がんば
開戦、前
「……え?」
呆然としたままのはやての口から思わず声が出た。
迫り来る漆黒の甲冑の群れ、視界を埋め尽くしていた「黒」が一瞬で「白」に変わる。
一気に周囲の温度が下がっていく、はやての口からも白い息が漏れる。
「大丈夫か?君が『八神はやて』だね?」
「あ、はい」
空から黒い服を着て2つの杖らしき物を持ったはやてよりも少し年上の少年が降りてくる。
「あ、あなたは?」
「僕の名前は『クロノ・ハラオウン』、時空管理局の執務官だ」
その言葉にはやては驚く。
「か、管理局……?」
「勘違いしないで欲しい、「僕達」は君を「助けに」来たんだ」
「た、助けに、ですか?」
「滅ぼしに来た、の間違いでは?」
「っ!?」
「……想像はしてたけど、流石に実際に防がれるとショックが大きいな……」
「それが【魔法使い】です」
氷の一部が砕け何事も無かったかのようにイリアが姿を現す。
「思っていたよりも早かったですね」
「ああ、何としても貴方を止める為にね」
「1人ですか?」
「——まさか」
その言葉と共に空から複数の人影が現れる。
プレシア、リンディを筆頭にクライド、グレアムにエイミィ。
使い魔であるアルフとリニス。
フェイトと周囲に蝙蝠を纏わせながらすずかも一緒に降りてくる。——真ん中に敏彦を挟んで。
そして——
「はやて!!」
「主!!」
「はやてちゃん!!」
「皆!!」
ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。『闇の書』の守護騎士が全員集まった。
「ってうお!?何で管制人格がいるんだ!?」
「ええ!?闇の書完成したの!?」
「ぬう……!?」
「……将」
「……落ち着け皆今はそれどころではない」
「フェイト!あれほどアレに触るなって言ったのに!」
「母さん!」
「すずか!」
「アリサちゃん!大丈夫!?」
「……なんか周りにすげえ一杯さっきの奴等がいるんだけど……」
「気のせいですアルフ、私には氷しか見えません」
「現実を見ろよ!!」
「これが、【魔法使い】の力なのか……!」
「はあ……」
それぞれが一気に喋り出す中、イリアとクロノ達が相対していた。
「ヤッホーイリアちゃん」
「……どうも」
「やっぱり嫌な予感が当たったなー」
「……そうですか」
「——少なくとも時臣はイリアちゃんの事信じてたぜ?」
「——!」
敏彦の言葉にイリアが大きく肩を震わす。
「どういう事ですか?」
「イリアちゃんは俺達の「計画」を途中で変更したのさ」
「——アレンジと言って下さい」
クロノの問いに敏彦が答えイリアが即座に反論する。
「当初の予定では
「『闇の書』か『管理局』に動きがあれば書の主に事情を説明して協力する」
って話だったじゃん。原型が無いんだけど?」
「ええ、協力するつもりだったのですが問答無用で攻撃を仕掛けられました。それ故に計画を変更する事になりました」
「イリアちゃんなら多少の攻撃くらい、どうって事無いんじゃないの?」
「——いきなり攻撃を仕掛けてくる相手と手を結ぶなど危険極まりない事です」
「ふーん、……ところで時臣は今どこに?」
「——兄は今、疲れて休んでいます」
「【起きないように細工】してまで?」
「!!」
「なんだって!?」
敏彦の言葉にイリアの目が見開かれる。
敏彦の横にいるクロノも驚く。
「……いくら疲れているとはいえあいつがこの騒ぎで現れないのはおかしいなとは思ってたんだよ。
ちょっとした賭けだったけどビンゴだったみたいだな」
「なんで、そこまでして……?」
「イリアちゃんは『闇の書』に関わる事を最後まで反対してたからなー」
「だからって——」
「私は『闇の書』に関わるのは反対でした。あんな面倒事しか無いようなモノに関わるべきではないと」
「てめえ!!」
「よせ!ヴィータ!」
「何で止めるんだよ!?」
「……我等が束になっても勝てる保証はない」
「!?」
シグナムの言葉にシャマルが頷き、ヴィータとザフィーラは警戒を濃くする。
リンディが前に出てイリアを説得しようとする。
「イリアさん、今からでも敏彦君や時臣君の「計画」に協力してはいただけませんか?」
「断ります、『それ』は厄しか呼び寄せない、ならばここで全て破壊します」
「そんな……!!」
「……おーけー、わかった」
「敏彦君!?」
イリアの言葉に敏彦が頷いたのを見てリンディが驚く。
「だったら「勝負」しようぜイリアちゃん?」
「——「勝負」、ですか」
「ああ、イリアちゃんの【全力全開】を俺達が防ぎきれたら勝ち、イリアちゃんは俺達に協力する。
イリアちゃんが勝ったら『闇の書』は満足いくまでぶっ壊してくれていいぜ」
「——いいでしょう」
「「「「待てえええええええええええ!!!」」」」
敏彦の提案に一斉に後ろから待ったがかかった。
「あんた馬鹿!?あんた馬鹿なの!?」
「無理だよ!死んじまうよ!!」
「いいわね、あなただけで蒸発してもらえば……!!」
「……母さん?」
「む、無茶ですよ敏彦さん!」
「ああ、短い使い魔人生でした……」
皆が口々に反対する中、クロノは何も言わずに黙っている。
「クロノ君も何か言ってよー!」
「……敏彦さん」
「なんだい?」
「「勝てる」んですね?」
「流石にイリアちゃんの全力はご褒美にはならないなー」
「……わかりました」
「クロノ!?」
クロノが一歩前に出てイリアの正面に立ち、デバイスをイリアに突き付ける。
「イリアさん、「勝負」です!!」
【魔法使い】と『魔導師』の戦いが、再び始まろうとしている。