けっちゃく
開戦、決
「……みんな」
シャマルがシグナム達を見る。シグナム達は何かを理解したのか決意をした表情で頷く。
「——はやてちゃん」
「な、なんやシャマル?」
「いい方法があるわ」
「ほ、ほんまか!?」
「ええ、多分何とかなるわ」
「ほ、ほんなら急いでそれを!!」
「——わかったわ」
必死に前を向いたままイリアの【咆哮】の対抗するはやてがシャマルの提案に頷く。
「『クーラルヴィント』」
シャマルは慣れた動作で振り子状のデバイスを起動する。
振り子状のデバイスは空中で円を作る。
「『旅の鏡』」
そう言うと鏡のような面になった円の中へ腕を入れ、
——腕はシグナムの胸から輝く『リンカーコア』を持って現れた。
「——え」
それは誰の呟きだったのか、シャマルはシグナムの胸から腕を引き抜くと再び腕を鏡状の面へ入れる。
今度はザフィーラの胸から『リンカーコア』を抜きだす。
そして——流れるような動作でヴィータからも『リンカーコア』を取り出した。
「シャマル!!!」
はやての絶叫が響く。
「はやてちゃん、前に集中して」
「き、きみは何を!?」
横にいたクロノも愕然としている。
「……主はやて、我等の『リンカーコア』を『蒐集』して使って下さい」
「シグナム!?」
『リンカーコア』を抜かれたシグナム達は既に足から崩壊が始まっていた。
「何を考えとんや!!」
「落ち着けってはやて」
「落ち着けって……なんで……なんで皆はそんなに落ち着いとるんや!!」
「我等は主を守護する騎士」
「ならば」
「これが唯一の方法なの」
「そういう事だよ」
——そう言ってシャマルは自分の胸に腕を突き入れ、『リンカーコア』を抜きだす。
『<何を考えている!?>』
「管制人格、いやリインフォースよ」
「主を頼む」
「いやや!!今すぐ『リンカーコア』を戻すんや!!これは命令や!!」
「残念ながらそれは聞けません我が主」
もう胸下まで消えているザフィーラがはっきりと告げる。
「ここまで崩壊してしまっては手遅れです」
「ま、待て!!僕達の『リンカーコア』を使えばいいだろう!!」
クロノの言葉にシャマルが首を横に振る。
「いいえ、今の状況を考えればあなた達の『リンカーコア』を蒐集するより私達の方が助かる可能性が高いわ」
「それに我等は『闇の書』より生み出された存在、相性が良い」
「我等の力を持って【魔法使い】に対抗する」
「そういう事だ、悪いけどはやての事頼んだぜ」
「シャマル、ザフィーラ、シグナム、ヴィータ……!!!」
「それに——」
ゆっくりと消滅しながらイリアの方を見るシャマルが僅かに口を動かす。
それを見て僅かに眉を動かすイリア。
泣きながらもイリアの攻撃を防ぎ続けるはやてに消えながらも守護騎士達が近づいていく。
「後は頼んだ、リインフォース」
「すっげえ楽しかったぜはやて」
「共に在れず申し訳ありません、どうかご無事で」
「——ねえ、はやてちゃん」
次々と消えていく守護騎士。最後になったシャマルがはやての頭を優しく撫でながら話しかける。
「最初に「家族になって」って言われた時凄い驚いたのよ?
今までの主でそんな事言ったのはやてちゃんが初めてだったから」
「……っ!!!」
泣きじゃくりながらも『魔法』を行使し続けるはやて。魔導師達もただ成り行きを見守っている。
「ちょっとの間だったけど凄く暖かった。長い長い間で——一番楽しかった」
「しゃ、ま、る……!!」
「——頑張って、私達の小さくて優しい「主」。リインフォース、お願いね?」
『<任せろ……!!主は、必ず……!!>』
「ああ、よか——」
最後まで言葉は続く事無く、シャマルは消えた。
「……っ……っ」
【咆哮】と『氷壁』がぶつかり合う音とはやての僅かな嗚咽の響く中、
はやては涙を流しながら顔を上げる。
『<……主>』
「……うん、わかっとる」
はやてが視線を向ける先には空中に4つの輝く『リンカーコア』が浮いている。
手を伸ばす。
本を前へ。
『<——主>』
「……うん」
はやては頷き、ただ一言呟く。
「『『蒐集』』」
感情の無い機械的な音声とはやての声が同時に放たれ、
『闇の書』が『リンカーコア』を取りこんでいく。
それと同時に白紙のページが次々埋まっていく。
「……「みんな」、後少しだけ私に力貸してくれへんか?」
「——ああ、任せてくれ」
クロノの言葉と共に全員がはやてに『魔力』を集める。
「決着をつける気ですか」
「——はい」
イリアの言葉に涙をぬぐったはやてが頷く。
「——いいでしょう」
その言葉を合図に両者が一気に魔力をつぎ込む。
地面が抉れ、風が暴風となり、空が歪む。
「ぐ、うぅぅうぅぅぅぅ!!」
「——」
「魔力」がぶつかり、せめぎ合う。
闇の書は異音を上げながら頁を消費していく。
「『闇の書』っ……!!」
『<主……!!>』
立つ事も難しいはやての後ろをクロノが必死に支える。
「頑張れっ」
後ろから轟音に混じって僅かに声がはやての耳に届く。
「君は1人じゃない、——だから」
「うん、ありがとう」
僅かな小声だがはっきりと聞こえた。
「『闇の書』、主に不幸をもたらし、破壊を撒き散らすのなら——」
本を今まで以上に強く持つ。既に至る所がほつれ始め、壊れる1歩手前だ。
「その呪いみたいな運命も!!全部ぶっ壊したれええええええええええええ!!!」
『氷壁』と【咆哮】の中心が輝き閃光が全てを包み込む。
「死ね、【転生者】」
一瞬の無音の瞬間、そんな声が聞こえた。