なげえ
『闇の書』の終焉、上
夜の海鳴市に爆音が響く。色とりどりの光線が夜空を彩り、染め上げる。
その直後に発生する無数の爆発。
そして空を飛ぶ無数の「人影」。彼等は「何か」と戦っている。
街の住民は誰1人外に出て来ない。否、『この世界』には『彼等』以外には生き物は存在しないのだ。
「くそっ!!増援を呼ぶんだ!」
「り、了解!」
「奴等は!?」
「駄目だ!振り切れない!もうすぐ接触するぞ!!」
同じ『バリアジャケット』を着込んだ4人の男性が必死の表情で空を飛びながら会話をする。
「こちらアースラ武装隊第6班!『分体』2体と戦闘中!援護を要請します!!」
『こちらアースラ、現在回せる戦力はありません。現存の戦力で撃退願います』
「無理だ!!このままでは『蒐集』されてしまう!!」
『もう少し時間を稼いで下さい、現段階で全ての部隊が現在交戦中です』
「くそ!!了解だ!!」
目の前の画面で冷静に対応するオペレーターに悪態をつきながら画面を閉じる。
「なんだって!!」
「駄目だ!回せる戦力は無いそうだ!!」
「2体も無理だ!!」
「やるしかないだろう!?ここが『闇の書』を完全に破壊できる最大のチャンスなんだぞ!!」
仲間の悲観的な意見をリーダー格の男性が仲間を何とか鼓舞する。
彼等は全員がこれ以上ない程の意志を持って今回の作戦に参加している。
第1級捜索指定ロストロギア『闇の書』
破壊不能と言われたこのロストロギアが今回破壊できるチャンスを得たと言う。
男性は迎撃の準備を始めながらその時の話を思い出していた。
−− −−
大規模な会議室に100名近い人々の声が交錯する。
「どうしたんだ一体?」
「知るかよ、事前説明無しで緊急集合とか聞いた事無いぜ」
「『アースラ』と『ラーファン』2艦の同時任務か、相当な事だぞ」
「リンディ提督とロウラン提督か、2人とも相当の切れ者だぜ」
「そんな2人が合同で当たる任務なんて何か噂とか聞いたか?」
「いや、特に聞いた事無いな」
「最近妻が冷たいんだけどどうしたらいいと思う」
「……すまん、言葉が無い」
様々な憶測が飛ぶ。
曰く、次元世界規模の緊急事態を想定しての訓練だとか——
曰く、大規模犯罪組織の一斉摘発だとか——
曰く、リンディ提督たちによる本局へのクーデターではないかと——
「全員起立!!」
一番前のモニターの横に立っていた50歳程の管理局員の声に喧騒は一瞬で消え椅子から立ち上がる音だけが響く。
「提督入室!!」
その言葉に全員が乱れる事無く一斉に敬礼する。
するとドアがスライドして最初に入って来たのはアースラ艦長の『リンディ・ハラオウン』提督。
次に入って来たのは時空管理局本局運用部の提督で、今回かつて艦長を務めていたラーファンを指揮する事になった『レティ・ロウラン』提督。
そして——
「おい、あの人は……」
「なんであの人が……」
室内がざわめきに満ちる。
その原因たる人物は時空管理局顧問官を務める管理局の重鎮、『ギル・グレアム』提督だった。
「静まれ!!」
老齢の管理局員の一喝に室内がやっと静まる。
3人の提督はモニター前に置かれた長机に置かれた簡素なパイプ椅子に座る。
「——それでは今回、緊急に集まってもらった「理由」を説明します」
リンディ提督がマイクを手にとって説明を始める。
「今回の我々の任務、それは——『闇の書』の「完全破壊」です」
その言葉に室内が一気に騒がしくなった。
その光景を見ながらリンディ提督は溜め息を堪えながら【魔法使い】達の言葉を思い出していた。
−− −−
「それで「提案」とは?」
リンディさんが訝しげにイリアに尋ねてきた。
凄い怪しまれてる……あんなに良い笑顔で言うから……
「簡単な話です、『闇の書』を『管理局』に破壊してもらいます」
「ぐおっふぉっ!?」
「クロノ君!?」
あ、錠剤をボリボリ食べてたクロノがむせた。
エイミィが心配そうに背中をさすってる。
「……どういう事かね」
グレアム提督は渋い表情でこめかみを押さえながら聞いてくる。
使い魔達も心配してるな。
「そのままの話ですが?」
「……えーと、時臣君説明をお願いできるかな?」
クライドさん、なんでこっちに振るんですか。
イリアがちょっと不満そうにしてるし。
