ついにめいめい
開戦、弐
「く、う……!」
「——耐えますね」
「耐えるのは得意なんで、す……!」
イリアの言葉にはやては苦悶の表情をしながらも軽口で答える。
未だ【咆哮】は続いており、はやてと管制人格のユニゾン化で出力が上がったとはいえ『氷壁』は徐々に削り取られていく。
「が、頑張りなさいよ……ユーノ!」
「はい!!」
「ご、ごめんクロノ君……私もう限界……!」
「休んでろエイミィ!」
エイミィが限界を訴え膝をつく。
クロノははやての魔力を分けながら後ろを見る。
そこには全身に怪我を負った敏彦がプレシアに治療されている。
「ふ、フェイトちゃんがよかっ、たなー」
「少し黙ってなさい、流石に死ぬわよ?」
「そ、それ、はこまるぜー」
「だったら黙って休んでなさい」
とりあえず無事だと解ってほっと一息つきながら横を見る。そこには——
「「……!!」」
イリアを必死の形相で睨みつけているフェイトとすずかがいる。
飛び出しそうになったのを何とか押えこんでいるが、この均衡が崩れれば今にも飛び出して行きそうである。
「な、なんで——そこまで出来るんですか!?」
はやてがイリアに大声で尋ねる。
「友達じゃ、ないんですか!?」
「兄の友人であって私の友人ではありません」
「そんな!?」
「私を咎めるのは心外ですね、あなたの守護騎士が余計な事をしなければこんな事にはならなかったんですよ?」
「!!」
「今こうしているのも、こうなってしまっているのも、彼等が巻き込まれてしまっているのも、貴女達のせいなのですよ」
イリアの言葉がはやてに突き刺さる。
「わ、私——」
「それは、違う……!」
クロノが1歩前に進みはやての横に並ぶ。
「今僕達がここに居るのは巻き込まれたからじゃない。
僕達が「ここ」にいる。そう決めたからです!!」
「【魔法使い】と事を構えればただでは済まない、そう結論づけたのは貴方達では?」
「ええ、そうです」
「私達にとって貴方達は「味方」ではない、理解していたのでは?」
「ええ」
「それでも、彼女達の「味方」をすると?」
「「味方」じゃありません」
「——」
「言ったでしょう?僕達は「助けに」来たんだと——!」
「——助け、ですか」
「ええ、確かに彼女達は罪を犯しました。それは償わなければならない。
だけどいきなり全てを奪う事じゃない!!」
「しかしそこの守護騎士達は「奪う」事を選択した。なら「奪われても」文句は言えないでしょう?」
「違う!!世界は——いつだって……こんなことはずじゃないことばっかりだ!!」
クロノは吼えるように叫んだ。
「八神はやては「家族」が欲しかった……!!守護騎士達は「主」を死なせたくなかった……!!
その為の行動はもっと良い選択があったかもしれない!!
だけど誰もが最善の選択を選べるわけじゃない!!
例え貴女を敵に回そうと!!僕は彼女を助ける!!」
「その通りよ【魔法使い】」
後ろにいたプレシアがイリアに話しかける。
「私は『アリシア』の為にあらゆる手を模索した。——その結果は貴女も知ってるでしょう?」
プレシアは今もはやてに魔力を供給するフェイトを見る。
「それで——私にどうしろと?」
「別に、私に貴女をどうこう言う資格はないわ、だけど——【魔法使い】だって「万能」じゃないわ」
「——!?」
次の瞬間『氷のサイズ』が一気に膨れ上がる。
「『闇の書』——!」
はやてが杖と一緒に『闇の書』を開き、掲げている。
『闇の書』は発光して次々と頁がめくれていく。
「『闇の書』を使って出力を上げる、ですか」
「ええ、僕達だけじゃ貴女には、【魔法使い】には勝てない。使える物は使わせてもらいます!」
「……構いませんよ。ですが、いつまでもちますか?」
『闇の書』はかなりの勢いでページを消費していく。
「まずいわ、このままじゃ頁が全部消費されちゃう……!」
「ど、どないすんやシャマル!?」
「……」
はやての問いかけにシャマルが困った表情をする。
「大した力も残っていない融合騎ではそろそろ限界では?」
「そんな事、あらへん——!!」
『<主、いきなりのユニゾンでこれ以上の魔法行使は危険です!!>』
「だ、大丈夫や……これでも、『闇の書』の主やで……!任しとき!」
『<主……>』
「それにな……イリアさん」
「なんですか」
「リイン……リンフォースや」
「!!」
はやての言葉にイリアが反応する。
「融合騎やない……!彼女の名前は『リンフォース』や!!」
『<リイン……フォース……>』
「そうやで、「祝福の風」って意味なんやで?
『闇の書』の管制人格やない。私の新しい「家族」や!!行くで!!」
『<……はい!!>』
はやてが杖と本を前に突き出す。2つの輝きが増し、『氷壁』が再び【咆哮】と拮抗した。