に「言い聞かせる」。
「彼女は昔からいる医者である」と、
貴方も彼女の名前を知らないのにある日突然現れたのに疑問に思わない」
「そう、いえば……」
「そういう事です、また1人になりますが問題ありません。「憶えていない」のですから安心しなさい。
友達のすずかはいなくなりませんよ」
「い、いや……!!」
「待って下さい!!」
アリサがはやての前に出てイリアの視線から庇う。
「——いい加減そこからどいてもらえますか?流石に貴方達に危害を加えるとなのはが煩いですから」
「なのははどこですか?」
「——」
「なのははこの事を知っているんですか?」
「——」
イリアは答えない。だが
「彼女はこの事は知らない」
「管制人格!!!」
「【彼】には感謝してもしきれない……、私の中の暴走した防衛プログラムを除去したばかりか融合騎としての力を残したまま『闇の書』から切り離してくれた。おかげで主への負担が大きく減った。そればかりか私の無茶な要求にも応えてくれた……」
「ならば——!!」
「その【彼】の考えをお前は解っていない」
「——なに」
「確かに将は『蒐集』をしてしまった、それは許されざる事だ。
だが忘れたか?【彼】はその行動を「家族思い」だと評価した」
「……」
「【彼】にこれ以上ない負担をかけているのは理解している。その【彼】の行動全てをお前は無にしようとしている」
「……」
「お前は【彼】が最も大事にしている「家族」というものを——」
「だまれ」
一瞬で空気が圧迫感を持って全員を襲う。
立っているのがやっと、シグナムと管制人格は何とか耐えているがはやて達は苦しそうにしている。
「もう、いい、ただのプログラム風情が随分と——」
「い、イリアさん……!」
「安心しなさい、壊すのはプログラムだけ、貴方達は少し記憶を失ってもらうだけです」
「い、いやや……!!」
はやてが管制人格の服を握りしめながら首を横に振る。
「主……」
「お、お願いします……!私から「家族」を奪わんで……!!」
「もうすぐ他の守護騎士もここへ来ますが、彼女達の事もすぐに忘れます」
「い、いや……!!」
「大人しく——受け入れなさい」
「あ、い、あ……」
はやてが涙を流しながら言葉にならない声を出しながらイリアに懇願するが、
彼女は表情を変える事無くはやて達を守るように立ち塞がるシグナムに近づいていく。
アリサ達は動く事が出来ずにいる。
管制人格ははやて庇うようにを抱きしめている。
「……主には手を出さないのだな?」
「記憶は消しますが、直接危害は加えません」
「……わかった」
「シグナム!?」
シグナムがレヴァンティンを下ろし目を瞑る。
イリアが手に黒一色の戦斧を取り出し、ゆっくり振り上げる。
「やめてええええええええええ!!!」
はやてが手を伸ばす。
イリアの戦斧が真上にまで持ち上げられ、
「『エターナルコフィン』!!!」
周囲が絶対零度の氷に覆われる。
「そこまでだ!イリアさん!!」
少年の声が空から響いた。