再び投稿が遅れてしまいすみませんでした。
私生活が忙しかったんです。
はい、言い訳ですね、すみません。
でも今回は1ヶ月くらいしか間が空いてませんよね?
はい、五十歩百歩ですね、すみません。
感想はとても嬉しいです。
励みになっています。
仇敵との婚約
「どうしたんだアリスト、表情が引きつっているぞ」
やあ、アリストことアリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールだ。数ヶ月前に年が10歳になった。
「まあ、気持ちは分かるがな。日ごろから家では質素なものを食べていると豪華なものを目の前にした時、つい気後れしてしまうのは仕方の無い事だ。
しかしお前がスクウェアになってからは、このような場に出る事なぞ両手の指で数え切れぬほどあっただろう。
なぜ今日はそれほど緊張しているのだ?」
領地改革の方は今年になってようやく戸籍作成が完了した。その結果、驚いた事に領内の人口が調査前よりも8000人ほど増加した58000人だったことが分かったのだ。
まあ、その分作物の収量も増加したので出費が増える事にはならなかった。
結果的に戸籍調査の利益は汚職の取り締まりで浮いた金額だけであったが、それでも領内の事を正確に把握できるのは今後の領地改革において最も重要な要素になる。
父さんは人口増加分だけ税金徴収額を増やそうとしていたが、それは止めさせた。
8000人分の徴税を免れている現状ですら毎日を何とか食い繋いでいる状況なんだ。
これ以上民衆からの徴税額を増加させれば、デュステール領に領民が存在しなくなるだろう。
父さんも僕の説明を聞いて何とか納得してくれた。
「・・・・・・もしやまだ怒っているのか?」
翼人達は集落の移動を完了させて森の傍で暮らしている。
山脈に造らせている街道は完成の見通しが全く立っていないが、希少植物の栽培は順調そのもので、収穫量を維持するどころか増加する勢いだ。
現在は希少作物で得た利益の一部を投資して、収穫量増加計画を立てている。
「確かに今まで黙っていた事は悪かったと思っている。しかしお前も貴族なのだ。
馬車の中ではあれほど落ち着いていたのに、何故ここにきてそれほど頑なになっているのだ!」
農地改革はまだ目立った効果が表れてない。これに関しては2年足らずの改革で効果が出るものでもないので、地道に土地改良を続けている。
兵士に改革の効果について聞いてみたところ、『改革前に比べて今年の実り具合は良くなっていると言われれば、微妙に良くなっているような気がしないでもないと思います』と言うような答えが返ってきた。
ついでにこの兵士は一日の内、武器を持っている時間より
中には『ここ数年は武器を持っていません』『えっ、この鍬って正式装備ではないんですか!?』という
そうそう、最近———
「アリストよ、いい加減私の言葉に答えてくれ。
・・・・・・すでにこの
「現実逃避です」
改めまして——————僕、アリストことアリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールは10歳になった。
現在、仇敵であるセリューネ公爵家主催のパーティーに出席している。どうやら公爵家四女の誕生パーティー兼婚約パーティーらしい。
・・・・・・うん、僕との婚約パーティーだね。
「———いやはやデュステール侯爵、アリスト殿、今回は婚約おめでとうございます。
それでは私はこれで」
そう言って僕と父さんの前から離れたのはセリューネ公爵派の主要貴族が一角、トレイブ伯爵家の当主だ。
でっぷりと肥えた腹部を持つ彼はテーブルの上に並べてある豪華な肉料理をとてもおいしそうに食べ始めていた。ご飯を食べている時の彼は本当に幸せそうだ。
「ははは、トレイブ伯爵は相変わらず食事に目が無いようだ。
デュステール侯爵にアリスト殿、彼のあれはいつものことなのでどうかお気になさらず」
伯爵の行動を見て同じくセリューネ公爵派の主要貴族の1つであるリュネ子爵家の当主が苦笑いしながら僕達に話しかけた。
「なるほど。
そういうことならば私は気にするまい」
「確かに・・・トレイブ伯爵の食事を見ていると私では思わず胸焼けをしてしまいます。
伯爵が今日食べる食事は私の一週間分の食事量を超えてしまうのではないのでしょうか?」
父さんが無難な答えを返し、僕がうまくもないジョークを言うと僕達の周囲にいた人達が一斉に笑った。
僕と父さん以外は皆、セリューネ公爵派の貴族たちだ。彼らだけではない。このパーティー会場にいる数十人の貴族たちは皆がセリューネ公爵派の貴族の当主達である。
僕はあらためてセリューネ公爵家の権勢を思い知った。
ついでに先ほどのジョークは我が家の貧相な食卓では実現してしまうのは悲しい現実だ。
僕と父さんが暫く入れ代わり立ち代りでやってくるセリューネ派の貴族たちと話していると、会場の出入り口付近がにわかに騒がしくなった。
ようやく主役のお出ましかな?