「掻い摘んで説明すると正式に、歴史的に『闇の書』を消滅させるってこと」
「だが、『闇の書』は既に……」
「だからこその「提案」なのさ」
「どういう事ですか?」
なのはちゃんが頭を傾げながら聞いてきた。
「なのはちゃん、『闇の書』が次元世界で何て言われてるか知ってるかい?」
「あ、はい……えっと、あんまり良い話ではないと……」
「じゃあ、聞くけどその『闇の書』の主であるはやてちゃんは?」
「え、えっと……凄く気まずい?」
……まあ、間違いではないね。
「『闇の書』は管理局もそれ以外からもかなり恨まれてる。怪我人も出たし、
——無論「死人」も出ている」
——死人、
その言葉にはやてちゃんの肩が震える。
「『闇の書』が消えても、その守護騎士が存在している」
守護騎士達を見る。彼等ははやてちゃんを守るように立ち塞がっている。
別に責めてる訳じゃないんだけどなあ……
「被害者にとって「存在」している事自体が問題なのさ」
リンディさん達を見る。
リンディさんは何かを考えるように、
クライドは目を瞑っている。
クロノはただじっとはやてちゃん達を見つめている。
「でも、先生。はやてのは『闇の書』じゃなくて『夜天の書』だって言う言い訳は無理ですか」
アリサちゃんが手を上げて発言する。
『闇の書』の真実については最初にグレアム提督から皆に説明してもらっている。
——確かに「誰も知らなければ」それは使える案だろう。だけど——
「残念だけどそれは無理だね、既に管理局がチームを組んで無限書庫で調査をしてるよ」
「それは本当か!?」
グレアム提督が身を乗り出して聞いてくる。
「間違いないよ、もう『闇の書』が『夜天の書』が変異した物だって調べがついてるよ」
「じゃあ……?」
「ああ、その案は通じないよ」
俺の言葉に部屋の空気が重くなる。
「じゃあプランAは無理か、て事はプランB?」
「ああ?ねえよ、そんなもん」
「無いんですか!?」
「あ、ごめんあります」
「「「「「……」」」」」
ぐおっ!?つい敏彦の言葉に反応したら視線が痛い!!
「ご、ごめん。「提案」て言うのはプランBでね。この案を使って『闇の書』の恨みつらみを解決しようって話さ」
「でもどうやってやるのよ?」
「守護騎士ヴォルケンリッターとはやてちゃん達に『闇の書』を倒してもらうのさ」
そう言って俺は何冊もの「本」を取り出した。
「——では詳細をリンディ・ハラオウン提督に説明してもらいます。ハラオウン提督」
「わかりました」
促されリンディ提督はマイクを持って立ち上がる。
「では今回の大まかな作戦の内容を説明していきます」
リンディ提督の言葉と共にモニターに海鳴市の上空からの全景が映される。
「ここは第97管理外世界『地球』の『海鳴市』と呼ばれる街です。
現在『闇の書』がこの街にある事が確認されています」
『地球』、『海鳴市』と言うワードに何割かの局員達が何かに気づいて周囲にひそひそ話し始める。
「地球って確か……」
「ああ、『PT事件』のあった場所だ」
「どういう事だ?地球はそういう事象が集まるのか?」
「わからん……情報が少なすぎる……」
「グレアム提督がいるのは……?」
「そういえば11年前に……」
「静かに」
リンディ提督の決して大きくはないが迫力のある一言に再び静まりかえる。
「『闇の書』はどんなに破壊しても転生してしまいます。
11年前もあと一歩の所で転生されてしまいました」
一度言葉が詰まる。事情を知っている人は目を瞑ったり、目頭を押さえたりしている。
「それゆえに『闇の書』が稼働する度に必ず何かしらの被害が出ていました」
局員達はそれぞれ様々な表情を浮かべる。
中には知り合いに被害者がいるのだろうか。
拳を握り締めたり、強い視線でモニターに映る『闇の書』を睨みつている者もいる。
「そしてグレアム提督と本局の調査により、『闇の書』を破壊する方法が発見されました。
——グレアム提督」
リンディ提督がグレアム提督にマイクを渡す。
「——私がここ最近調査の対象になっているのは皆も知っていると思う。
それは私が単独で『闇の書』の破壊を目指していたからだ」
グレアム提督の言葉に室内の殆どの局員が息を飲む。
