なん だと
目覚める少女
——女性が泣いている——
顔は良く見えない、声も聞こえない、でも彼女が泣いているのだけは「わかる」。
どうして泣いているのだろう?
声をかけようとして——体が動かない。
頭から指先まで微動だにしない。声を出そうとしてもまるで出そうにない。
なんとかしないと——
必死に彼女に近づこうとする、でもそれは「いつも」叶う事は——なく、女性が「こちら」を見ている。
涙を流しながら「何か」をこちらに伝えようとしている。
——どうして——
やがて涙は血となり地面に落ち、広がっていく。
——どうして——
血は足元まで辿り着き、纏わりつくように上に這い上がって来る。
——どうして?——
血は既に腰まで溜まって来ている。女性の姿はいつの間にか消えていた。
だが声は聞こえ続けている。
——わたしじゃ、ないの——
突然後ろから強い力で引っ張られ、血の中へと体が沈む。
そして——
——どうして?わたしじゃないの?——
慟哭にも絶叫にも似た声が全身を震わせた。
「——て、——!」
あれ?声が聞こえる、誰や?
「あ——!——い?」
……体が凄くだるいんやー、もうちょっと寝させてえな。
「——!!」
あかん、体凄い揺らされとる。寝させてー。
誰やろ?シグナムかな、いやこんなに揺らしてるって事はシャマルかヴィータか?
ザフィーラはそもそも揺らさずに声だけで起こすしな。
——残念ながらそれは聞けません——
——すっげえ楽しかったぜ——
——共に在れず申し訳ありません——
——長い長い間で、一番楽しかった——
——あ
——決着を——
——ああ、ああ……!!!
「私の「勝ち」だ、滅べ【———】」
あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
「だから、目覚めうおっ!?」
「キャアッ!!?」
視界が入ってきた光に耐えきれず一気に狭まる。
「——っ!!」
体が痛い、耳が痛い、頭が痛い——!!
全身を抱きしめるように体を縮めながらしばし激痛に耐える。
その間も周囲から声をかけられているがまるで耳に入らない。
彼女の頭の中を様々な思いが巡る。
「家族」の喪失
痛みの収まってきた体は「何か」を失ってしまったように軽い。
「誰か先生呼んできて!!」
「おう!!」
「大丈夫ですか!?お気をしっかり!!」
やっと耳からも情報が入って来る。
周囲でいろんな人が自分を心配してくれているらしい。
困らせないようにしなければと思い、何とか笑顔を作って顔を上げ、
『八神はやて』の笑みが凍りついた。
何故なら——
「主はやて!!御身体は大丈夫ですか!?」
自分を心配して必死にはやてに声をかけ続けている『シグナム』達がいたのだ。
「し、しぐな、む?」
「はい!そうです主!!」
「な、なん——で」
「どうされました!?どこか御身体が!?」
目を見開いて途切れ途切れの言葉を話すはやての様子にシグナムが声をかけ続ける。
そんな中ゆっくりとはやては——
「なんで——生きとるんや?」
「主ィ!!?」
とんでもない事を口走った。
「え、だってシグナム達、シャマルに……」
「え!?私!?私が何したのはやてちゃん!?」
「落ち着くんだ湖の騎士」
「あれ?リインフォースとのユニゾン解除されたん……?」
「!?、そ、それは私の名前ですかああアアア!?」
「落ち着けえ管制人格!!」
「抑え込め!!」
はやての周囲が大騒ぎになった時。
「静かにしなさい、ここは「病室」ですよ」
僅かに苛立ちの籠った感情が入った声が部屋に響く。
はやてがその声に即座に反応する——そこには
『ヴィータ』を引き連れて【魔法使い】のイリアが入ってきた。
「「やっと」起きたようですね」
「はい、本当にありがとうございました」
「え?」
シャマルを先頭に5人がイリアに頭を下げる。
「まるで理解できていないといった表情ですね」
「え、だって……」
「まあ、仕方ないでしょう。あれだけ「色々」あれば混乱もするでしょう」
イリアは頷きベッドで上半身を起こしたはやての横に立つ。
「直接会って話すのは「初めて」ですね、改めて自己紹介を、【遠坂イリア】です。よろしく」
「……ええ?」
イリアの言葉にはやての口から疑問符が飛び出した。