きがつくとうしろに
リアルオカルトは怖さが半端ない
「私の、前の『闇の書』の主ですか……?」
「その通り、今回の事件の「主犯」はそいつだよ」
「馬鹿な!?ありえない!!」
シグナムが声を荒げて反論する。普通はそういう反応だよな。
「言いたい事は解るよ、「既に死んだ人間に出来るわけがない」。そう言いたんだろう?」
「当然だ」
「まあ、話は最後まで聞いてくれ。はやてちゃん、変な夢とか見た事無い?例えば会った事も無い人が出てきたりとか」
「——あ」
「主?」
「心当たりがあるんだね?」
「……はい」
はやてちゃんが詳しい事を話してくれる。
夢に出てきた女性の外見などを聞くとシグナム達が揃って驚く。
「……その女性は間違いなく「前」の主です」
「ええ!?ほんまか?」
「はい、……ですが」
「【彼女】は間違いなく『闇の書』の暴走に巻き込まれて死亡している」
グレアム提督がそう言ってデバイスから女性の写真を空中に映す。
黒髪に黒い瞳のこれと言って特徴の無い女性。
無表情で瞳に生気が無く、憔悴しているようにも見える。
「ほう、もっと活気があれば結構かわにょん!?」
「「……」」
「いいわフェイト、もっとやりなさい」
「病院で怪我させるのはちょっとまずいんじゃ——」
「「なにか?」」
「いや、何でもない」
クロノが何か言おうとしてフェイトとすずかちゃんの圧のある笑顔にサッと顔を逸らした。
「でもどうやってその女性は今回の事件に関与したんですか?」
リンディさんが手を上げて質問する。
「彼女は【普通】では無くてね、死んだ後に彼女の【魂】は『闇の書』の中に居たんですよ」
「ええ!?」
「な、中にですか?」
「いかにも、でも「本来」はそんなこと出来る筈はなかった」
そう、いかに【転生者】といえども【魂】になってそこまで大それた事は出来ない。
【魂】は時間と共に劣化していく。
だが——
「さっきも言ったけど幾つもの【事情】が重なったから今回の事件になった。
一つ目は【魂】が入った先が『闇の書』であった事」
『闇の書』はおかしくなっているが『闇の書』は『リンカーコア』の蒐集と保存としての機能ゆえに【魂】の劣化を最小限に抑えた。
11年という比較的短い時間fだったのも今回の事件の起きる原因の1つだ。
「次は、『管制人格』リインフォースの喪失と『防衛プログラム』の一部欠損によるエラーだ」
「もう一度名前を呼んでくれ!」
「落ち着け」
「後でな、今は話し聞こ」
「……はい」
しょんぼりしてるリインフォースを横目に話を進める。……あんなキャラだったっけ?
「本来ある筈の『闇の書』の管制を司る『リインフォース』の喪失。
そして書への攻撃等を守る『防衛プログラム』の一部の喪失。
その結果、『闇の書』の中の【彼女】の【魂】が『闇の書』の中で動き始めたんだよ」
「そんな……」
「あれ?防衛プログラムの一部ってイリアちゃんが剥がしちゃったんじゃなかったっけ?」
「そんな事もありましたね」
「ちょっとお!?」
「また【魔法使い】か」
「ぶっ飛ばしますよ」
「……!……!」
「あ、やっぱり止めます」
「……!?」
敏彦の発言にイリアが拳を握りながら応えると期待した目で敏彦がイリアを見つめる。
イリアがあっさり目を逸らした。
敏彦が悲しそうな目でイリアを見ている。
後ろでフェイトとすずかちゃんが物凄いオーラを込めた笑顔で敏彦を見ている。
ナニコレェ……
周りの人達が「話を進めて!」って目でこっちを見ている。
「……話を進めるけど、『闇の書』の中で彼女の【魂】がゆっくり表層に出てきた。
そして「目的」の為に動き出した」
「も、目的ですか?」
はやてちゃんが少し怯えた感じで聞いてくる。
そりゃ仕方ないか。
『闇の書』の中に死人の【魂】があって、それが今回の長期昏睡の原因なんて言われたら誰だって怯えるな。
それが9歳の少女なら尚更だ。
「一体何が目的だったんだ?」
「それはね」
全員がこちらに注目してくる。
「『八神はやて』の身体を乗っ取る事さ」
「「「「「ええええええええ!?」」」」」
「の、乗っ取るって……!?」
「そのままの意味さ、君と中身を入れ替えて『八神はやて』に「なろう」としたのさ」
「そ、そんな馬鹿な——!?」
「しようと思えばできますよ」
「「「「「!?」」」」
イリアがあっさりと言い放つ。
「ただ【中身】を入れ替えるだけなら簡単です」
「そ、そんな……!!」
クロノ達が驚愕した表情でイリアの言葉を聞いている。
「ですが人とは繊細な存在です、【入れ物】が合わなければ中身は簡単に【腐ります】」
「く、腐るって……!?」
「あくまで比喩的な表現です、実際は時間をかけて【魂】が崩壊していきます」
「う、うわあ……」
イリアのストレートな言葉に皆がドン引きしてるんですけど……
「普通ならそれだけじゃはやてちゃんを乗っ取る事は出来ない。
だけど——【小山田顕】。
彼がいた事で【彼女】の望みは実現できそうになったのさ」