思えば今まで散々目の敵にしてきたが、セリューネ公爵と会うのはこれが初めてになる。さて、僕の童貞道を阻まんとするのは一体どんな若造かな・・・!?
自分の口角が釣りあがるのを感じていると、なにやら僕の服を掴む感触があった。
感触のあった腕を見てみると、服の端を可愛らしく摘む手がある。
僕はその手が伸びている先を見ると・・・・・・
「ア、アリストよ・・・私はなんだか緊張してきたぞ」
父さんが恥ずかしそうにそう言った。僕の服の端を摘みながら。
なんだろう・・別に父さんが悪い事をしている訳じゃないのに・・・無性に父さんを殴りたくなった。
というかいい年をした大の大人が緊張したからって10歳児の服を掴むなよ。普通逆だろ。
僕が父さんをじとじとした目で睨み、父さんが僕の服を摘みながらオロオロしていると奴はやってきた。
「遅れてしまって申し訳ない。
私はセリューネ公爵家当主、モリエール・ラ・プイサンス・ド・セリューネだ。
こうして会うのは初めてになりますなデュステール侯爵、そしてアリスト殿」
ガリア王家の血を引いている事を示すやや薄い青髪、服の上からでも分かる程よく筋肉がついた肉体、そして一度見たら忘れる事ができないほどのカリスマを秘めた眼光。
僕の警戒心が一気に高まる。
セリューネ公爵は僕の想像を超えた傑物だったようだ。特にあの眼光はヤバイ気がする。
彼の後ろに小さな子供が隠れているようだが、そんな事よりも僕は公爵への警戒に集中した。
「気にしないで欲しい公爵。中々に楽しい時間を過ごさせて貰っている」
父さんは僕の服から手をサッと離して対応した。
一見、しっかりとした態度に見えるが、後ろに隠した手が小刻みにプルプルと震えているのが僕からは見えてしまっている。
「そう言って貰えると助かる。
ほら、お前も私の後ろに隠れていないで侯爵たちに挨拶しなさい。
前々から話していたお前の婚約者もいるのだぞ」
公爵は父さんの言葉を聞いて穏やかに微笑むと、彼の後ろに隠れている子供を僕達の前に出した。
「・・・・・・ほう」
その子供を見て僕は微かに簡単の声を漏らしてしまう。
公爵よりもさらに薄く、光が反射し輝く青髪は背中まで流れ、キラキラと輝く碧眼は身長の差もあり上目遣いで僕を見る。
よく出来た人形のように整った目鼻立ちは、彼女が将来美しく育つ事を予見している。
「は、はじめ、まして、セリューネ家の、4女の、セラス・ラ、ルフェ・ド、セリューネ、です」
所々言葉に詰まりながら、舌足らずな口調で彼女は僕達に可愛らしく自己紹介をする。
この少女が僕の婚約者になったセリューネ家4女・・・か。
自己紹介をした後オロオロと僕たちとセリューネ公爵を見ている彼女は非常に可愛らしい。
ちらりと横目で見た父さんは彼女の愛らしさに早くも陥落寸前で、表情が緩んできている。
僕もロリコンという訳ではないけど彼女を見て少し胸の鼓動が早くなるのを感じた。
ごめん嘘ついた。
僕は ロ リ コ ン だ。
「はじめましてお嬢さん。
私はデュステール家が嫡男、アリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールです。
この度は貴女の婚約者となれて天にも昇る想いです」
僕はそう言って彼女の手をとり、手の甲に軽く口づけをした。何度もパーティーに行くとこんなもの慣れたものだ。
しかし初心な彼女は顔を赤くして俯いてしまった。
そんな彼女の反応を見て思わず心が穏やかになってしまう。
しっかりしろ僕、今は仇敵の前なんだぞ!!