「1人で無限書庫で調査を続けた結果、『闇の書』の破壊を可能とする方法を見つけた。
それは——「『闇の書』と同時に製作された『魔導書』による中枢破壊」だ」
「『闇の書』の対となる『魔導書』だと!?」
俺が渡した「本」、「『闇の書』に関する資料」を呼んでいたグレアム提督が大声を上げる。
日本語、ミッド語、両方ちゃんと用意しました。
「こんなの聞いた事が無いぞ……」
「シグナム達は聞いた事あるん?」
「いえ、申し訳ありません……聞いた事がありません」
「あたしもねえなあ」
「わ、私もです……」
「どこでこの情報見つけたんだい?」
「見つけてないよ?」
「え」
俺の答えに皆がポカンとした顔になる。一番早く再起動したのはクロノ。
「ま、まさか……」
「ああ、これは俺達【魔法使い】がでっちがえた【設定】さ」
−− −−
「——グレアム提督」
最前列に座っていたベテランの武装隊員が手を上げる。
「質問よろしいでしょうか」
「——なにかな?」
「自分も11年前に『闇の書』事件に提督の下で関わりました。
しかしそんな情報は聞いた事がありません。
……そんな『ロストロギア』存在するのですか?」
「——ある。私は11年間その『魔導書』を探し続けていたのだ」
「では——」
「ああ、私は数年前、その『魔導書』とその主を見つける事が出来た」
「ほ、本当ですか……!?」
「勿論だ、『闇の書』の悲劇を——終わらせる」
グレアム提督の言葉に会議室の熱気が一気に上がった。
−− −−
「どうしますか班長!?」
「無論迎撃だ!!」
仲間の言葉に一気に現実に引き戻される。
既に班員全員が迎撃の準備を整えている。彼自身も思い出しながらも迎撃の準備を完了している。
「あとどれくらいだ!?」
「もうすぐ——」
「!!、全員シールドを張れえええええ!!!」
直観的に、咄嗟に叫ぶ。
全員が弾かれたように瞬時に周囲にシールドを張る。
直後——彼等のいた場所に複数の『魔法』の弾が叩き込まれた。
「ぐ、うう……!!」
一瞬意識が飛んだ間に倒れていた班長は痛みを無視して体を起こす。
「だ、大丈夫か……!?」
「な、なんとか……」
「……これって特別手当出ますか」
「……無理じゃねえか?」
「大丈夫そうだな」
怪我をしながらも軽口を叩いている班員を見て安堵する。
だが——すぐに上空に現れる強大な『魔力』を感じて全員が上を見上げる。
そこには——
『闇ノ……書ノ……完成ヲ……』
片言で同じ言葉を繰り返し呟く「影」のような10歳程の少女の姿の形をした「人型」
手には大きなハンマーのようなデバイスと思われる物を持っている。
「くそ!もう来たのか!!」
「時間を稼げ!!」
4人がデバイスを構え2人はシールドを張り、2人はデバイスから魔法弾を放って牽制する。
しかし弾幕を容易くかわし、1人の班員の胸元に飛び込み1人を吹き飛ばす。
「ぐわあっ!!」
「くそっ、早い!!」
「諦めるな!!」
吹き飛ばした班員に近づいていく「人型」に3人が必死に動きを止めようとする。
だが周囲にシールドが張られているのか全く動きを止める事が出来ない。
「に、逃げてくれ!!」
「馬鹿野郎!!そんなこと出来るか!!」
「だけどこのままじゃ……!!」
「人型」がゆっくりとデバイスを振り上げる。
「やめろおおおおお!!」
「止めるんだああああああ!!」
「くそおおおおおお!!」
『闇ノ書ヲ……、……!?』
突然「人型」が『盾』のようなシールドを展開する。
直後『矢』のような物が『盾』と衝突し、——『盾』を貫き「人型」をも貫いた。
貫かれた「人型」は一気に形を保てず消えていく。
「な、なにが……!?」
「わ、わからん……」
「へ、遅いじゃねえか……」
班長が笑みを浮かべながら呟く。そして——
「——遅くなって済まない」
「遅刻だぜ、『騎士』さんよ」
「ならば遅れた罰は戦功によって償おう」
「おう、頑張ってくれ。俺達はちょっと休憩するわ」
「わかった、ここは任せてもらおう」
班長の声に上から返事が返ってくる。
白を基調に所々に青が入った純白の『騎士』服。
ピンク色の腰まで長い髪を纏めている。
手には機械的な長剣を携えている。
そこへ新たな「人型」が飛来する。
「私は主はやての騎士『シグナム』——参る!!」