僕はすぐさま気を引き締め、緩みかけた口元を戻す。
「話には聞いていたが随分と聡いものだ。
いやはや、最年少スクウェア、始祖ブリミル以来の大天才の名は伊達ではないようだな」
セリューネ公爵は目を細めて僕をじっと見た。
態度こそ落ち着いているが、その目は予想以上の獲物に興奮した狩人のようだ。
「いえ、そう大したものではありませんよ。
この程度ならば社交の場に出れば嫌でも身につくものです」
僕はやや困ったように笑う。傍目からは過大な評価に釣り合おうと苦労している子供に見えるだろう。
しかし目だけは冷ややかに、興奮するなと
ここで公爵に露骨な敵意を向けるのは当然ながら危険な事だが、あまり彼の思い通りにさせていると、彼の勢いは止まらず我が家への干渉を強めてくるだろう。
それはまずいので、僕は彼の勢いを危険にならない程度に削らなければならない。
我が家はまだセリューネ家に
「・・・・・・ほう。
全くもって大したものだ。
私は急にアリスト殿と話がしたくなったぞ」
効果は抜群のようで、彼の瞳から興奮の色は薄れて最初の瞳に戻りかけている。
僕はすかさず目から冷ややかな色を消して、感情を感じさせない穏やかな色に切り替えた。
「なんでしょうか公爵?
私で良ければ喜んでお相手しますが」
本来ならば侯爵家とはいえ家督を継いでいない身の上で公爵家当主を爵位で呼び捨てる事は礼儀知らずとなるが、僕の場合は最年少スクウェアということでそれなりの権威を持っている。
ゆえに誰からも僕の言葉遣いを咎められる事はない。
公爵は僕の言葉ににやりと笑った。
「そうか、それは良かった。
では今夜さっそく話がしたい。パーティーが終わった後、貴殿の部屋に使いを送る。よろしいかな?」
どうやら今夜にも勝負を仕掛けてくるようだ。
出来る事ならばパーティーの後は10歳児の体力ゆえに勝負は止めて欲しいのだがね。
横目でチラリと伺ったところ、父さんは僕が評価されて喜んでいるだけで全く役に立たない。
僕の婚約者であるセラスお嬢さんは未だに顔を赤くしてオロオロしてらっしゃる。
どちらも話を中断させる材料にはなりえない。
はあ、仕方ないか。
「ええ、分かりました。
今夜は部屋で大人しくしておきましょう」
「では、今夜また。
良かったら私達の挨拶巡りが終わった後はセラスと遊んでやってくれ。
失礼する」
セリューネ公爵はセラスちゃんの手を取り違う貴族のところへ行ってしまった。
パーティーの主催者というのも苦労するものだ。
僕は公爵たちの背中を見ながら、彼らの苦労に鼻で笑った。
しかし今夜は面倒な事になりそうだ。僕は軽くため息をつき後ろの父さんに振り返った。
父さんはいつの間にやら皿に料理を取って食べていた。家の食卓ではまず見る事のできない柔らかそうなステーキをパクパクと口に入れて、おいしそうに
無性に父親を殴りたくなった。
天井に何個も吊るされている豪奢なシャンデリアは広間にいる人々を眩い光で照らす。
その中には父親を冷めた目で見る子供の姿があった。